各種5軸マシニングを活かしたデータ作成方法 伸びる金型メーカーの秘訣 (その37)

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  生産マネジメント
 
 今回、紹介する加工メーカーは、Y産業株式会社です。同社は自動車部品製造において、量産から試作まで幅広く携わっており、プレス、切削加工、部品アセンブリなど、多岐に渡って対応している点が技術面の強みです。筆者は、同社が事業拡大を図っている5軸マシニング加工の技術者研修を担当させていただいています。
 
 今回の5軸加工研修は、CAM操作主体の研修とは異なり、同社の強みである複数タイプの5軸マシニングの特性に対し、それぞれ異なった5軸加工の手法を、5軸加工用CAMであるhyperMILLでどう実現していくか、そこに着眼した内容で行いました。そこで、今回は、各種5軸マシニングを活かしたデータ作成方法と共に、研修の取り組みを紹介します。
 

1. 5軸加工の強み

 
 同社の5軸加工の強みとして、大型の門型5軸、トラニオンタイプの中型5軸、旋盤主軸を持つ複合加工機タイプと、様々な形の5軸マシニングを設備している点です。
 
 新日本工機(株)製の門型5軸マシニングは、5000×2500ミリの大型テーブルを持ち、主軸ヘッドが旋回および傾斜する5軸加工を行う。これにより、ワークは常にXY平面のみ移動することで、高い平面精度の加工を行うことができます。
 
 三井精機工業(株)製の5軸マシニングは一般的なトラニオンタイプであり、ワークを置くテーブルが旋回および傾斜する。ワークの置き方によっては、5軸動作の際、同社の機種の中では、最も旋回距離の少ない5軸加工を行うことができます。
 
 ヤマザキマザック(株)製の複合加工機は、NC旋盤にエンドミル工具を用いた5軸加工ができる機構を持ち、旋盤主軸の回転と、工具主軸の傾斜によって5軸加工を行う。同社の5軸マシニングの中では、最も大きなアンダーカット加工を行うことができます。
 

2. 3機種の異なる構造に合わせた削りかた

 
 3機種の長所短所に応じたCAMデータ作成が必要であり、それぞれの機種における留意点と加工ポイントは次のとおりです。
 

(1) 主軸ヘッドが旋回・傾斜する門型5軸マシニング

 
 主軸ヘッドが5軸動作を行うため、長い工具を用いた派手な動きの旋回動作を行うと、激しくワークも追従して動くことになるため、CAMデータは注意が必要です。したがって、仕上げ加工に5軸動作を用いる際は、同機の高い平面精度を活かした、割り出し5軸加工にて、広範囲の仕上げ加工を行う点がポイントです。
 

(2) トラニオンタイプの中型5軸マシニング

 
 5軸加工の旋回動作を行う際、ワークと工具の移動を少なくするためには、テーブルの中心にセットすることがポイントです。工具主体で見た場合、他機種よりも安定した動きをとることができ、機械精度への配慮をそれほど気にせず同時5軸加工を用いることができます。ただし、背の高いワークにおいて傾斜角度を可変しながら行う5軸加工を行う際には、大きく頭を振りながらの動作になるため、その際は割り出し5軸加工で対応するなど配慮が必要となります。
 

(3) 旋盤主軸を持つ複合加工機タイプ

 
 旋削加工がベースとなっているため、3機種の中では、最も高い旋回精度を持っており、仕上げ加工で5軸動作を用いる際には、割り出し5軸よりも、むしろ傾斜軸を固定した同時4軸加工を積極的に活用します。また、工具主軸の旋回角度においては、他の2機種は90~110度ほどが限界ですが、2スピンドルの旋盤加工に対応するため180度まで旋回させることができます。これにより、他の2機種には対応できないアンダーカット部の5軸加工が可能となります。
 

3. 5軸加工における荒取り、仕上げの削りかたと機種ごとの考え方

 
 そもそも5軸加工には、割り出し5軸と同時5軸という加工があり、割り出し5軸は、ワークに対し工具を傾けた加工を行うが、4軸目・5軸目は固定したまま同時3軸加工を行う方法を言い、同時5軸は、XYZの3軸に加え、4軸目・5軸目も可変させながら加工する方法を指します。
 
 同時5軸加工を用いると、短い工具でも高い壁や深い溝においても、自由な動きでホルダー干渉を避けながら加工することができ、非常に便利である反面、工具やテーブルの旋回中心位置精度の管理や、ツール長さなどの段取り精度が、積み重ね誤差として仕上がり加工精度に影響するため、±0.01~2ミリといった寸法精度で加工することは非常に難しいのです。
 
 割り出し5軸加工であれば、工具やテーブルの傾斜を固定したまま加工を行うため、その旋回角度精度は事前にセッティングすることもでき、同時5軸加工よりも加工寸法は出しやすいでしょう。同社が扱うプレス金型のような加工寸法を要求される加工においては、派手な動きの同時5軸加工は荒取りにこそ使うことができますが、仕上げ加工では割り出し5軸を用いるべきです。
 

4. コンサルティングでの取り組み(hyperMILLの3D加工、5軸加工での活かし方)

 
 5軸加工においては、CAMの活用が欠かせませんが、同社は、筆者と同じくhyperMILLを使っています。hyperMILLは、高い壁やアンダーカット部、深い溝など、工具の侵入が困難な部位を加工するために便利な機能が色々盛り込まれています。今回の研修では、実際の金型部品や機械部品を題材として取り上げ、そういった困難な部位をどういった機能で加工するかを中心にカリキュラムを組んでいます。
 
 例えば、3軸加工においては、標準の送り速度が出せるレギュラー長さ工具で可能な限り多く除去加工を行い、同じ径で、段階的に長い工具を使っていきます。
 
 hyperMILLは、こうした工具長さによる加工エリアの分割が簡単にできます。やむを得ず工具突き出し長さが長くなり、送り速度を下げなければいけない加工をできるだけ少なくするプロセスを簡単に組むことができます。また、5軸加工においては、同社の3機種に適した題材の加工ワークを選定し、それぞれの機械の持ち味を活かすための研修を組んでいます。
 
 門型マシニングにおいては、荒取り加工でフレキシブルに同時5軸加工を用いて使用工具の長さの種類を少なくし、仕上げでは動作の安定した割り出し5軸加工を使って仕上げます。
 
 トラニオンタイプの中型5軸マシニングにおいても、やはり仕上がり精度を気にしなくてもよい荒...
 
  生産マネジメント
 
 今回、紹介する加工メーカーは、Y産業株式会社です。同社は自動車部品製造において、量産から試作まで幅広く携わっており、プレス、切削加工、部品アセンブリなど、多岐に渡って対応している点が技術面の強みです。筆者は、同社が事業拡大を図っている5軸マシニング加工の技術者研修を担当させていただいています。
 
 今回の5軸加工研修は、CAM操作主体の研修とは異なり、同社の強みである複数タイプの5軸マシニングの特性に対し、それぞれ異なった5軸加工の手法を、5軸加工用CAMであるhyperMILLでどう実現していくか、そこに着眼した内容で行いました。そこで、今回は、各種5軸マシニングを活かしたデータ作成方法と共に、研修の取り組みを紹介します。
 

1. 5軸加工の強み

 
 同社の5軸加工の強みとして、大型の門型5軸、トラニオンタイプの中型5軸、旋盤主軸を持つ複合加工機タイプと、様々な形の5軸マシニングを設備している点です。
 
 新日本工機(株)製の門型5軸マシニングは、5000×2500ミリの大型テーブルを持ち、主軸ヘッドが旋回および傾斜する5軸加工を行う。これにより、ワークは常にXY平面のみ移動することで、高い平面精度の加工を行うことができます。
 
 三井精機工業(株)製の5軸マシニングは一般的なトラニオンタイプであり、ワークを置くテーブルが旋回および傾斜する。ワークの置き方によっては、5軸動作の際、同社の機種の中では、最も旋回距離の少ない5軸加工を行うことができます。
 
 ヤマザキマザック(株)製の複合加工機は、NC旋盤にエンドミル工具を用いた5軸加工ができる機構を持ち、旋盤主軸の回転と、工具主軸の傾斜によって5軸加工を行う。同社の5軸マシニングの中では、最も大きなアンダーカット加工を行うことができます。
 

2. 3機種の異なる構造に合わせた削りかた

 
 3機種の長所短所に応じたCAMデータ作成が必要であり、それぞれの機種における留意点と加工ポイントは次のとおりです。
 

(1) 主軸ヘッドが旋回・傾斜する門型5軸マシニング

 
 主軸ヘッドが5軸動作を行うため、長い工具を用いた派手な動きの旋回動作を行うと、激しくワークも追従して動くことになるため、CAMデータは注意が必要です。したがって、仕上げ加工に5軸動作を用いる際は、同機の高い平面精度を活かした、割り出し5軸加工にて、広範囲の仕上げ加工を行う点がポイントです。
 

(2) トラニオンタイプの中型5軸マシニング

 
 5軸加工の旋回動作を行う際、ワークと工具の移動を少なくするためには、テーブルの中心にセットすることがポイントです。工具主体で見た場合、他機種よりも安定した動きをとることができ、機械精度への配慮をそれほど気にせず同時5軸加工を用いることができます。ただし、背の高いワークにおいて傾斜角度を可変しながら行う5軸加工を行う際には、大きく頭を振りながらの動作になるため、その際は割り出し5軸加工で対応するなど配慮が必要となります。
 

(3) 旋盤主軸を持つ複合加工機タイプ

 
 旋削加工がベースとなっているため、3機種の中では、最も高い旋回精度を持っており、仕上げ加工で5軸動作を用いる際には、割り出し5軸よりも、むしろ傾斜軸を固定した同時4軸加工を積極的に活用します。また、工具主軸の旋回角度においては、他の2機種は90~110度ほどが限界ですが、2スピンドルの旋盤加工に対応するため180度まで旋回させることができます。これにより、他の2機種には対応できないアンダーカット部の5軸加工が可能となります。
 

3. 5軸加工における荒取り、仕上げの削りかたと機種ごとの考え方

 
 そもそも5軸加工には、割り出し5軸と同時5軸という加工があり、割り出し5軸は、ワークに対し工具を傾けた加工を行うが、4軸目・5軸目は固定したまま同時3軸加工を行う方法を言い、同時5軸は、XYZの3軸に加え、4軸目・5軸目も可変させながら加工する方法を指します。
 
 同時5軸加工を用いると、短い工具でも高い壁や深い溝においても、自由な動きでホルダー干渉を避けながら加工することができ、非常に便利である反面、工具やテーブルの旋回中心位置精度の管理や、ツール長さなどの段取り精度が、積み重ね誤差として仕上がり加工精度に影響するため、±0.01~2ミリといった寸法精度で加工することは非常に難しいのです。
 
 割り出し5軸加工であれば、工具やテーブルの傾斜を固定したまま加工を行うため、その旋回角度精度は事前にセッティングすることもでき、同時5軸加工よりも加工寸法は出しやすいでしょう。同社が扱うプレス金型のような加工寸法を要求される加工においては、派手な動きの同時5軸加工は荒取りにこそ使うことができますが、仕上げ加工では割り出し5軸を用いるべきです。
 

4. コンサルティングでの取り組み(hyperMILLの3D加工、5軸加工での活かし方)

 
 5軸加工においては、CAMの活用が欠かせませんが、同社は、筆者と同じくhyperMILLを使っています。hyperMILLは、高い壁やアンダーカット部、深い溝など、工具の侵入が困難な部位を加工するために便利な機能が色々盛り込まれています。今回の研修では、実際の金型部品や機械部品を題材として取り上げ、そういった困難な部位をどういった機能で加工するかを中心にカリキュラムを組んでいます。
 
 例えば、3軸加工においては、標準の送り速度が出せるレギュラー長さ工具で可能な限り多く除去加工を行い、同じ径で、段階的に長い工具を使っていきます。
 
 hyperMILLは、こうした工具長さによる加工エリアの分割が簡単にできます。やむを得ず工具突き出し長さが長くなり、送り速度を下げなければいけない加工をできるだけ少なくするプロセスを簡単に組むことができます。また、5軸加工においては、同社の3機種に適した題材の加工ワークを選定し、それぞれの機械の持ち味を活かすための研修を組んでいます。
 
 門型マシニングにおいては、荒取り加工でフレキシブルに同時5軸加工を用いて使用工具の長さの種類を少なくし、仕上げでは動作の安定した割り出し5軸加工を使って仕上げます。
 
 トラニオンタイプの中型5軸マシニングにおいても、やはり仕上がり精度を気にしなくてもよい荒取りは同時5軸加工を使うべきところには使い、仕上げ加工においては、レギュラー長さ工具は、最も速い標準の送り速度が出せるため、レギュラー長さ工具で行う3軸加工と、ホルダー干渉が発生するエリアを分割し、3軸加工で届かないエリアで同時5軸加工をフル活用します。
 
 複合加工機においては、円筒ワークを中心に、同時4軸加工をフル活用し、外観品質と仕上がり寸法精度の良い加工を行います。今回の研修では、こうした点を押さえた実践カリキュラムを行いました。
 

5. 同社における今後の5軸加工の活用

 
 今回の研修により、同社の加工オペレーターは、強みである複数タイプの5軸マシニングそれぞれの持ち味を活かすスキルを習得することができました。昨今、5軸加工は自動車部品だけに留まらず、様々な分野で活用されており、同社も今後さまざまな分野でその技術・設備を寄与させていく計画があります。応用性の高い5軸加工技術を用いた今後の同社の事業戦略に、筆者は大きな期待をしています。
 
 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。

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この記事の著者

村上 英樹

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント

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