スーパーやコンビニのように整備 作業環境:5S、ムダ(その7)

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 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第7回目となります。

 

◆ よい整理整頓、整備の手本は街の中に

1. 工場は何もしないと乱雑になってしまう

 工場内は毎日生産活動を行っているので、多くの工程で常に材料や治工具類の移動や取り置きが発生しています。受入部門での開梱作業に始まり、棚や置き場への材料運搬や取り置き作業が続きます。そして、各工程への材料や金型、治工具の投入・片付けなどの段取り作業、加工による廃材の排出や治工具の取り置き作業など、製品出荷まで1つの素材であっても、何度も移動や取り置きが発生しています。その都度、決められた場所や方向に、決められた数だけ、決められた方法で取り置きしなければなりません。その経路を追っていくと、まるでスパゲッティーのようにぐるぐるとトグロを巻く状態になります。それを毎日繰り返していますが、それは大変な労力です。

 それを1つでも放置しておくと、自然に周囲が段々と乱れてきます。この現象をエントロピー増大の法則[1]というようですが、きちんとした状態はいつまでも続くことはなく、その秩序は次第に無秩序に向かうというのです。

 乱れた工具箱や材料置き場をそのまま放置すれば、自然に綺麗(きれい)に片付くことはありえないことです。そのため人が定期的にあるべき姿に戻す作業をしなければなりません。しかもその作業はできるだけ短いサイクルで行った方が楽にできます。まとめてやればやるほど労力が掛かってしまい、元に戻しにくくなるものです。しかも、もの探しのムダな時間が多くなってしまいます。

 

 心理学者が人間の一生の時間割を観察したところ、6~7割が睡眠や仕事、食事、トイレなどで、なんと1分前のことでさえ思い出せず、探している時間が3割もあったというのです。これは驚きですが、その対策にポケットにはいつも小さなメモと3色ボールペンを入れています。メモすることで思い切って忘れることができ、ストレスをなくし、もの探しの時間の節約になります。

 ある工場の視察で訪問した時、毎日の掃除時間が決められていませんでしたが、非常に綺麗な職場になっていました。従業員に尋ねると「汚れたと思ったらすぐ清掃するため、特に時間は決めていない」というのです。かなり自律化された職場だと感心しましたが、それだけではないと思い「本当はどうなんですか?」とさらに突っ込んで聞いてみると、頭を掻(か)きながら「実は工場長がえらく5Sに厳しいのですわ。しかも抜き打ちのようにいつも巡回しているのです」と返ってきました。どの職場も見事に整備されていたので、汚れたり乱れたりしたらすぐ元に戻すことが習慣化されていたことに感心しました。

 やはり自然の法則に逆らうエネルギーが絶対に必要なのです。小まめに整理整頓して片付けて、賞味期限のある人生という時間を有効に使いたいものです。

 

2. 改善のヒントは身近にあるものを利用しよう

 よい事例を挙げるのに他社の事例を紹介するよりも、街の中の様子を示した方が皆さんは納得するようです。ある会社の事例は確かになるほどと思われますが、あの会社とうちの工場は違うのでと言い訳が始まります。街の商店のショーウインドーは、いつも見知らぬお客様に売りたい商品をガラス窓越しに見せてくれています。「魅せて」の方が表現がよいかもしれません。お客様がこの商品を買いたいという衝動に駆られる力が、ガラス窓を通して働いています。ショーウインドーの展示は売り上げに直結しているので、売り手も必死にディスプレイに頭を悩ましているでしょう。

 コンサルティングをしていて「工場はショールーム」という考え方を、各工場にスローガンとして提案しています。お客様が工場を訪問された時に生産現場をご覧になって、その印象で取り引きの成功確率が相当違ってくるものです。人は見た目の第一印象で、その人の9割を判断するというメラビアンの法則[2]が大きく影響してきます。

 

 もう一つの事例がスーパーマーケットやコンビニエンスストアです。これは誰でも気軽に商品を買うことができます。しかも商品とその表示(工場にはない値札が必ずあります)はいつも整備されており、しかも欠品もほとんどなく、すぐに補充もされます。これらの店の特徴は、明るく綺麗で清潔なことが挙げられます。店に入ってから探してみて、いちいち店員に尋ねることがあるようなわずらわしさがあれば、その店にはもう足を運ばないでしょう。パッと見れば、ワッと感じるくらいの良い環境をつくりたいものです。

 蛇足ですが、女性は見られる環境があればより美しくなるようです。キャビンアテンダント(和製英語)、通称「スッチー(スチュワーデス)」の方は、見られることで身だしなみをさらに良くし、姿勢もシャキッとしています。そして何よりもいつも笑顔を絶やさないことが、より好感度を上げています。皆さんの奥様にも髪型が変わった時などぜひ一言「素敵になったねえ」とおっしゃってあげて下さい。「あらまあ、いやだ」といいながらも笑顔がこぼれて、自然に料理が一品増えますよ。これも褒める訓練であり、習慣化したいものです。家庭内でできれば、必ず職場でもできるようになります。まずは身内からどうぞ。

 

3. 店のように誰が見ても分かる現場に

 さて生産現場ではどうでしょうか。使った治工具が綺麗にして元の位置にきちんと戻されているでしょうか。汚れたままの設備や機械が放置されていませんか。それらは材料に付加価値をつけてくれる大切な道具であり、財産でもあります。飛行機の整備工場では、工具一つひとつの管理が当たり前になっており、ポカヨケも取り入れてあります。工具が一つでも機内に残っていると大惨事になり兼ねないので確実に実施されています。でも毎日作業していると脳も緊張感をなくし、その乱雑さが見えなくなってしまうのです。やがて加工不良だけでなく、災害にもつながってしまうものです。

 スーパーやコンビニはいつでも整理整頓されていますが、それはいつ誰が店に来ても気持ちのよい買い物ができるように、店員の方が心を込めて整理整頓してい...

5S

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第7回目となります。

 

◆ よい整理整頓、整備の手本は街の中に

1. 工場は何もしないと乱雑になってしまう

 工場内は毎日生産活動を行っているので、多くの工程で常に材料や治工具類の移動や取り置きが発生しています。受入部門での開梱作業に始まり、棚や置き場への材料運搬や取り置き作業が続きます。そして、各工程への材料や金型、治工具の投入・片付けなどの段取り作業、加工による廃材の排出や治工具の取り置き作業など、製品出荷まで1つの素材であっても、何度も移動や取り置きが発生しています。その都度、決められた場所や方向に、決められた数だけ、決められた方法で取り置きしなければなりません。その経路を追っていくと、まるでスパゲッティーのようにぐるぐるとトグロを巻く状態になります。それを毎日繰り返していますが、それは大変な労力です。

 それを1つでも放置しておくと、自然に周囲が段々と乱れてきます。この現象をエントロピー増大の法則[1]というようですが、きちんとした状態はいつまでも続くことはなく、その秩序は次第に無秩序に向かうというのです。

 乱れた工具箱や材料置き場をそのまま放置すれば、自然に綺麗(きれい)に片付くことはありえないことです。そのため人が定期的にあるべき姿に戻す作業をしなければなりません。しかもその作業はできるだけ短いサイクルで行った方が楽にできます。まとめてやればやるほど労力が掛かってしまい、元に戻しにくくなるものです。しかも、もの探しのムダな時間が多くなってしまいます。

 

 心理学者が人間の一生の時間割を観察したところ、6~7割が睡眠や仕事、食事、トイレなどで、なんと1分前のことでさえ思い出せず、探している時間が3割もあったというのです。これは驚きですが、その対策にポケットにはいつも小さなメモと3色ボールペンを入れています。メモすることで思い切って忘れることができ、ストレスをなくし、もの探しの時間の節約になります。

 ある工場の視察で訪問した時、毎日の掃除時間が決められていませんでしたが、非常に綺麗な職場になっていました。従業員に尋ねると「汚れたと思ったらすぐ清掃するため、特に時間は決めていない」というのです。かなり自律化された職場だと感心しましたが、それだけではないと思い「本当はどうなんですか?」とさらに突っ込んで聞いてみると、頭を掻(か)きながら「実は工場長がえらく5Sに厳しいのですわ。しかも抜き打ちのようにいつも巡回しているのです」と返ってきました。どの職場も見事に整備されていたので、汚れたり乱れたりしたらすぐ元に戻すことが習慣化されていたことに感心しました。

 やはり自然の法則に逆らうエネルギーが絶対に必要なのです。小まめに整理整頓して片付けて、賞味期限のある人生という時間を有効に使いたいものです。

 

2. 改善のヒントは身近にあるものを利用しよう

 よい事例を挙げるのに他社の事例を紹介するよりも、街の中の様子を示した方が皆さんは納得するようです。ある会社の事例は確かになるほどと思われますが、あの会社とうちの工場は違うのでと言い訳が始まります。街の商店のショーウインドーは、いつも見知らぬお客様に売りたい商品をガラス窓越しに見せてくれています。「魅せて」の方が表現がよいかもしれません。お客様がこの商品を買いたいという衝動に駆られる力が、ガラス窓を通して働いています。ショーウインドーの展示は売り上げに直結しているので、売り手も必死にディスプレイに頭を悩ましているでしょう。

 コンサルティングをしていて「工場はショールーム」という考え方を、各工場にスローガンとして提案しています。お客様が工場を訪問された時に生産現場をご覧になって、その印象で取り引きの成功確率が相当違ってくるものです。人は見た目の第一印象で、その人の9割を判断するというメラビアンの法則[2]が大きく影響してきます。

 

 もう一つの事例がスーパーマーケットやコンビニエンスストアです。これは誰でも気軽に商品を買うことができます。しかも商品とその表示(工場にはない値札が必ずあります)はいつも整備されており、しかも欠品もほとんどなく、すぐに補充もされます。これらの店の特徴は、明るく綺麗で清潔なことが挙げられます。店に入ってから探してみて、いちいち店員に尋ねることがあるようなわずらわしさがあれば、その店にはもう足を運ばないでしょう。パッと見れば、ワッと感じるくらいの良い環境をつくりたいものです。

 蛇足ですが、女性は見られる環境があればより美しくなるようです。キャビンアテンダント(和製英語)、通称「スッチー(スチュワーデス)」の方は、見られることで身だしなみをさらに良くし、姿勢もシャキッとしています。そして何よりもいつも笑顔を絶やさないことが、より好感度を上げています。皆さんの奥様にも髪型が変わった時などぜひ一言「素敵になったねえ」とおっしゃってあげて下さい。「あらまあ、いやだ」といいながらも笑顔がこぼれて、自然に料理が一品増えますよ。これも褒める訓練であり、習慣化したいものです。家庭内でできれば、必ず職場でもできるようになります。まずは身内からどうぞ。

 

3. 店のように誰が見ても分かる現場に

 さて生産現場ではどうでしょうか。使った治工具が綺麗にして元の位置にきちんと戻されているでしょうか。汚れたままの設備や機械が放置されていませんか。それらは材料に付加価値をつけてくれる大切な道具であり、財産でもあります。飛行機の整備工場では、工具一つひとつの管理が当たり前になっており、ポカヨケも取り入れてあります。工具が一つでも機内に残っていると大惨事になり兼ねないので確実に実施されています。でも毎日作業していると脳も緊張感をなくし、その乱雑さが見えなくなってしまうのです。やがて加工不良だけでなく、災害にもつながってしまうものです。

 スーパーやコンビニはいつでも整理整頓されていますが、それはいつ誰が店に来ても気持ちのよい買い物ができるように、店員の方が心を込めて整理整頓しているからです。それは売り上げに直結しているからで、それが悪ければ隣の店にお客様は去ってしまいます。工場には毎日訪問者があるとは限りませんが、整備されていつも材料、治工具、設備や機械がすぐに使える状態にしておくことで、原価を簡単に低減させることができます。しかもそれは皆さんの給料に反映します。もの探しがなくなれば、生産に時間を投資できて売り上げを上げることができます。よい整理整頓、整備の手本は身近にあるもので、工場の現場といつも比較しながら、良い点はすぐに見習い、即実施していくことを習慣化したいものです。

 次回は、現場改善:「作業環境:5S、ムダ (その8) 表示標識でも現場改善の力になる」から解説を続けます。


用語解説
[1]エントロピー増大の法則:熱力学の第二法則で「物質の状態の乱雑さの程度」を数値で表したもの。
例えば、部屋のごみを片付けなければ、やがてはゴミ屋敷になってしまうように、すべての物事を自然のままほっておくと、そのエントロピーは常に増大し続け、外部から故意に仕事を加えてやらない限り、そのエントロピーを減らすことはできない」という考え。

[2]メラビアンの法則:矛盾したメッセージが発せられた際の人の受けとめ方について、人の行動が他人にどのように影響を及ぼすかを判断する実験についての俗流解釈。(引用:Wikipedia)

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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