「おもてなしの神髄」 CS経営(その70)

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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

 

23. 医は仁術か、それとも算術か:由富医院

 

(1) 3時間3分診療という悲しき実態

 
 高齢社会の到来により、大部分の病院はいつ行っても混んでいます。時間があって退屈する人が病院のロビーで会話を楽しみ、昼食を持参し、病院内の許された場所で食べることも珍しくはないらしいのです。3時間3分診療という言葉は、3時間も待って診察はたったの3分という嘆かわしい状態を意味しています。最近では、「3時間2分」「3時間1分」とも語られるほどです。
 
 3分か2分、1分になると、それだけ大勢の患者の診察ができるため、その医師が院長表彰を受けた例もあるのです。本当はいらない薬が処方されているという嘘と信じたいような噂もあります。もちろん、私自身、「医は仁術」と純朴なことをいうほど初心ではないにしても、「医は算術」が勝りすぎるのは問題だと考えています。病院・診療所の運営には、仁術と算術のバランスが大切なのでしょう。
 
 町中の診療所では、高齢者が増えたことで内科診療は予約を受け付けないで順番待ちという方法を採用しているところもあり、「8時間待った」「いや、私は診察まで10時間かかった」という腰を抜かしそうな話もあるのですが、これは仁術なのか算術なのか。私見ですが、本来の医は仁術であり、また算術でもあると捉えています。というのも、患者さんのための診察、治療に要する設備、システム、各種サービス、それに研究・学習などの投資が、結局のところ患者さんのためになるからです。
 

(2) 修理工場になってはいけない

 
 大病院になればなるほど、身体の部位別に専門医が担当する方式を採用しているのには一理あります。たしかにその部位に詳しい医師であればあるほど、判断、技術ともに優れている可能性が高く、患者にとってもメリットが大きいでしょう。ところで、「専門」とはどのようなことを意味しているのでしょうか。
 
 「その専門とする分野に関しては誰よりも詳しい」と考える人が多いと思いますが、それだけでは必ずしも専門とはいえないのです。専門性を高めるために、その専門を構成する諸要素について、また関連する周辺を知ることが専門性をより高めることになると私は考えます。「専門とはその道に関わる諸要素についても詳しい」ことが条件となっています。病院の多くは、人間の身体を細分化し、部位に分け、そこに関わる医師を専門医師と称して診察します。ところが人間の身体は全部がつながっています。決して部分の集まりではないのです。
 
 そうであるなら、ある部分に発生した病を治すときは、その周辺に関わる医師数名が共にその病を治すためにどうしたらいいのか相談しながら取り組んでくれれば、患者にとって一番よい治療になるはずです。さらにいうなら、人間には心があるのです。心はCTでもレントゲンでも見えません。「病は気から」のたとえのとおり、心のケアまで行なってはじめて治療だと私は思いますが、そこまでの取り組みをしてくれる病院、医師は非常に少ないでしょう。
 

(3) とにもかくにも「人」が好き

 
 由富医院の院長を務める由富章一氏は、成人病、循環器疾患などの内科全般のプライマリーケア、および生活習慣病の予防・管理にも努めています。副院長の由富章子氏は眼科の専門医(熊本県眼科医理事)。眼精疲労、眼合併症、視力矯正等さまざまな病気の相談に応じています。また章子氏は、エッセイスト、日本ペンクラブ会員であり、ドラマのシナリオなども手掛けています。著書に、『おもしろ医学館』(熊本日日新聞社)、『顔の言い分手の言い分』(三田出版会)、『なるほど、ヒトの顔は面白い』(日本放送出版協会)、『診察室うふふ日記』(西日本新聞社)などがあり、大に強い興味と関心を持ち、人の健康を文章や演出などでわかりやすく本質を伝えている様子がよくわかります。
 
 ともかく人が好...
 
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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

 

23. 医は仁術か、それとも算術か:由富医院

 

(1) 3時間3分診療という悲しき実態

 
 高齢社会の到来により、大部分の病院はいつ行っても混んでいます。時間があって退屈する人が病院のロビーで会話を楽しみ、昼食を持参し、病院内の許された場所で食べることも珍しくはないらしいのです。3時間3分診療という言葉は、3時間も待って診察はたったの3分という嘆かわしい状態を意味しています。最近では、「3時間2分」「3時間1分」とも語られるほどです。
 
 3分か2分、1分になると、それだけ大勢の患者の診察ができるため、その医師が院長表彰を受けた例もあるのです。本当はいらない薬が処方されているという嘘と信じたいような噂もあります。もちろん、私自身、「医は仁術」と純朴なことをいうほど初心ではないにしても、「医は算術」が勝りすぎるのは問題だと考えています。病院・診療所の運営には、仁術と算術のバランスが大切なのでしょう。
 
 町中の診療所では、高齢者が増えたことで内科診療は予約を受け付けないで順番待ちという方法を採用しているところもあり、「8時間待った」「いや、私は診察まで10時間かかった」という腰を抜かしそうな話もあるのですが、これは仁術なのか算術なのか。私見ですが、本来の医は仁術であり、また算術でもあると捉えています。というのも、患者さんのための診察、治療に要する設備、システム、各種サービス、それに研究・学習などの投資が、結局のところ患者さんのためになるからです。
 

(2) 修理工場になってはいけない

 
 大病院になればなるほど、身体の部位別に専門医が担当する方式を採用しているのには一理あります。たしかにその部位に詳しい医師であればあるほど、判断、技術ともに優れている可能性が高く、患者にとってもメリットが大きいでしょう。ところで、「専門」とはどのようなことを意味しているのでしょうか。
 
 「その専門とする分野に関しては誰よりも詳しい」と考える人が多いと思いますが、それだけでは必ずしも専門とはいえないのです。専門性を高めるために、その専門を構成する諸要素について、また関連する周辺を知ることが専門性をより高めることになると私は考えます。「専門とはその道に関わる諸要素についても詳しい」ことが条件となっています。病院の多くは、人間の身体を細分化し、部位に分け、そこに関わる医師を専門医師と称して診察します。ところが人間の身体は全部がつながっています。決して部分の集まりではないのです。
 
 そうであるなら、ある部分に発生した病を治すときは、その周辺に関わる医師数名が共にその病を治すためにどうしたらいいのか相談しながら取り組んでくれれば、患者にとって一番よい治療になるはずです。さらにいうなら、人間には心があるのです。心はCTでもレントゲンでも見えません。「病は気から」のたとえのとおり、心のケアまで行なってはじめて治療だと私は思いますが、そこまでの取り組みをしてくれる病院、医師は非常に少ないでしょう。
 

(3) とにもかくにも「人」が好き

 
 由富医院の院長を務める由富章一氏は、成人病、循環器疾患などの内科全般のプライマリーケア、および生活習慣病の予防・管理にも努めています。副院長の由富章子氏は眼科の専門医(熊本県眼科医理事)。眼精疲労、眼合併症、視力矯正等さまざまな病気の相談に応じています。また章子氏は、エッセイスト、日本ペンクラブ会員であり、ドラマのシナリオなども手掛けています。著書に、『おもしろ医学館』(熊本日日新聞社)、『顔の言い分手の言い分』(三田出版会)、『なるほど、ヒトの顔は面白い』(日本放送出版協会)、『診察室うふふ日記』(西日本新聞社)などがあり、大に強い興味と関心を持ち、人の健康を文章や演出などでわかりやすく本質を伝えている様子がよくわかります。
 
 ともかく人が好きな医師なのです。「医学は人に関わることなんだ」という当たり前のことを当たり前に捉えています。そのため、人間をロボットのように捉えて、部分の修理をする感覚は持ち合わせていません。とくに専門分野の眼の治療を通して、眼以外の全身の異変を本人が自覚する以前に鋭い観察眼でキャッチし、治療し、またその症状に最適な病院を紹介します。人脈も豊富なのです。
 
 また地域の人だちとの交流も活発に行なっており、熊本県玉名市の地域の人たちの健康すべてを守り、相談に乗ってくれる頼りになる、ありかたい存在であり、「人思い」の名士です。
 
【出典】武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
    筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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