MD解析法による適材適所配属(1) 【快年童子の豆鉄砲】(その93)

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1.離職率が高い

今回から、表2-1にある「喫緊の課題」の9番目「離職率が高い」についてのご説明に入ります。

表2-1 中小企業が抱える喫緊の課題12と課題発生要因17に対する解決策の概要

事業戦略

 

この「離職率が高い」は、縁があって入社した社員が、短期間で離職するという中小企業にとっては深刻極まりない課題なのですが、その背景には、数えきれない要因が存在し、最も難しい経営課題ではないかと思います。ここでは、その数えきれない要因のうち、普遍的で重要と思われる4つを取り上げているのですが、そのそれぞれの要因解決に対する的確な対処方法が、世の中に見当たりませんので、悪戦苦闘の末行き着いた筆者なりの結論をご紹介いたしますので参考にして頂ければと思います。その最初の要因「適材適所配属がうまく行かない」に対する解決手段として「マトリックス・データ(MD)解析法」を使った「適材適所配属法」(⑪)を2つの事例を通してご紹介させて頂きたいと思います。

 

最初の事例は、現役時代、従来の配属決定プロセスが通用しなくなり、困り抜いて行き着いた「MD解析法」での成功事例です。もう1つは、退職後品質経営のお手伝いをした中小企業での事例で「適材適所配属法」と言う命名はこの会社によるもので、解析対象のデータがカバーする範囲が、より大きく、上の事例より実用範囲が広いので参考にして頂けると思います。

 

【この連載の前回:【快年童子の豆鉄砲】(その92)へのリンク】

 

◆【特集】 連載記事紹介:連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

 

2.適材適所配属のためのMD解析法の使い方

1)問題発生

重要保安部品の製造を担当する6つの係からなる課に、毎年20人前後の新入社員が配属されるのですが、課としては、ミスが顧客クレームに直結する可能性の高い組立係を優先し、人事課から与えられる10項目(当時の労働省編「職業適性検査結果」9項目と工場独自の筆記試験結果)の各人の数値と、それを基に課のベテラン係長が実施する面接結果をもとに、組立係への配属を行なっていたのですが、ある年の配属後1ヶ月たったところで、組立係長から、配属を受けた6人のうち、3人は手に負えないとのクレームが来たのです。

 

対処としては、係内で工夫をしてもらうことにしたのですが、このことは、新入社員の質の変化により、従来の配属方法が通用しなくなったことを意味しており、新しい配属先決定方法の開発を迫られたのです。

 

2)マトリックス・データ(MD)解析法の採用理由

そこで、改めて、人事課から与えられる10項目の各人の数値を見たところ「職業適性検査結果」は各個人について詳しく分析された上で、一般的な適正業務も提示されており、各個人についての情報内容としては十分と言えるのですが、いざ配属先に相応しい人間を選ぼうとすると、新入社員全体の中での個人の位置付けがあちらを立てればこちらが立たずで掴みどころがなく、配属先判断材料としての的確な使い方が見当たらなかったのです。

 

ただ、20人に対する10のデータの表を見ていて、折角これだけ緻密な数値データを手に入れているのだから、何とか数値解析による解決策はないものかと考えて思い付いたのが、新QC七つ道具にある「マトリックス・データ(MD)解析法」だったのです。

 

と言いますのは、このMD解析法は、多変量解析の「主成分分析」そのもので「多種多様の特性からなる複雑な事象がある場合、これらの事象に対応して測定された多変数の相互関連を分析活用し、相互に独立した少数の総合的特性値(主成分)にまとめることによって、複雑な事象のおおよその見通しと姿の把握を容易にする手法」だからです。

 

要するに、この説明の「複雑な事象」を「新入社員」に「これらの事象に対応して測定された多変数」を「人事から入手した10項目の数値」に置き換えると、MD解析法で入手した少数の主成分を使って全体の中での個人の位置付けが可能なのではないかということです。

 

3)MD解析法とは

MD解析法の定義は上記の通りなのですが、事例説明に入る前に、もう少しかみ砕いて説明させて頂きます。複雑な事象には、いろいろな側面がありますので、その事象を把握しようとしても、手に入るのは、それぞれの側面を代表する多くの特性値がサンプルごとに存在する“マトリックス・データ”で、普通の取り組み方では、気になるいくつかの特性値を個々に評価するのがせいぜいになります。

 

ところが、個々に評価してみて気づくのは、それらの特性値が互いに独立していることはまずなくて、特性値相互の間に相関関係が存在していますので、事象個々に対する評価が錯綜してままならないのです。そこで、その相関関係に着目して数学的処理をほどこし、互いに独立した新たな特性値を、元の特性値との関係も含めて求める手法が“MD(マトリックス・データ)解析法”の数理に関する核心です。

 

この新たな特性値は、“主成分”と呼ばれ、計算上は元の特性と同じ数だけ求められるのですが、情報量(寄与率)の多いものから順番に取り上げますと、2番目までで、全体の6割をカバーできるのが一般的で、多い時には8割の情報をカバーすることができるのです。

 

従って、これら2つの新たな特性値を、対象事象を把握するための“総合特性値”として採用し、2次元の座標軸上に各サンプルの値をプロットしてみると、複雑でとらえどころのなかった事象を総合的に把握できるとともに、各サンプルについても、プロットされた位置関係により、グループ内での特徴、位置づけがかなり明確に把握できますので、複雑な事象への対応、この事例の場合、新入社員という複雑な事象の配属先決定に見通しを立てることができるわけで、今回“MD解析法”を採用する理由はここにあります。

 

ただ、21世紀に入り、多くの社会現象が、過去の延長線上では推し量ることができないことから、この“MD解...

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1.離職率が高い

今回から、表2-1にある「喫緊の課題」の9番目「離職率が高い」についてのご説明に入ります。

表2-1 中小企業が抱える喫緊の課題12と課題発生要因17に対する解決策の概要

事業戦略

 

この「離職率が高い」は、縁があって入社した社員が、短期間で離職するという中小企業にとっては深刻極まりない課題なのですが、その背景には、数えきれない要因が存在し、最も難しい経営課題ではないかと思います。ここでは、その数えきれない要因のうち、普遍的で重要と思われる4つを取り上げているのですが、そのそれぞれの要因解決に対する的確な対処方法が、世の中に見当たりませんので、悪戦苦闘の末行き着いた筆者なりの結論をご紹介いたしますので参考にして頂ければと思います。その最初の要因「適材適所配属がうまく行かない」に対する解決手段として「マトリックス・データ(MD)解析法」を使った「適材適所配属法」(⑪)を2つの事例を通してご紹介させて頂きたいと思います。

 

最初の事例は、現役時代、従来の配属決定プロセスが通用しなくなり、困り抜いて行き着いた「MD解析法」での成功事例です。もう1つは、退職後品質経営のお手伝いをした中小企業での事例で「適材適所配属法」と言う命名はこの会社によるもので、解析対象のデータがカバーする範囲が、より大きく、上の事例より実用範囲が広いので参考にして頂けると思います。

 

【この連載の前回:【快年童子の豆鉄砲】(その92)へのリンク】

 

◆【特集】 連載記事紹介:連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

 

2.適材適所配属のためのMD解析法の使い方

1)問題発生

重要保安部品の製造を担当する6つの係からなる課に、毎年20人前後の新入社員が配属されるのですが、課としては、ミスが顧客クレームに直結する可能性の高い組立係を優先し、人事課から与えられる10項目(当時の労働省編「職業適性検査結果」9項目と工場独自の筆記試験結果)の各人の数値と、それを基に課のベテラン係長が実施する面接結果をもとに、組立係への配属を行なっていたのですが、ある年の配属後1ヶ月たったところで、組立係長から、配属を受けた6人のうち、3人は手に負えないとのクレームが来たのです。

 

対処としては、係内で工夫をしてもらうことにしたのですが、このことは、新入社員の質の変化により、従来の配属方法が通用しなくなったことを意味しており、新しい配属先決定方法の開発を迫られたのです。

 

2)マトリックス・データ(MD)解析法の採用理由

そこで、改めて、人事課から与えられる10項目の各人の数値を見たところ「職業適性検査結果」は各個人について詳しく分析された上で、一般的な適正業務も提示されており、各個人についての情報内容としては十分と言えるのですが、いざ配属先に相応しい人間を選ぼうとすると、新入社員全体の中での個人の位置付けがあちらを立てればこちらが立たずで掴みどころがなく、配属先判断材料としての的確な使い方が見当たらなかったのです。

 

ただ、20人に対する10のデータの表を見ていて、折角これだけ緻密な数値データを手に入れているのだから、何とか数値解析による解決策はないものかと考えて思い付いたのが、新QC七つ道具にある「マトリックス・データ(MD)解析法」だったのです。

 

と言いますのは、このMD解析法は、多変量解析の「主成分分析」そのもので「多種多様の特性からなる複雑な事象がある場合、これらの事象に対応して測定された多変数の相互関連を分析活用し、相互に独立した少数の総合的特性値(主成分)にまとめることによって、複雑な事象のおおよその見通しと姿の把握を容易にする手法」だからです。

 

要するに、この説明の「複雑な事象」を「新入社員」に「これらの事象に対応して測定された多変数」を「人事から入手した10項目の数値」に置き換えると、MD解析法で入手した少数の主成分を使って全体の中での個人の位置付けが可能なのではないかということです。

 

3)MD解析法とは

MD解析法の定義は上記の通りなのですが、事例説明に入る前に、もう少しかみ砕いて説明させて頂きます。複雑な事象には、いろいろな側面がありますので、その事象を把握しようとしても、手に入るのは、それぞれの側面を代表する多くの特性値がサンプルごとに存在する“マトリックス・データ”で、普通の取り組み方では、気になるいくつかの特性値を個々に評価するのがせいぜいになります。

 

ところが、個々に評価してみて気づくのは、それらの特性値が互いに独立していることはまずなくて、特性値相互の間に相関関係が存在していますので、事象個々に対する評価が錯綜してままならないのです。そこで、その相関関係に着目して数学的処理をほどこし、互いに独立した新たな特性値を、元の特性値との関係も含めて求める手法が“MD(マトリックス・データ)解析法”の数理に関する核心です。

 

この新たな特性値は、“主成分”と呼ばれ、計算上は元の特性と同じ数だけ求められるのですが、情報量(寄与率)の多いものから順番に取り上げますと、2番目までで、全体の6割をカバーできるのが一般的で、多い時には8割の情報をカバーすることができるのです。

 

従って、これら2つの新たな特性値を、対象事象を把握するための“総合特性値”として採用し、2次元の座標軸上に各サンプルの値をプロットしてみると、複雑でとらえどころのなかった事象を総合的に把握できるとともに、各サンプルについても、プロットされた位置関係により、グループ内での特徴、位置づけがかなり明確に把握できますので、複雑な事象への対応、この事例の場合、新入社員という複雑な事象の配属先決定に見通しを立てることができるわけで、今回“MD解析法”を採用する理由はここにあります。

 

ただ、21世紀に入り、多くの社会現象が、過去の延長線上では推し量ることができないことから、この“MD解析法”は避けて通れないはずなのですが、意外に活用されていないのは、スタッフワークになじみのSQCとは別物との誤解から敬遠されているのではないかと思います。そこで、SQCにおける位置づけを表75-1に纏めてみました。

 

表75-1 SQCにおけるMD解析法の位置づけ

MD

 

MD解析法の解析対象は、上述の通り、過去の延長線上では推し量ることができない社会現象といえるのですが、上表から分かるように、SQCの観点からすると、被説明変数を持たない事象ということになります。一方で、上表は、しかるべきスタッフワークをカバーしていますので、MD解析法を敬遠するということは、ある種の、それも重要なスタッフワークテーマの解決を放棄することになりますので、次弾以降で事例を使って詳しくご説明するステップに従った使い方を参考にして頂きMD解析法の活用に挑戦して頂ければと思います。

 

次回に続きます。

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この記事の著者

浅田 潔

100年企業を目指す中小企業のため独自に開発した高効率な理念経営体系を柱に経営者と伴走します。

100年企業を目指す中小企業のため独自に開発した高効率な理念経営体系を柱に経営者と伴走します。


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