パラメータ設計における推定式の導出

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  品質工学
 
 今回は、金属材料特性向上を図るための研究を事例として、パラメータ設計における推定式の導出を解説します。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 

1. 金属材料特性向上を図るための研究事例

 
 金属材料特性向上を図るための研究事例です。造形時のパラメータを3因子選び直交表L25を用いて各々5条件で造形を行いました。造形した金属の硬度や密度を測定し、SN比をだして最適条件を大まかに見つけることができたのですが、例えば硬度○○ぐらいにしたいときは因子Aは×、因子Bは▲、因子Cは□のようにすればよいというように、次に得られた目的変数をもとに各因子の変数を導き出すような推定式を導出したいと考えております。造形した金属の硬度や密度を測定し、SN比をだして最適条件を大まかに見つけることができています。
 

2. 望大特性として、25通りの実験

 
 今回は、推定式は大まかでよいとして、この場合得られた直交表の結果からできるのか、できる場合はどのような方法なのかを考えましょう。事例の「例えば、硬度○○ぐらいにしたいときは、因子Aは×、因子Bは▲、因子Cは□のようにすればよい」についてです。
 
 硬度をある硬さにしたいということですが、まずは、硬度は大きいほうがよい望大特性として、25通りの実験についてそれぞれSN比を求めます。
 
 n個の望大特性(硬度)をy1、y2、‥‥、ynとすると、SN比ηは、η= -10log [(1/y1の2乗+1/y2の2乗+‥‥+1/ynの2乗)/n]
 
 次に、因子A、B、Cについて、それぞれの水準別の合計を求めます。 因子Aの場合では、水準が1のとき(実験No.1~5)のSN比の合計[水準別合計A1]、水準2のとき(実験No.6~10)のSN比の合計[水準別合計A2] ‥‥水準5のとき(実験No.21~25)のSN比の合計[水準別合計A5]を求めることになります。 因子B、Cの場合も、それぞれ水準が同じである実験No.のSN比を合計します。 なお、因子D~Fは因子がありませんから誤差因子となります。
 

3. 直交表の分散分析

 
 次に、直交表の分散分析を行ないます。
 

【手順1】 修正項CFを求めます。

 
 CF=25個のSN比の合計の2乗/全データの個数=[(実験No.1のSN比)+(実験No.2のSN比)+‥‥+(実験No.25のSN比)]の2乗/25 (f=1)
 

【手順2】 全変動STを求めます。

 
 ST=(実験No.1のSN比の2乗)+(実験No.2のSN比の2乗) +‥‥+(実験No.25のSN比の2乗)-CF (f=25-1=24)
 

【手順3】 因子の変動Sおよび分散Vを求めます。

 
 SA=[(水準別合計A1の2乗)+(水準別合計A2の2乗) +‥‥+(水準別合計A5の2乗)]/5 -CF (f=5-1=4)
 VA=SA/4
 
 以下、同様にSB、SCおよびVB、VCを求めます。
 

【手順4】 誤差変動Seおよび誤差分散Veを求めます。

 
 Se=ST-SA-SB-SC (f=12)
 Ve=Se/12
 

【手順5】 効果のある因子を推定します。

 
 因子の分散VA、VB、VCをそれぞれ誤差分散Veと比較したとき、Veよりも十分に大きな値であれば、その因子は目的特性(硬度)に対して効果があると推定します。 さらに、その効果のある因子については、水準別合計の値が大きい水準が硬度を高めていることになります。
 
 以上の結果から、硬度○○になる条件を推定します。
 
 まず、ねらいの硬度をρとしたときのSN比η(標準)を求めます。
η(標準)= -10log (1/ρの2乗)
 
 次に、例えば、因子A、B、Cすべてが硬度に対して効果があると推定された場合、そのときのSN比η(最適)は、各因子の水準別平均(水準別合計を5で...
 
  品質工学
 
 今回は、金属材料特性向上を図るための研究を事例として、パラメータ設計における推定式の導出を解説します。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 

1. 金属材料特性向上を図るための研究事例

 
 金属材料特性向上を図るための研究事例です。造形時のパラメータを3因子選び直交表L25を用いて各々5条件で造形を行いました。造形した金属の硬度や密度を測定し、SN比をだして最適条件を大まかに見つけることができたのですが、例えば硬度○○ぐらいにしたいときは因子Aは×、因子Bは▲、因子Cは□のようにすればよいというように、次に得られた目的変数をもとに各因子の変数を導き出すような推定式を導出したいと考えております。造形した金属の硬度や密度を測定し、SN比をだして最適条件を大まかに見つけることができています。
 

2. 望大特性として、25通りの実験

 
 今回は、推定式は大まかでよいとして、この場合得られた直交表の結果からできるのか、できる場合はどのような方法なのかを考えましょう。事例の「例えば、硬度○○ぐらいにしたいときは、因子Aは×、因子Bは▲、因子Cは□のようにすればよい」についてです。
 
 硬度をある硬さにしたいということですが、まずは、硬度は大きいほうがよい望大特性として、25通りの実験についてそれぞれSN比を求めます。
 
 n個の望大特性(硬度)をy1、y2、‥‥、ynとすると、SN比ηは、η= -10log [(1/y1の2乗+1/y2の2乗+‥‥+1/ynの2乗)/n]
 
 次に、因子A、B、Cについて、それぞれの水準別の合計を求めます。 因子Aの場合では、水準が1のとき(実験No.1~5)のSN比の合計[水準別合計A1]、水準2のとき(実験No.6~10)のSN比の合計[水準別合計A2] ‥‥水準5のとき(実験No.21~25)のSN比の合計[水準別合計A5]を求めることになります。 因子B、Cの場合も、それぞれ水準が同じである実験No.のSN比を合計します。 なお、因子D~Fは因子がありませんから誤差因子となります。
 

3. 直交表の分散分析

 
 次に、直交表の分散分析を行ないます。
 

【手順1】 修正項CFを求めます。

 
 CF=25個のSN比の合計の2乗/全データの個数=[(実験No.1のSN比)+(実験No.2のSN比)+‥‥+(実験No.25のSN比)]の2乗/25 (f=1)
 

【手順2】 全変動STを求めます。

 
 ST=(実験No.1のSN比の2乗)+(実験No.2のSN比の2乗) +‥‥+(実験No.25のSN比の2乗)-CF (f=25-1=24)
 

【手順3】 因子の変動Sおよび分散Vを求めます。

 
 SA=[(水準別合計A1の2乗)+(水準別合計A2の2乗) +‥‥+(水準別合計A5の2乗)]/5 -CF (f=5-1=4)
 VA=SA/4
 
 以下、同様にSB、SCおよびVB、VCを求めます。
 

【手順4】 誤差変動Seおよび誤差分散Veを求めます。

 
 Se=ST-SA-SB-SC (f=12)
 Ve=Se/12
 

【手順5】 効果のある因子を推定します。

 
 因子の分散VA、VB、VCをそれぞれ誤差分散Veと比較したとき、Veよりも十分に大きな値であれば、その因子は目的特性(硬度)に対して効果があると推定します。 さらに、その効果のある因子については、水準別合計の値が大きい水準が硬度を高めていることになります。
 
 以上の結果から、硬度○○になる条件を推定します。
 
 まず、ねらいの硬度をρとしたときのSN比η(標準)を求めます。
η(標準)= -10log (1/ρの2乗)
 
 次に、例えば、因子A、B、Cすべてが硬度に対して効果があると推定された場合、そのときのSN比η(最適)は、各因子の水準別平均(水準別合計を5で割ったもの)をAx、By、Czとすると、η(最適)=Ax+By+Cz-[2×(25個のSN比の平均)]で求めます。
 
 ここで、Ax、By、Czは、水準1~5のいずれかの水準別平均であり、ねらいの硬度のSN比η(標準)と同等になるように水準を選択します。なお、硬度に対して効果のある因子がAとBであれば、η(最適)=Ax+By-(25個のSN比の平均)] 、Bのみであればη(最適)=Byで計算します。
 

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この記事の著者

対馬 恭吾

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