4. エネルギー比型SN比の検証
4.1. 従来のSN比の課題(1) ~信号の大きさによる影響~
エネルギー比型SN比は、式の形から分かりますように分母と分子の単位は同じ[y2]のため、全体として無次元であり、信号の大きさによる影響を受けません。このことを実際の評価データで確認しました。異なる2種類のLED光源の機能の安定性を比較したデータ7)を図4.1.1、図4.1.2に示します。定格が異なるため入力信号である電流の範囲が異なります(A社製は20mA、B社製は150mA定格)。LED光源を実製品に組み込むときは、光源を複数組み合わせて、所望の明るさを得るため、異なる定格の光源が比較対象として選ばれうるのです。
図4.1.1 LED光源の電流-輝度値評価データ
図4.1.2 LED光源の電流-輝度値評価データグラフ
以上のデータでA社、B社のLEDの機能の安定性を、従来のSN比とエネルギー比型SN比で比較した場合の結果を図4.1.3にまとめました。
図4.1.3 ゼロ点比例式のSN比における従来SN比とエネルギー比型SN比の比較
エネルギー比型SN比では図4.1.2の傾きの変動から判断できる機能の安定性(A社が悪く、B社が良い)と一致している。いっぽう、従来のSN比ではその関係が逆転している。いうまでもなく、これは従来のSN比が入力信号データ(ここでは電流)の大きさの影響を受けているためである。A社、B社のそれぞれのケースで信号の2乗平均を比較すると、
となり、両者には64.8倍の違いがある。つまりdb単位では、10log(64.8)=18.1(db)だけ、信号が小さい方(A社)のSN比が大きくなるということである。従来は、このように信号水準がそろわないケースでは上記のような点に留意してSN比を比較する必要があったが、エネルギー比型SN比ではその手間は無用である。信号水準範囲が異なる場合でも、対象間をより公平に比較することができる。
4.1節補足
信号因子の水準値が比較対象間で異なりうるのは特殊なケースではない。以下のような例がある。
・電力と加工量の関係のように、入出力とも計測値で、値が成り行き決まるような場合8)、信号の範囲が比較対象間で異なる場合がある。
・入力信号に時間をとって、処理(動作)完了までデータを取得する場合9)に、比較対象間で時間(信号)範囲が異なる。
・MT(マハラノビス・タグチ)システムにおいて、推定精度をSN比で評価する際に、データセット間で信号の範囲・大きさが異なる場合10)がある。
【参考文献】
7) 三菱電機(株):「技術品質評価のための新しい評価尺度-エネルギー比型SN...