1. CS-TB(CS-T with Bayesian Optimization) 法とは
本解説シリーズの品質工学による技術開発(その4)と(その20)において、改善効果のメカニズムを効率的には把握する技法CS-T法を取り上げました.CS-T法は2015年の論文発表以降,複数の企業で活用されその有効性が確認されています[1][2][3].最近では従来のパラメータ設計では困難であった新規システムの考案をCS-T法で実施し,特許出願を実現した事例も報告されています[4].今回はCS-T法と最近注目されているベイズ最適化を融合した新技法CS-TB(CS-T with Bayesian Optimization) 法を紹介します.
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 品質工学の魅力とその創造性への影響(細川 哲夫 氏)
2. CS-TB法の概要
CS-T法の狙いは新たな制御因子やシステムを考案するための技術情報を獲得することであり,そこには既存の制御因子の水準を最適化しても性能やロバスト性の目標を達成できないという前提がありました.よって,必要な技術情報を十分な精度で得ることができたと判断した時点で直交表実験を途中で打ち切ることが可能になります.少ない実験回数で有益な技術情報を得る効率性もCS-T法のメリットです.
特に取り上げたい制御因子が多く存在する技術開発段階においては,最も一般的に使われる直交表L18では全ての制御因子を割り付けることができないケースが多いという問題があります.L36など規模の大きい直交表を使わざるを得ない状況が多いのですが,そんな状況でもCS-T法によって36行中13行の実施で重要な技術情報を得ることができた例もあります[1][2].
このようにCS-T法は技術手段を効率的に発想する技法として優れていることが複数の事例で確認されていますが,最適条件を把握したいケースでは直交表の全ての行を実施する必要がありました.L18クラスの直交表であれば全行の実施も可能なケースが多いのですが,L36クラスの直交表では全行の実施には長期間が必用となり効率性の点で課題があったのです.
この課題を解決する新たな技法がCS-TB法です,CS-TB法ではCS-T法の解析と同時並行してベイズ最適化の解析を実施します[5].これによって直交表実験を全行実施しなくても技術手段発想のための技術情報の獲得と最適条件の推定の両方が可能となります.
図1にCS-TB法の実施フローチャートを示します.CS-T法もベイズ最適化も実験を逐次的に実施するという点が共通の技法であり,とても親和性が高いのです.この親和性の高さが図1のフローチャートを可能にしています.また,ベイズの最適条件推定に使う学習データの入手に直交表実験が有効であることも確認しました.直交表実験との相性の良さもCS-T法とベイズ最適化の融合効果を高める要因と言えます.
図.1 CS-TB法の実施フローチャート
3. CS-TB法の効果の例
ある技術開発テーマへのCS-TB法活用結果の概要を紹介します.当該デバイスは非常に複雑な構造からなり,目的特性との因果関係が予想される制御因子候補が15個ありました.さらに技術的な意味を持つかもしれない新たな制御因子が18個定義しました.15個の制御因子を直交表L36に割り付け,18個の定義した制御因子を中間特性としてT法パートの項目に入れました.
15行の実験結果からのCS-T法解析から1つの制御因子と3つの新たな制御因子を抽出し,これら4つの因子を使ってベイズ最適化を実施したところ,3回の追加実験で目的特性の目標値を得ることができました.結果として18回の実験で33個の因子を対象に要因解析と最適化を完了することができたのです.CS-TB法については,第32回品質工学研究発表大会(RQES2024S)で詳細を発表します.
【参考文献】
[1] 細川哲夫,岡室昭男,佐々木康夫,多田幸司:パラメータ設計とT法を融合した開...