本来のコストダウンとは CS経営(その5)

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◆なぜ、日本の現場で問題が多発しているのか、前回のその4に続いて解説します。
 

(2) IoTで明るい未来は拓けるか

 話がずいぷんと飛躍すると思われるでしょうが、顧客満足、おもてなしを語るために必要なことなので、ここで「いただきます」「ごちそうさま」についてのエピソードを披露いたします。
 
 報道で目にした方も多いと思いますが、ある親が学校の先生に、「給食のとき『いただきます』『ごちそうさま』と言わせないでほしい」「だってそうでしょう、きちんと給食費を払っているんだから」と言ったというニュースがありました。私は、給食費を「払う」「払わない」と「いただきます」「ごちそうさま」に因果関係はないにもかかわらず、それらが結びつくことに驚くのです。なぜ「いただきます」と言うのか、なぜ「ごちそうさまでした」と言うのかは、神との関係であり、動植物の命、動植物を育てた人、調理に携わった人たちに対するありがたさ、感謝の気持ちや心のありようを表明するためです。
 
 
  
 急に「神」という表現を使ったので面喰らった読者の方もいるかと思いますが、ここではキリスト教の神とか、イスラム教の神とか、ある特定の神という意味ではなく、日本古来の八百万の神のような、必ずしも人々は意識していないが、心の中になんとなくある信仰くらいの意味合いであり、「神」というより、「文化」と呼んだほうが受け入れられやすいかもしれません。
 
 読者の方は、「いただきます」「ごちそうさま」について、どのように感じていらっしやるでしょうか。日本独自の神、文化との関係について書いた拙著『日本流『おもてなし』文化は世界的資産』(産業能率大学出版部)は多くの方々にお読みいただき、大変貴重なご意見をいただいています。また、『さいたま朝日』でコラム「いまこそ磨こう『おもてなし』文化」を連載執筆中ですが、読者の皆様からは、「大切なことなので、子供たち・孫たちにつないでいきます」というコメントをはじめ、さまざまな評価をいただいています。
 
 私たちの日常生活におけるちょっとしたしぐさなどには、『古事記』や『日本書紀』から脈々と続く、日本の伝統文化、神と関係するものは少なくないのです。礼儀作法なども同様で、企業や個人を訪問する際に、先にコートを脱ぐのは「武器を隠していない」ことを表現することの名残だし、座布団を出す理由は、床下から刀で突き上げられたときに防御できるようにする意味があり、「あなたを大切に思っています」ということを表現する行為の一つなのです。
 
 それに対して「お気づかいなく」と少し座布団を押し返すのは、「滅相もない、そんな心配はしていません」「お気づかいありがとうございます」の意味となり、客人を迎える側かさらに「遠慮なさらずに」と勧めると、客人は素直に座布団に座るのです。このような背景があったのだという説明をすると、読者の方々はすぐに納得し、素直に受け容れます。
 
 こういった日本文化の本来の意味合いを理解することは、ビジネスにおいても重要であり、講演やセミナーでお話しする機会も増えています。人は、座布団は「あなたは大切な方だから」という心のありようを示す「日本流おもてなし文化」の発露なのだということを理解すると、自然と相手を大切にし、気配り、気づかいをするようになるものです。
 
 訪問時にコートを脱ぐ行為も背景を理解できると素直に行動に結びつくでしょう。こうした気づき、気配り、気づかいが、日常生活に溶け込んでいる日本は素晴らしい文化を持った国といえます。古いこと、形式的なことといって簡単に片付けられないことは、日本の日常生活の中にたくさん溶け込んでいて、私たちの生活と融合しています。
 
 もちろん、私は日本古来の風俗・習慣は大切であるとはいっても、新しい価値を認めないというつもりは毛頭ありません。インターネットの時代となり、技術が進歩したことによって、私たちには多くのメリットがもたらされています。とくに次の世代をリードする「モノのインターネット=IoT」は人々の安全性などを担保する能力を持つ貴重な存在だと捉えています。
 
 インターネットの利便性に加え、効率化、コストダウン、情報量・速度の向上……。たとえば手紙を書く機会が減ったことと対照的に、メールのやりとりが活発になり、簡単にコミュニケーションがとれるようになったために機敏な意思伝達、連絡事項の伝達にも多大な貢献をしています。
 
 反面、ネットを利用した犯罪も増加し、ネット上の情報が人々を翻弄しています。企業なども、ネットを通じたコンプレインークレームやその野次馬サイトにもてあそばれ、下手をすると企業生命が脅かされる状況に追い込まれる危険があり、戦々恐々としています。
 
 単なる野次馬のサイトは75時間経つとほぼ収束するそうですが、それでも当事者にとっては無視したり、放っておくわけにはいかないので、余計な手間暇と費用を要することになります。最大の問題は、インターネットによって、商品・サービスの価格が大幅に下がり、それは往々にして質を落とすことに連動しているため、企業は単なる値引き合戦に巻き込まれ、それがひいては人々に「安心できない質の低下をもたらす」問題を引き起こしていることです。
 
 ビジネス社会では、どこまで価格を下げても「無料」「タダ」にはなりません。そのため、ネット販売などで行なう「タダ」「おまけ」は、商品・サービス供給側の負担になっていることが多いようです(ネットビジネスでは広告収入でカバーできるから痛みは伴わないことが多いので顕在化しにくいのです)。
 
 顧客、消費者にとっては安ければありかたいが、人間の身体や命を阻害するようなコストダウンは絶対にいけないでしょう。人間として、企業として、そして顧客として、してはならないことはしてはならないのです。それは人の生命に関わること、人の心を傷つけること、人を不幸に陥れることです。
 
 これはどんなに時代が変わったとして、変わらない基本的な約束事です。口先だけでごまかし、やっていることは正反対などということは、「犯罪」のようなものです。いくら時代が変化しても変化してはならないことがあるのです。人間の尊厳、人間の安全と安心、人類の繁栄と幸せ、人ならびに人の心を大切にすること、人の命を大切にすることはいうまでもないでしょう。
 
 本来のコストダウンとは「知恵」「工夫」「技術力」によるべきで、「顧客にとっても、作り手、提供側にとっても価値あ...
◆なぜ、日本の現場で問題が多発しているのか、前回のその4に続いて解説します。
 

(2) IoTで明るい未来は拓けるか

 話がずいぷんと飛躍すると思われるでしょうが、顧客満足、おもてなしを語るために必要なことなので、ここで「いただきます」「ごちそうさま」についてのエピソードを披露いたします。
 
 報道で目にした方も多いと思いますが、ある親が学校の先生に、「給食のとき『いただきます』『ごちそうさま』と言わせないでほしい」「だってそうでしょう、きちんと給食費を払っているんだから」と言ったというニュースがありました。私は、給食費を「払う」「払わない」と「いただきます」「ごちそうさま」に因果関係はないにもかかわらず、それらが結びつくことに驚くのです。なぜ「いただきます」と言うのか、なぜ「ごちそうさまでした」と言うのかは、神との関係であり、動植物の命、動植物を育てた人、調理に携わった人たちに対するありがたさ、感謝の気持ちや心のありようを表明するためです。
 
 
  
 急に「神」という表現を使ったので面喰らった読者の方もいるかと思いますが、ここではキリスト教の神とか、イスラム教の神とか、ある特定の神という意味ではなく、日本古来の八百万の神のような、必ずしも人々は意識していないが、心の中になんとなくある信仰くらいの意味合いであり、「神」というより、「文化」と呼んだほうが受け入れられやすいかもしれません。
 
 読者の方は、「いただきます」「ごちそうさま」について、どのように感じていらっしやるでしょうか。日本独自の神、文化との関係について書いた拙著『日本流『おもてなし』文化は世界的資産』(産業能率大学出版部)は多くの方々にお読みいただき、大変貴重なご意見をいただいています。また、『さいたま朝日』でコラム「いまこそ磨こう『おもてなし』文化」を連載執筆中ですが、読者の皆様からは、「大切なことなので、子供たち・孫たちにつないでいきます」というコメントをはじめ、さまざまな評価をいただいています。
 
 私たちの日常生活におけるちょっとしたしぐさなどには、『古事記』や『日本書紀』から脈々と続く、日本の伝統文化、神と関係するものは少なくないのです。礼儀作法なども同様で、企業や個人を訪問する際に、先にコートを脱ぐのは「武器を隠していない」ことを表現することの名残だし、座布団を出す理由は、床下から刀で突き上げられたときに防御できるようにする意味があり、「あなたを大切に思っています」ということを表現する行為の一つなのです。
 
 それに対して「お気づかいなく」と少し座布団を押し返すのは、「滅相もない、そんな心配はしていません」「お気づかいありがとうございます」の意味となり、客人を迎える側かさらに「遠慮なさらずに」と勧めると、客人は素直に座布団に座るのです。このような背景があったのだという説明をすると、読者の方々はすぐに納得し、素直に受け容れます。
 
 こういった日本文化の本来の意味合いを理解することは、ビジネスにおいても重要であり、講演やセミナーでお話しする機会も増えています。人は、座布団は「あなたは大切な方だから」という心のありようを示す「日本流おもてなし文化」の発露なのだということを理解すると、自然と相手を大切にし、気配り、気づかいをするようになるものです。
 
 訪問時にコートを脱ぐ行為も背景を理解できると素直に行動に結びつくでしょう。こうした気づき、気配り、気づかいが、日常生活に溶け込んでいる日本は素晴らしい文化を持った国といえます。古いこと、形式的なことといって簡単に片付けられないことは、日本の日常生活の中にたくさん溶け込んでいて、私たちの生活と融合しています。
 
 もちろん、私は日本古来の風俗・習慣は大切であるとはいっても、新しい価値を認めないというつもりは毛頭ありません。インターネットの時代となり、技術が進歩したことによって、私たちには多くのメリットがもたらされています。とくに次の世代をリードする「モノのインターネット=IoT」は人々の安全性などを担保する能力を持つ貴重な存在だと捉えています。
 
 インターネットの利便性に加え、効率化、コストダウン、情報量・速度の向上……。たとえば手紙を書く機会が減ったことと対照的に、メールのやりとりが活発になり、簡単にコミュニケーションがとれるようになったために機敏な意思伝達、連絡事項の伝達にも多大な貢献をしています。
 
 反面、ネットを利用した犯罪も増加し、ネット上の情報が人々を翻弄しています。企業なども、ネットを通じたコンプレインークレームやその野次馬サイトにもてあそばれ、下手をすると企業生命が脅かされる状況に追い込まれる危険があり、戦々恐々としています。
 
 単なる野次馬のサイトは75時間経つとほぼ収束するそうですが、それでも当事者にとっては無視したり、放っておくわけにはいかないので、余計な手間暇と費用を要することになります。最大の問題は、インターネットによって、商品・サービスの価格が大幅に下がり、それは往々にして質を落とすことに連動しているため、企業は単なる値引き合戦に巻き込まれ、それがひいては人々に「安心できない質の低下をもたらす」問題を引き起こしていることです。
 
 ビジネス社会では、どこまで価格を下げても「無料」「タダ」にはなりません。そのため、ネット販売などで行なう「タダ」「おまけ」は、商品・サービス供給側の負担になっていることが多いようです(ネットビジネスでは広告収入でカバーできるから痛みは伴わないことが多いので顕在化しにくいのです)。
 
 顧客、消費者にとっては安ければありかたいが、人間の身体や命を阻害するようなコストダウンは絶対にいけないでしょう。人間として、企業として、そして顧客として、してはならないことはしてはならないのです。それは人の生命に関わること、人の心を傷つけること、人を不幸に陥れることです。
 
 これはどんなに時代が変わったとして、変わらない基本的な約束事です。口先だけでごまかし、やっていることは正反対などということは、「犯罪」のようなものです。いくら時代が変化しても変化してはならないことがあるのです。人間の尊厳、人間の安全と安心、人類の繁栄と幸せ、人ならびに人の心を大切にすること、人の命を大切にすることはいうまでもないでしょう。
 
 本来のコストダウンとは「知恵」「工夫」「技術力」によるべきで、「顧客にとっても、作り手、提供側にとっても価値あるコスト」(コスト品質)でなければならないのです。そして、顧客の一人ひとりが持っている価値観を超える品質(魅力品質)を企業は目指すべきです。
 
 そして、この顧客にとっての魅力という幅と奥行きのあるテーマに常にチャレンジし続けているのが積水化学工業株式会社です。事の本質を追究するすごい会社です。ちなみに今、一斉に老朽化が進行している水道管やガス管などは、これを交換する場合、まずは地面を掘り下げ、舗装を切り取る作業が伴います。その後で老朽化した管を取り出します。その間は別の管でバイパスして機能を遮断しないようにしなければならないのです。また、掘り出した古い管は廃棄処分にするが、これは環境に大きな負荷を及ぼすことになりかねません。
 
 さらに新たな管を埋め込む作業が伴います。しかしその前に新しい管を製造し、これをトラックに乗せ、輸送し、現地で降ろし、埋め込み、つなぐ作業があります。素人が考えてもこれくらいのことは想定がつきます。多大な労力と費用とが伴うことは理解できるのですが、積水化学工業は、何と、古い管の中でロボットがコイルを巻き、これを融合すると管の中に新たな管が誕生するというとんでもないことをやってのけたのです。これは、さまざまな観点から世の中に多大な貢献をしています。政府からのみならず国際的にも表彰ものです。「魅力品質」の本質がここにあります。
 
 次回は、6.成果主義の良い面、悪い面について、解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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