ノウハウとは、開示しても真似ができないこと CS経営(その7)

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◆なぜ、分業課・モジュール化は人間性を阻害するのか

1. 人々が求めるものは進化している: 物欲の時代は終わった

 荒っぽい見方かもしれませんが、現在までの日本のモノづくりの推移を見ると、およそ次のようでしょう。
 
 1945年、日本の敗戦直後は、当然のことながら「食べる物もない」「着る物もない」「住む家もない」といった、ないないづくしの時代でした。人々は「たとえ粗悪品でもいいからほしい」という心境だったので、企業は物づくりに励んだのです。その結果、少しずつだが物が市場に現れるようになりました。企業中心、それもモノづくり・製造業・メーカーの時代です。やがて、人々の要望は「もっとたくさん、さらに多くの物がほしい」と量を求める時代に移行しました。企業は大量生産、大量販売に力を注いだのです。そして消費者はほしい物が手に入るようになりました。この段階もまだ企業が主導権を持っている時代です。
 
 すると、人々は「品質の良い商品がほしい」と、「量」に加えて「質」を求めるようになりました。企業は品質管理に力を注ぐようになります。この段階で「物」から「もの」の文字表現となりました。デミング賞、QCの時代です。この活動の成果が上がり、製品品質はレベルアップしました。この段階もまだ企業依存の時代です。しかし、次に人々の求めは製品のデザインーセンスーイメージに移行し、CIの時代となりました。
 
 消費者主導時代の幕開けです。そしてこの満足はかなり満たされるようになり、人々はそれ相応の商品を選ぶことができるようになりました。「物」から「もの」へ、そして、「モノ」へとたどり着いたのです。人々の満足は変化し、「モノ」十「サービス(主として人的サービス)」=満足となりました。明らかに顧客中心、顧客満足=CSの時代が到来したのです。ただし、この段階はまだ人的サービス、すなわちマナーに焦点が置かれていました。CSがCSM、すなわち経営に至るのは少し後になってからです。
 
 人々が、一通り持ちたいモノを持ち、体験したいサービスを体験するようになった市場成熟以降は、とくに顧客はモノからサービス、しかも形だけでなく心の伴ったサービスに主体が置かれるようになったのです。 そして現在、人々は心からの「幸せ感を求める時代」にあるのです。
 
  CSM
 

2. 人々が求めるものは進化している:「職人技=本物のノウハウ」の喪失

 「職人」とは、優れた技術を習得しており、自らの責任において限られた範囲ながら、いくつもの関係する技術を伴う仕事に取り組む人を指し、関連するいくつもの仕事ができる人です。
 
 一方、「職工」とは特定部分について依頼された箇所の作業に限定し、従事する人、と私は定義しています。18世紀半ばから19世紀にかけて、英国で生まれた手工業から工場生産への変革、すなわち産業革命は、機械の導入による工場生産への変革でした。作業は効率化を図るために、ベルトコンベアーで運ばれる部材・部品に一人ひとりが加工を施す流れ作業に変化し、以来、その効率を高めるための各種施策はさらなる分業化へ突き進んでいきました。
 
 製品の製造に関わる設計、製造といった仕事は、次第に部分に分類し、特化し、各部材・部品ごとの発注に切り替わっていきました。それに伴って製造、部材・部品をコストの安い国に集荷し、組み合わせるという方向へと進んできたのです。そしてついには設計すらも外注し、自社で行なうことはその流れの管理に移り、メーカーであっても工場を持だないスタイルへと変化する企業も増加しました。
 
 こうした場合、当初は人件費コストが低い国で行なわれ、それが低コスト製品の製造に結びついていたのですが、さらには製品分野のみならずサービス分野においても分業化が進行しました。しかし、現在はこのような取り組みを海外で行なっている日本の企業は、人件費をはじめとする諸経費の急ピッチな上昇が経営を圧迫するために、次々に人件費の安い国へと製造拠点を移す傾向にあります。そのために今までの工場を廃棄せずに現地法人に渡した結果、ノウハウを身につけた現地法人が競争相手となり、製品もコモディテイ化することにつながってしまったのです。そこでさらにコストの安い国に拠点を移すのですが、新たな国で製造するための設備投資は、下手をすると企業生命...

◆なぜ、分業課・モジュール化は人間性を阻害するのか

1. 人々が求めるものは進化している: 物欲の時代は終わった

 荒っぽい見方かもしれませんが、現在までの日本のモノづくりの推移を見ると、およそ次のようでしょう。
 
 1945年、日本の敗戦直後は、当然のことながら「食べる物もない」「着る物もない」「住む家もない」といった、ないないづくしの時代でした。人々は「たとえ粗悪品でもいいからほしい」という心境だったので、企業は物づくりに励んだのです。その結果、少しずつだが物が市場に現れるようになりました。企業中心、それもモノづくり・製造業・メーカーの時代です。やがて、人々の要望は「もっとたくさん、さらに多くの物がほしい」と量を求める時代に移行しました。企業は大量生産、大量販売に力を注いだのです。そして消費者はほしい物が手に入るようになりました。この段階もまだ企業が主導権を持っている時代です。
 
 すると、人々は「品質の良い商品がほしい」と、「量」に加えて「質」を求めるようになりました。企業は品質管理に力を注ぐようになります。この段階で「物」から「もの」の文字表現となりました。デミング賞、QCの時代です。この活動の成果が上がり、製品品質はレベルアップしました。この段階もまだ企業依存の時代です。しかし、次に人々の求めは製品のデザインーセンスーイメージに移行し、CIの時代となりました。
 
 消費者主導時代の幕開けです。そしてこの満足はかなり満たされるようになり、人々はそれ相応の商品を選ぶことができるようになりました。「物」から「もの」へ、そして、「モノ」へとたどり着いたのです。人々の満足は変化し、「モノ」十「サービス(主として人的サービス)」=満足となりました。明らかに顧客中心、顧客満足=CSの時代が到来したのです。ただし、この段階はまだ人的サービス、すなわちマナーに焦点が置かれていました。CSがCSM、すなわち経営に至るのは少し後になってからです。
 
 人々が、一通り持ちたいモノを持ち、体験したいサービスを体験するようになった市場成熟以降は、とくに顧客はモノからサービス、しかも形だけでなく心の伴ったサービスに主体が置かれるようになったのです。 そして現在、人々は心からの「幸せ感を求める時代」にあるのです。
 
  CSM
 

2. 人々が求めるものは進化している:「職人技=本物のノウハウ」の喪失

 「職人」とは、優れた技術を習得しており、自らの責任において限られた範囲ながら、いくつもの関係する技術を伴う仕事に取り組む人を指し、関連するいくつもの仕事ができる人です。
 
 一方、「職工」とは特定部分について依頼された箇所の作業に限定し、従事する人、と私は定義しています。18世紀半ばから19世紀にかけて、英国で生まれた手工業から工場生産への変革、すなわち産業革命は、機械の導入による工場生産への変革でした。作業は効率化を図るために、ベルトコンベアーで運ばれる部材・部品に一人ひとりが加工を施す流れ作業に変化し、以来、その効率を高めるための各種施策はさらなる分業化へ突き進んでいきました。
 
 製品の製造に関わる設計、製造といった仕事は、次第に部分に分類し、特化し、各部材・部品ごとの発注に切り替わっていきました。それに伴って製造、部材・部品をコストの安い国に集荷し、組み合わせるという方向へと進んできたのです。そしてついには設計すらも外注し、自社で行なうことはその流れの管理に移り、メーカーであっても工場を持だないスタイルへと変化する企業も増加しました。
 
 こうした場合、当初は人件費コストが低い国で行なわれ、それが低コスト製品の製造に結びついていたのですが、さらには製品分野のみならずサービス分野においても分業化が進行しました。しかし、現在はこのような取り組みを海外で行なっている日本の企業は、人件費をはじめとする諸経費の急ピッチな上昇が経営を圧迫するために、次々に人件費の安い国へと製造拠点を移す傾向にあります。そのために今までの工場を廃棄せずに現地法人に渡した結果、ノウハウを身につけた現地法人が競争相手となり、製品もコモディテイ化することにつながってしまったのです。そこでさらにコストの安い国に拠点を移すのですが、新たな国で製造するための設備投資は、下手をすると企業生命を脅かしかねない方向をたどっています。再投資、ならびに新たなノウハウを構築するための国内工場を持たない企業が存在するからです。
 
 「ノウハウとは、開示しても真似ができない」ことを意味しますが、今までたどってきた分業化、作業のモジュール化は、誰もができるようになり、ノウハウはなくなってしまったのです。とくに自社工場が国内に存在しなくなれば、新たなノウハウは誕生しないというのが道理でしょう。主としてアメリカ型の分業、スキル、テクニック依存の取り組み手法は、ある時間(数年という短時間)を経過すると、どの国でも、どの企業でもその方法を身につけてしまい、どの企業も、どの国と比較しても横並びとなって差がつかなくなるのです。結果、金額を下げる価格競争に陥るのです。これではコストの低い国に負けることになります。
 
 次回は、「分業化・専門化が行き着く先」をテーマに解説を続けます。
 
 【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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