開発現場にとっては、プロジェクトが増えるとそれらの進捗管理が課題になります。大変なことになる前に進捗管理の仕組みを見直す必要があるでしょう。必要最小限の手間で効率的な進捗管理を実現する方法が今回のテーマです。前回のその1に続いて解説します。
1. 2軸管理(Product & Activity)
メトリクスによる進捗管理の第一歩は、プロジェクトの振る舞いを適切に測定するためのデータ収集です。収集するデータには様々なものが考えられますが、どのようなデータであっても「プロダクト」と「アクティビティ」という2つが測定の軸になっていることが重要です。これがプロダクトとアクティビティの「2軸管理」です。
アクティビティ軸は、プロジェクトにおける活動がどの作業工程のものなのかを知るための軸です。プロジェクト活動は、調査、計画、設計、実施、評価というような開発工程(作業工程)が定義されていると思います。アクティビティ軸が特定できるとは、このように定義されている開発工程のどこに相当する活動なのかがわかるようなデータ収集が行われているということです。
プロダクト軸は、プロジェクトの最終成果物におけるどの部分を対象にした作業なのかを知るための軸です。製品開発の場合の最終成果物は製品そのものですから、システム構造図やブロック図などで表現されたどの部分の作業なのかが特定できることになります。サービス開発の場合も同様に機能ブロックなどで表現されたどの部分のサービス機能なのかを特定できるということです。
収集するデータをアクティビティとプロダクトの2軸で管理できるようにしておくと、たとえば、次のようなことがわかるようになります。
・Aさんは先週月曜には、「設計」に2時間使っておりその対象は「処理エンジン」だった
・Aさん、Bさんの2人は先週1週間で30個の作業(タスク)に取り組んでおり、それはすべて「出力ユニット」の「評価」作業だった
・先週完成したの作業成果物は全部で10個あり、そのうちの8個は「入力ユニット」のものだった
・先週発生した課題のうち「設計」に関するものは15個あり、まだ解決していないものが5個ある
2. 基本メトリクスセット
メトリクス管理の次のポイントは、どのようなデータを取るのか、どのようなデータを管理指標として使うのかです。メトリクス管理をはじめるときには進捗効果に効果的なデータは何かで悩むことが多いですし、メトリクス管理を実施していても、様々なデータをとっているのものの手間ばかりかかっているというところも少なくありません。
基本メトリクスセットとは、進捗管理のための必要最小限の測定項目(指標)です。やみくもなデータ収集を避けるために、これだけ取っておけばプロジェクトの振る舞いを知るには十分だと言えるデータを示しています。
図に示しているように、基本メトリクスセットは、プロジェクトへの入力である「工数」と、プロジェクトが出力する「タスク(作業要素)」「作業成果物」「不具合・課題」の4つのメトリクスのことです。プロジェクトの入力と出力のこの4つを測定すれば、プロジェクトの進捗を効率よく、効果的に把握することができるのです。
「工数」は、メンバーがどの作業にどのくらいの時間を使ったのかを測定したものです。プロジェクトでもっとも重要なリソースはプロジェクト・メンバーであり、メンバーがどのような時間の使い方をしているのかがプロジェクトに対する最も重要な情報ですから、工数を測定することはとても重要なことです。
「タスク(作業要素)」は、スケジュール表で矢印などであらわされている実施する作業のことです。「作業成果物」は、設計書などのプロジェクトを通じて作成されるもののことです。「不具合・課題」は開発中に発生した不具合や課題です。タスクと作業成果物は規模や作業量、不具合・課題は品質をあらわす指標ですので、全体としてバランスのとれた指標になっています。
時間や手間をかければもっとたくさんの種類のデータを収集するができますが、開発そのものが高い効率性や生産性を求められているのですから、プロジェクト管理も効率良く実施する必要がありま す。まずは、基本メトリクスセットで示している4つのメトリクスをしっかりと収集、分析できる仕組みを作ることが、効率のよく総合的な進捗管理を可能にします。
3. 工数メトリクスの例
ここで、基本メトリクスセットのひとつである工数メトリクスを例にとって、どのようにして進捗を把握するのかを紹介したいと思います。
進捗を表現する際に重要なことはわかりやすさです。プロジェクトに直接関係していないマネジャーやシニアマネジャーでも簡単に進捗がわかる表現にすることが大切です。プロジェクト内では解決できないような重大な問題が起きたときには、関連部門のキーパーソンに協力を仰ぐことになるはずですし、シニアマネジャーに働きかけることにもなるはずです。このようなときには、プロジェクトの進捗を素早く適切に把握してもらうことが大切になります。長々と説明したり、報告書を書いたりする時間的余裕はないはずですから。
まず最初にご紹介するのは「アクティビティ・センター」とよんでいるグラフです。縦軸に開発工程(作業工程)、横軸に時間(図では1週間単位)をとり、その週に一番工数を使った作業工程(作業の重心)をプロットして、それを結んで折れ線グラフにしたものです。プ...
ロットしている点の上下の線は、その週の開発工程上の作業の広がり(標準偏差)をあらわしています。これにより、時間経過にしたがった作業の進み具合とそのときの作業のバラツキが簡単に分かります。
縦軸の上に行けば行くほど作業が進んでいることを示しているので、時間経過とともに作業がどれくらいのペースで進んでいるのか、先週に較べて進んでいるのか、あとどれくらいで終了しそうか、などをつかむことができます。下がれば手戻りが発生していると考えられますし、上下の線が設計から評価にまで伸びていれば作業のばらつきが大きくて単純には進捗を判断できない状況だと考えられます。
また、このグラフはプロジェクト全体のものなのですが、2軸管理のプロダクト軸のデータを使えば、あるブロックAの部分だけ、ブロックBの部分だけといった特定の部分についても同じようにして進捗を見ることができます。
次回も、効率的で実践的な進捗管理の解説を続けます。