前回は、必要最小限の手間で効率的なメトリクス管理を実現するための3つの技法のうち、2軸管理と基本メトリクスセットについて、進捗管理を中心に事例を紹介しました。進捗管理というと EVM(※1) を利用することが多いかもしれませんが、手間をかけずにわかりやすい進捗管理の仕組みが整備できることをわかっていただけたと思います。(※1)作業の到達度を金銭などの価値に換算したEV(Earned Value:出来高)という概念で把握する方式。
今回は、前回説明できなかった3つの技法の最後となる基準モデルを、事例を交えながら紹介します。
2. 基準メトリクス
収集が難しい工数も含めて、2軸管理と基本メトリクスセットの考え方にもとづいてデータ収集できるようになれば、プロジェクトをバランスよく可視化することができ、さらに、成功したプロジェクトと失敗したプロジェクトの違いが目に見えてわかるようになります。これが基準メトリクスの考え方です。
基準メトリクスとは、成功したプロジェクトと失敗したプロジェクトを層別し、成功したプロジェクトの可視化したデータから抽出した共通パターンのことです。数値モデル化したベストプラクティスといってもいいでしょう。
したがって、基準メトリクスはプロジェクトが目指すべきゴールとして利用するもので、すべてのプロジェクトが基準メトリクスと同じパターンになるようにマネジメントするのがねらいです。
基準メトリクスの考え方で重要なのは、目指すべきゴールを自分たちの実績から決めるということです。どこかの教科書に書いていることや他社の実績を持ってきてゴールにしたり、技術者のスキルやプロジェクトの難易度などの多くの属性を数値化して分析的にゴールを決めることではなく、自分たちの実績のある成功パターンをゴールにして、すべてのプロジェクトでそれを目指すことが大切なのです。自分たちの実績なのですから、目指すべきゴールとしての納得感は高く、効果的なゴール設定が可能になります。
これまでの経験から、同じようなメンバーで同じような製品やサービスを開発している限り、組織の実力はマクロ的、帰納的に決まるものであり、そうやって作ったものが基準メトリクスなのです。
図99. 基準モデル
3. 基準モデルの事例
それでは、基準モデルの事例を紹介しましょう。
図100 は開発プロジェクトにかかった工数とリリースするまでに検出した不具合件数の相関を示したグラフで、様々なメーカーの 78 プロジェクトの実績です。グラフから、全体として工数と不具合件数は相関があることがわかります。図で囲んだ部分はある車載機器メーカーのデータなのですが、このようにある組織をとってみるとより高い相関があることがわかっています。このことから、組織ごとに開発工数と不具合件数の関係は基準モデルとしてパターン化することがで...