【この連載の前回:【快年童子の豆鉄砲】(その3)仕事(職場)は自己実現の場へのリンク】
1.はじめに
今時“職人気質”などを取り上げるとは“化石人間”か?と言われそうですが、筆者は、世の中を動かすような仕事には、“職人気質”が必須と考えていまして、古くて、次元の低い事例で申し訳ないですが、気持ち次第で人はこんなにも変わるという側面も含めて、実体験のご紹介です。
2.夢が救ってくれたピンチ
工作機械部門の実習が終わり、配属されたのは、社内他工場向け「チリ紙自動包装機」設計チームでしたが、大卒で1年先輩のリーダーが2ヶ月後転勤になり、チームリーダーを引き継ぐことになったのです。
工作機械ではないものの、配属早々に、かなり複雑な自動機の設計チームリーダーになり、心境としては欣喜雀躍でしたが、如何せん力不足は否めず、それを補うため、夕食後、皆が帰った後に深夜までその日の設計進捗をチェックする日が続いたある日、チームトップのベテランA氏とその次のベテランB氏の担当部分が、自動運転をしたらぶつかるという夢を見たのです。
目を覚ましたのが2時でしたが、寮から5分の設計室に出かけてチェックしたら、本当にぶつかるので、そのまま残って対策を検討し、出勤してきた二人に、昨日チェックしたら二人の担当部分がぶつかると思うので調査をするよう依頼したところ、小一時間で血相を変えて「ぶつかります」との報告と同時に、対処の相談があり、検討結果を伝えて対処し、その日の内に解決することができたのです。もしこれが、試運転時の発見だったら、大幅な納期遅れは確実で、正夢様々でした。
見習い上がりの人間にチームリーダーが務まるわけがない、と言うのが言動の端々に見え、朝のミーティングでも発言することが全くなかったA氏が、この一件以来、メンバーの疑問や相談に積極的に発言するし、ミーティングの後も色々面倒を見てくれるようになり、チームの雰囲気ががらりと変わり、設計の進捗がスムーズになり、予定を大幅にクリアして出図が完了したのです。
この一件は、夢に出てくるまで頑張った甲斐があったと思うと同時に、昔は設計者にも居た、たたき上げの職人のようなA氏の、手の平を返したような働きぶりに、職人気質の真髄を見た気がしました。
3.もう一つの職人気質
先輩が出図していった部品の加工が始まって暫くした時、進捗係に部品加工の進み具合を聞いたところ、フライス盤のUさんのところで部品が止まってしまい相当遅れ気味だというのです。
このフライス盤は、忘れもしない、学生時代見学して、心を動かされたヒューロンで、Uさんは、ジャンギャバン似のその人です。終業時間後、そのフライス盤のところに行ったら、担当部品が仕掛かり場所に山積みでした。
今日は自分のプロジェクトの部品が仕掛かるまでねばろうと決心してその場に居座って暫くした時、Uさんが、向こうを向いたまま、「お前もこんなところに配属になって気の毒だったな」と言ったので「配属を希望したんです」と答えたら、ちょっとこちらを向きかけましたがそのままで「何でだ」と聞いてきたのです。
で、ツワイスのことは言わないで、「ヒューロンがあったからです」と答えたら、今度は、ガバッとこちらを向いて、暫く私の顔を見ていたと思ったら、ずかずかと近づいてくるなり、両腕を痛いほど掴んで「お前、あの時の学生かっ!」と言ったのです。
二年前のことを覚えていてくれたことに感激しながら「そうです」と答えたら、それ迄、鬼のような形相だったUさんの顔が、まるで孫を見るような柔和な顔になり、感極まったように「そうかあ」と言ったのです。もっと何か言って欲しかったですが、それだけで機台に戻り「今日はもう帰れ」と言ったUさんの背中が有無を言わせない雰囲気だったので「明日また来ます」と言ってそこを離れたのですが、歩き出した筆者の後ろから「そうかっ」と言う声が聞こえました。
翌日、設計室に入ったら、進捗係が飛んできて「浅田さん、フライ加工全部終わっていましたっ!」というので、山積みだった部品を思い出し「え~っ!」と絶句していたら「Uさん、徹夜したみたいで出勤してきた次工程の班長さんに、この台車の部品を最優先で加工するように言って帰ったそうです」とのこと。
フライス盤のところに行き、昨日帰る時仕掛かっていた部品が加工途中で外されているのを見た時、実習期間中何度も耳にしてよく分からなかった“職人気質”と言う言葉の真髄に触れた気がしました。
後で分かったのですが、Uさんが、このプロジェクトの部品加工を後回しにした理由が、転勤になった先輩の図...