【パラメータ設計、連載目次】
安い刃物を買うとすぐ切れなくなってしいます。また安い電池を買うとすぐに放電してしまいます。「安いものは品質が悪い」「品質が良いものは価格が高い」と言われますが、同じ品質ならだれもが、安い方を選びます。そんな時代に、ものづくりはどう対処して行ったら良いでしょうか。
◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』
1. 今までのものづくり
(1) 材料、部品の選定問題
高級な材料、部品を用い、高級な機械を使って高品位の品物を作ろうとすると、これは明らかに、コスト高の製品となります。コストを下げる最も効果のある方法は入手可能な最も安い材料、部品を用いて、ものづくりを行うことです。ところが、安い材料、部品、簡易な機械で加工したのでは、レベルも低く、品質のばらつきも大きくなると考えるのが一般的で、これを解決しない限り安くて品質の良いものはできません。
(2) 公差の問題
コストが高くなるもう一つの原因は公差にあります。公差を設定しないか公差が広すぎると、ばらつきが大きくなり、クレームか発生する要因になります。そこで設計者は、クレームが出ないようにするため、なるべく狭い公差にしようとします。公差が狭いと、加工や調整に手間取り、歩留まりも悪くなり、コスト高となるのですが、妥当な公差を求める方法が分からない場合、設計者自身は、身の安全を測るため、なるべく公差を狭めた設計を行います。
(3) 開発設計の遅れの問題
次の問題は、開発設計の遅れです。遅れる最大の原因は設計変更です。部品や材料そのもの、組み合わせの十分な調査、検討か済まないうちに、開発期間がなくなってしまい、最適条件を模索している間に検討打ち切りの見切り発車となることが多いのが現状です。これが工程不良、クレームを招き、設計変更の一因となっているのです。
2. ばらつきとは何か
ばらつきには、影響の大きい順に「使用、環境条件の変化」「劣化」「物のばらつき」があります。
(1) 使用、環境条件の変化
お客様の使用、環境条件は様々であり、想定しない使い方や、温度や湿度、ほこりなどの条件で機能が安定しない、故障などが発生します。
(2) 劣化
物は当然、いづれは劣化(変質、変形、摩耗)します。製品を長期間保管しておいたり、使用している間に、その製品を構成している材料、部品等が時間経過とともに質的変化を起こし、あるいは寸法が摩耗変化し、また各種の負荷が継続する事により材料、部品定数が変化し、その影響で機能特性が低下したり、機能停止、故障状態となってしまいます。
(3) 物のばらつき
物は、最初からどれ一つ同じものは無く、ばらついています。その影響を受けて完成した製品の機能特性かばらつき、また、製品を作る製造設備は、しばしば故障したり設定した値が変化し、また作業者の作業も当然ばらついています。その影響で機能特性にばらつきが生じます。
3. コストがかからない方法とは
ばらつきの対処方法として公差や、機械設備の管理を厳しくする、ばらつきの少ない部品を購入する、加工や検査の工程を追加する、ばらつきを補正する機構を追加するなどがよく行われますが、コストがかかり現実的ではありません。では、コストがかからない方法はあるでしょうか。様々なばらつきに対して、影響を受けにくい設計をコストを掛けずに行おうとする場合、それには「品質工学」の力を借りることになります。
(1) 品質工学とは
品質工学は、「ばらつき」に強い設計をするための手法です。別名「ロバスト設計」とも呼ばれるように、様々なばらつき原因に対してロバストな(頑健な、影響されにくい)技術/製品を最短期間で能率よく開発・設計する手法です。
品質工学は実験計画法の大家である田口玄一博士によってよって創始されましたが、実験計画法にはない、ロバストネス(robustness)という概念を持ち込み、それを実現する道筋を示し、実験計画法とは異なる独立した分野に発展しました。
(2) パラメータ設計とは
ロバストネスを実現するための設計の最適化手法は品質工学の中で「パラメータ設計」と呼ばれます。設計パラメータ(制御因子)を最適化することによって、ばらつきの原因(誤差因子)に対して強くて、影響を受けにくい設計を実現する手法です。いろいろな設計パラメータに対して誤差因子によって揺さぶりをかけて、最も安定な設計条件を見つける、というのが基本的な考え方です。また、設計パラメータのいろいろな組合せ条件を「直交表」で発生させて実験することにより、実験能率の向上を図っています。
(3) 2段階設計とは
2段階設計は、パラメータ設計の実質的な部分で、品質工学の真骨頂とも言える部分です。実験計画法を駆使して、パラメータ(条件)を...