1. タグチメソッド
ここからは、表2-1にある「喫緊の課題」の10番目「新製品の市場品質問題が絶えない」の発生要因「開発時の市場品質に対する配慮が足りない」に対する解決手段「タグチメソッド」の説明に入らせて頂きます。
表2-1 中小企業が抱える喫緊の課題12と課題発生要因17に対する解決策の概要
このタグチメソッドは、田口玄一博士が、後述する伊奈製陶(現INAX)における品質改善経験をベースに作り上げた手法で、日本では品質工学と呼ばれているのですが、アメリカで大変な評価を得て、ゼロックス社のドン・クロージングによりタグチメソッドと命名され、最近では日本でもこちらの方がポピュラーになっています。
ここで何故タグチメソッドをお勧めするかと言いますと、これから中小企業が生き残るには、市場経験のない市場創造型商品開発への挑戦が必要なのですが、その場合、決め手になる「開発における市場品質の造り込み」の手段として「タグチメソッド」の活用は必須と言えるからです。
従って、ここでは、なぜタグチメソッドをお薦めするのかを、その考え方や効用を中心にご説明し、それをお読みになって、タグチメソッドを使おうという気になられたものの、もう少し詳しく知りたいと思われた方には、「タグチメソッド入門」立林和夫著(日経文庫1197 2009年3月13日初版)をお勧めしたいと思います。この本は、とても読み易くてタグチメソッドの中身がよく分かるだけでなく、最後に“参考図書と学習のガイド”と言う個所に、皆さんのニーズに合った本が的確に紹介されていますのでお勧めです。
タグチメソッドは、実験計画法と同様で、使ってみてはじめて十分な理解ができるものですので、ある程度勉強されたら、セミナーと言ったところではなく、具体的テーマを持って、現在現役で活用しておられる方にコンタクトされて指導を仰がれるのがよいと思います。
2. 品質の定義と市場品質に対する対応
1)品質の定義
先ず、品質の定義ですが、一般的な品質管理のベースになっているISO9000では「本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」と定義されていて、買い手側である顧客(消費者)が求める特性との合致度」が「品質」と言えるのですが、タグチメソッドでは「品質とは、品物が出荷後、社会に与える損失である。ただし、機能そのものによる損失は除く」と定義されているのです。
2)前者(一般的な品質管理)定義の問題点
両定義を、ここで取り上げているテーマ「市場クレーム」という観点から見てみますと、前者の場合、“本来備わっている特性の集まり”および、それを満たす“要求事項”が、市場での使われ方、即ち、市場品質をカバーできているかという点が問題になります。
と言いますのは、市場での使われ方は多種多様である上、経時劣化も想定すべきですので、“本来備わっている特性の集まり”が満たすべき“要求事項”に、そういった市場品質に関わる内容を落とし込むのは“無理”と言えるからです。
従前のように、顧客の要求が単純明快な初期段階ならともかく、製品機能が複雑になり、使用環境、使われ方の多様さが増した上、要求レベルが上がってきた現在、その“無理”が、市場クレームという形で表面化しているのが現状と言え、現在の品質管理(TQM)が限界を迎えていると言えます。
3)タグチメソッドの定義について
一方、後者のタグチメソッドにおける定義は、ズバリ市場品質が対象で、しかも、市場で使われたときに生じる“社会に与える損失”即ち、“市場クレーム”に焦点を絞っていますので、ここで取り上げているテーマ「市場クレーム」に対する対応策を検討する上で的確と言えます。
3. タグチメソッドとは
1)日本では品質工学
タグチメソッドは、田口玄一博士が、後述する伊奈製陶(現INAX)における品質改善経験をベースに作り上げた手法で、日本では品質工学と呼ばれているのですが、アメリカで大変な評価を得て、ゼロックス社のドン・クロージングによりタグチメソッドと命名され、最近では日本でもこちらの方がポピュラーになっています。
2)タグチメソッドの原点
1953年、伊奈製陶(現INAX)がタイル製造の焼付工程を“バッチ式”から“トンネル式連続式”に生産革新したところ、コンベア中央部の温度が低く生焼け不良...