1. 育成効果の活かし方
これまで、連載の12回を使ってOJCC(On the Job Cultivating Core-competence)による社員の育成についてご説明してきましたが、最後に、育成効果の活かし方についてご説明してこの項を終わりたいと思います。
2. 二通りの育成効果の活かし方
OJCCを通じた育成効果を踏まえての活かし方には二通りあり、一つは、育成対象の仕事の任せ方と、もう一つは、育成過程で把握した育成対象者のコア・コンピタンス(CC)の仕事への活かし方で、それぞれについて以下にご説明しますので参考にして頂ければと思います。
1)任す方と任される方の齟齬のない任せ方
任せようとする仕事には、仕事の手順が決まっている場合と、仕事の手順、成り行きが不透明な場合があり、それぞれにふさわしい任せ方を下記にご紹介しますので、ご活用願います。
ⅰ)仕事の手順が決まっている場合
この場合は、決まっている手順を、下図(図95-1)のようなチャートを使って手順を書き込むことにより、手順の進行が、各ステップのPDCAのサイクルとして“見える化”されますので、決まっている手順のサイクルに対する理解の齟齬がなくなります。
その上で、「仕事を任せる」というのは、各サイクルにおける「判断」まで、即ち、各ステップについて仕事を進め、このような判断の下、次のステップに移行したいという報告を受けて、判断の善し悪しを見極めて次のステップに移行するということです。
この場合、育成対象者の判断が育成者の判断と合致する比率の高低で育成効果を把握できるのです。
図95-1 PDCA Tracing Chart のパターン(注)
(注)このチャートの詳しい使い方は、PDCA‐TC法の記事を参照ください。
ⅱ)仕事の手順、成り行きが不透明な場合
先ず、事の成り行きに対する育成対象者の見通しを、第65弾~第70弾でご紹介した、筆者セミオリジナルの“C型PDPC法”で提示してもらい、受け取ったC型PDPC上で見通しの立て方を修正・指導して、最終的な見通しを共有した上で、報告、相談の必要な時点を教えた上で任せることになります。
2)育成過程で把握した育成対象者のCCの仕事への活かし方
前項の要領で、色んな仕事を任せてみると、育成対象者の優れた能力(コア・コンピタンス:CC)を把握できる場合があるのですが、そのCCを仕事にどのように活かすかという問題です。例えば、中小企業に多い製造会社を例にとった場合、製造部門の作業者の育成成果として、開発部門に向いているのではないか、という判断がなされたという極端なケースを取り上げてみたいと思います。
このような場合、一般的な対処は、開発部門への移籍ということになるのですが、諸事情から難しくそのままになってしまうことが多く、育成に対するインセティブが削がれてしまうことになりかねませんので、どのように対処すればよいかをご説明します。
上記で「開発部門に向いているのではないか」という判断の根拠は「創造力が高いから」ということではないかと思うのですが、現在の仕事の捉え方からしますと、開発部門への移籍ということになり、実現のハードルが高くなり実現しないのですが、仕事の捉え方を次のよう考えると、解決の糸口が見えてくるのです。
即ち、どんな仕事にも、「現状を前提としての改善」という側面と、「現状からの飛躍を目指した挑戦的改革」という側面があり、それぞれを進める上で「企画」「管理」「実務」という役割区分が存在しますので、それを表にすると表96-1のようになります。
表96-1 仕事の捉え方
このような捉え方は、前項で、極端なケースとして取り上げた「製造部門の作業者の仕事」についても可能で、現在は、このような捉え方をした時のアイデアは「改善提案」という形で取り上げられています。ただ、改善提案は、あくまで本人任せですので、本人が意識しなければ、そのような素養があっても、アイデアという形で出てこないのです。そこで、その育成対象者に、このような仕事の捉え方を説明し、今の仕事について、持てる高い創造力を活かして、ÅまたはBに対するアイデアを出してくれるよう促すのです。
育成過程を通じて、おそらく本人のモチベーションは高まっているはずですので、素晴らしいアイデアが出てきて、大幅な改善がなされ、育成成果が具体的な形...