多国籍化する「立体的コミュニケーション」 CS経営(その38)

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  CSM
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

6. 多国籍化する「立体的コミュニケーション」華道・一葉式いけ花

 前回の(1) いけばなの歴史をざっくり振り返る、に続いて解説します。
 

(2) 日本の伝統文化の何が問題か、単独活動の弊害

 日本には多くの伝統文化が継承され、現在も存在しています。しかし、横断的なつながりがないものがほとんどです。たとえば、「いけばな」の流派は数々ありますが、往々にして各流派のヨコのつながりや活発な交流は見えてきません。辛うじて、先述した日本いけばな芸術協会や、いけばなインターナショナルが、横の連携を保っているのみといっても過言ではないでしょう。
 
 また、茶道、書道、香道など、「道」のつく分野はさまざまあるものの、たとえば、いけばなとの連携については寡聞にして知りません。ましてや、書道、陶芸、絵画、漆芸、宝石貴金属とのつながりはどうかというと、ほとんどその関係性は乏しいようです。いずれも「点」の活動であって、「線」としてのつながりに欠けています。
 
 そのため、それぞれの結びつきが付加価値を生み、相乗効果を発揮するという活動には当然のことですが至っていません。私はそのことを大変もったいないと感じていますが、なぜ、「ヨコ」としての活動がないのでしょうか。大きな理由の一つは、コーディネーター、プロデューサー、プロモーターの不在です。
 
 日本の伝統文化だけではなく、衰退、消滅の憂き目に遭っているさまざまな分野に共通しているのが、このコーディネーター、プロデューサー、プロモーターの不在です。そして、さらに問題なのは、そのような存在が必要だと感じている関係者が少数派である点です。
 
 ANAの事例でも紹介しましたが、「専門性」というのは、放っておくと、ある分野のみに特化し、掘り下げていく「蛸壷」化しやすい性質を持っています。しかし、これまたANAの事例にも共通するのですが、プロは、全体を俯瞰する「鳥の目」、潮目を読む「魚の目」、細部を見る「虫の目」の3つすべてを身につけていなければならないのです。一つの専門分野に詳しく、同時にその専門分野に関連する周辺分野、一見関係なさそうな他の専門分野にも詳しいことが本当の専門家なのです。
 
 その意味からすると、いけばなだけに特化したのでは発展性がありません。また、国内に目を向けるだけでは、衰退、消滅の方向にまっしぐらと感じられます。日本国内のいけばな講師の高齢化は進み、少子化によって生徒数は減少の一途をたどっています。そのため、生徒を持てない講師があふれているというのです。
 
 一方の海外では、日本の伝統文化、日本流おもてなし文化に魅力を感じ、いけばなを習う人たちが増え続けています。そのうち、柔道などと同様に、日本のお家芸ではなく、海外のいけばなになるのではないかとすら思えてくるのです。数々の課題をどう解決していけばいいのでしょうか。
 

(3) おもてなしは続いてこそ本物-家元嗣(次期家元)に引き継がれる精神

 現在、一葉式いけ花の三代家元は粕谷明弘氏です。幼少の頃から花を学び、17歳から流派内外の花展に作品の発表を始め、1967年に渡米、ニューヨークでインテリアデザインを学んだそうです。こうした新しい知識、情報、感覚を身につけ、1972年に副家元となられました。次いで、1983年に一葉式いけ花三代家元に就任されました。1980年頃には、水盤に投げ入れる手法(剣山なしの盛花)を披露し、その手法の斬新さに人々は驚き、注目の的となりました。
 
 留学経験を持つだけに海外での活動も盛んであり、海外でも驚きを生んだようです。たとえば、海外で大規模ないけ方をするために、持ち運びやすい木組みの花器を考案し、人々の目が釘付けとなりました。
 
 前向き、チャレンジ型、創造性などの能力が、多大な評価を受け、現在は日本いけばな芸術協会の理事長に就任しています。
 
 そして、次の世代にも伝統精神は引き継がれています。1980年、一花式いけばな三代家元・粕谷明弘氏の次男として誕生したのが、家元嗣・粕谷尚弘氏です。幼少より家元に師事し、大学卒業後の2004年に渡米、インダストリアルデザインを学び、流派内外の花展で作品を発表してきました。また、個展や他分野の作家とのコラボレーションも積極的に展開し、魅力的な新分野を構築し続けています。いけばなの普及にも余念がないのです。
 
 ニューヨークのメトロポリタン美術館でのデモンストレーションは、その場の状況を観察し、即興で花をいけるというその見事さにより、衆目をうならせるパフォーマンスとなったようです。アメリカ、南アフリカ、ウクライナほか諸外国...
 
  CSM
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

6. 多国籍化する「立体的コミュニケーション」華道・一葉式いけ花

 前回の(1) いけばなの歴史をざっくり振り返る、に続いて解説します。
 

(2) 日本の伝統文化の何が問題か、単独活動の弊害

 日本には多くの伝統文化が継承され、現在も存在しています。しかし、横断的なつながりがないものがほとんどです。たとえば、「いけばな」の流派は数々ありますが、往々にして各流派のヨコのつながりや活発な交流は見えてきません。辛うじて、先述した日本いけばな芸術協会や、いけばなインターナショナルが、横の連携を保っているのみといっても過言ではないでしょう。
 
 また、茶道、書道、香道など、「道」のつく分野はさまざまあるものの、たとえば、いけばなとの連携については寡聞にして知りません。ましてや、書道、陶芸、絵画、漆芸、宝石貴金属とのつながりはどうかというと、ほとんどその関係性は乏しいようです。いずれも「点」の活動であって、「線」としてのつながりに欠けています。
 
 そのため、それぞれの結びつきが付加価値を生み、相乗効果を発揮するという活動には当然のことですが至っていません。私はそのことを大変もったいないと感じていますが、なぜ、「ヨコ」としての活動がないのでしょうか。大きな理由の一つは、コーディネーター、プロデューサー、プロモーターの不在です。
 
 日本の伝統文化だけではなく、衰退、消滅の憂き目に遭っているさまざまな分野に共通しているのが、このコーディネーター、プロデューサー、プロモーターの不在です。そして、さらに問題なのは、そのような存在が必要だと感じている関係者が少数派である点です。
 
 ANAの事例でも紹介しましたが、「専門性」というのは、放っておくと、ある分野のみに特化し、掘り下げていく「蛸壷」化しやすい性質を持っています。しかし、これまたANAの事例にも共通するのですが、プロは、全体を俯瞰する「鳥の目」、潮目を読む「魚の目」、細部を見る「虫の目」の3つすべてを身につけていなければならないのです。一つの専門分野に詳しく、同時にその専門分野に関連する周辺分野、一見関係なさそうな他の専門分野にも詳しいことが本当の専門家なのです。
 
 その意味からすると、いけばなだけに特化したのでは発展性がありません。また、国内に目を向けるだけでは、衰退、消滅の方向にまっしぐらと感じられます。日本国内のいけばな講師の高齢化は進み、少子化によって生徒数は減少の一途をたどっています。そのため、生徒を持てない講師があふれているというのです。
 
 一方の海外では、日本の伝統文化、日本流おもてなし文化に魅力を感じ、いけばなを習う人たちが増え続けています。そのうち、柔道などと同様に、日本のお家芸ではなく、海外のいけばなになるのではないかとすら思えてくるのです。数々の課題をどう解決していけばいいのでしょうか。
 

(3) おもてなしは続いてこそ本物-家元嗣(次期家元)に引き継がれる精神

 現在、一葉式いけ花の三代家元は粕谷明弘氏です。幼少の頃から花を学び、17歳から流派内外の花展に作品の発表を始め、1967年に渡米、ニューヨークでインテリアデザインを学んだそうです。こうした新しい知識、情報、感覚を身につけ、1972年に副家元となられました。次いで、1983年に一葉式いけ花三代家元に就任されました。1980年頃には、水盤に投げ入れる手法(剣山なしの盛花)を披露し、その手法の斬新さに人々は驚き、注目の的となりました。
 
 留学経験を持つだけに海外での活動も盛んであり、海外でも驚きを生んだようです。たとえば、海外で大規模ないけ方をするために、持ち運びやすい木組みの花器を考案し、人々の目が釘付けとなりました。
 
 前向き、チャレンジ型、創造性などの能力が、多大な評価を受け、現在は日本いけばな芸術協会の理事長に就任しています。
 
 そして、次の世代にも伝統精神は引き継がれています。1980年、一花式いけばな三代家元・粕谷明弘氏の次男として誕生したのが、家元嗣・粕谷尚弘氏です。幼少より家元に師事し、大学卒業後の2004年に渡米、インダストリアルデザインを学び、流派内外の花展で作品を発表してきました。また、個展や他分野の作家とのコラボレーションも積極的に展開し、魅力的な新分野を構築し続けています。いけばなの普及にも余念がないのです。
 
 ニューヨークのメトロポリタン美術館でのデモンストレーションは、その場の状況を観察し、即興で花をいけるというその見事さにより、衆目をうならせるパフォーマンスとなったようです。アメリカ、南アフリカ、ウクライナほか諸外国での一葉式いけ花活動はこうして非常に高く評価され、驚きと新鮮さと尊厳を世界に与え続けています。私がいう「本当の専門家」の筆頭であり、専門のいけばなを中核に、古き良き伝統を守り、継承しながら、新たな分野を開拓し続ける能動派です。
 
 たとえば、茶の世界、陶芸、とくに竹や木や金属など日本家屋との融合、縄文時代の縦穴住居や民家などとの融合は、伝統的な世界と新たな世界の融合として、新鮮な驚きを持って迎え入れられています。横浜市歴史博物館の敷地内に保存されている古民家における作品、目黒雅叙園の百段階段を上る途中にある小部屋における作品などは、見事に建物や部屋のたたずまいと融合しており、一葉式のパフォーマンスの素晴らしさを表現しています。狭い分野や流派を抜け出せない日本の伝統文化に、今求められているのは、粕谷尚弘氏のような古き良きたたずまいと融合した革新的なヨコ軸のコミュニケーションでしょう。
 
 次回は、7.フラット立ち寄れる何でも相談所、から解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載

 

 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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