補完品企業 研究テーマの多様な情報源(その10)

更新日

投稿日

 

情報源としての補完品企業

 

1.補完品企業から情報を収集する意義

 前回は、研究テーマの多様な情報源(その9 ラガード)遅れる人とは 、でした。今回は、その10 補完品企業です。補完品企業とは、自社の顧客が購入している他製品の提供企業を意味します。例えば自社が自動車のハンドルメーカーであれば、自社の顧客である自動車メーカーに他の製品、例えばエアバックを提供している企業のことを言います。補完品企業から情報を収集するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?

 もし補完品との関係が上のハンドルとエアバックのように関係が深ければ(通常エアバックはハンドルの中に格納されている)、両者が別々の独立した企業で設計、製造されることで、エアバックのハンドルとの取り合い上の制約やエアバックのハンドルへの組み込み作業上の問題など両者が最適化されていないという状況が想定されます。したがって、両者の問題点等の情報を持ち寄れば、最適化が可能となり、機能アップ、小型化、部品点数の削減、組み立て作業の工数低減等の効果が期待できます。 

 さらには、例えばハンドルメーカーが、ハンドルの一部としてエアバックを自社の製品に組み込んでしまうということが考えられ、実はこのハンドルとエアバックのモジュラー化は既に行われています。また、自動車用モーターを製造する日本電産が最近ドイツの車載ポンプメーカーの買収を発表したのは、まさにこのような効果を期待してのことでしょう。 

 そして、さらに一歩進めて、自社側の全く新しい技術で、補完品を不要にするということも可能かもしれません。

  また、自社は補完品企業にとっての競合企業ではありませんから、複数の補完品企業と情報交換を行うことさえもできる立場にあります。そうなると、自社は個別の補完品企業より、より俯瞰的に市場の全体像を把握することが可能となり、個別の補完企業の情報を超えた情報を手に入れることができる訳で、従来補完企業では発想できていなかった新しいアイデアを発想できる可能性が高まります。 

 つまり、自社製品の企画の対象には、自社の従来の製品だけでなく、視野を広く持ち、関連する補完品やサービスの情報・知識を集めることで、より良い製品、革新的製品が実現できる可能性が高まります。多くの企業で、テーマの創出を行う場合に、これら補完企業の製品にまで視野を広げて考えてはいません。まさに、補完品企業の情報は活用されていない重要情報ということが言えるでしょう。
  

2.補完品企業やその製品についての情報を収集する方法

 補完品企業およびその製品について情報を収集する方法の1つは、単純ではありますが、直接補完品企業と打合せを持つことです。補完品企業は競合企業ではありませんし、お互いにとって補完企業ですし、また場合によっては顧客とサプライヤーの関係になる可能性もありますし、お互いに情報交換のメリットはおおいにありますので、積極的に進めるべきでしょう。 

 2つ目に補完品の製品を購入し、自社の製品との組み合わせで、顧客そしてB2B製品の場合には顧客の顧客としてテストを行うということが考えられます。

 3つ目には、その補完品製品もしくはサービスが実際に製造されたり、提供されたり、顧客の生産現場で組み込まれている場を...

 

情報源としての補完品企業

 

1.補完品企業から情報を収集する意義

 前回は、研究テーマの多様な情報源(その9 ラガード)遅れる人とは 、でした。今回は、その10 補完品企業です。補完品企業とは、自社の顧客が購入している他製品の提供企業を意味します。例えば自社が自動車のハンドルメーカーであれば、自社の顧客である自動車メーカーに他の製品、例えばエアバックを提供している企業のことを言います。補完品企業から情報を収集するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?

 もし補完品との関係が上のハンドルとエアバックのように関係が深ければ(通常エアバックはハンドルの中に格納されている)、両者が別々の独立した企業で設計、製造されることで、エアバックのハンドルとの取り合い上の制約やエアバックのハンドルへの組み込み作業上の問題など両者が最適化されていないという状況が想定されます。したがって、両者の問題点等の情報を持ち寄れば、最適化が可能となり、機能アップ、小型化、部品点数の削減、組み立て作業の工数低減等の効果が期待できます。 

 さらには、例えばハンドルメーカーが、ハンドルの一部としてエアバックを自社の製品に組み込んでしまうということが考えられ、実はこのハンドルとエアバックのモジュラー化は既に行われています。また、自動車用モーターを製造する日本電産が最近ドイツの車載ポンプメーカーの買収を発表したのは、まさにこのような効果を期待してのことでしょう。 

 そして、さらに一歩進めて、自社側の全く新しい技術で、補完品を不要にするということも可能かもしれません。

  また、自社は補完品企業にとっての競合企業ではありませんから、複数の補完品企業と情報交換を行うことさえもできる立場にあります。そうなると、自社は個別の補完品企業より、より俯瞰的に市場の全体像を把握することが可能となり、個別の補完企業の情報を超えた情報を手に入れることができる訳で、従来補完企業では発想できていなかった新しいアイデアを発想できる可能性が高まります。 

 つまり、自社製品の企画の対象には、自社の従来の製品だけでなく、視野を広く持ち、関連する補完品やサービスの情報・知識を集めることで、より良い製品、革新的製品が実現できる可能性が高まります。多くの企業で、テーマの創出を行う場合に、これら補完企業の製品にまで視野を広げて考えてはいません。まさに、補完品企業の情報は活用されていない重要情報ということが言えるでしょう。
  

2.補完品企業やその製品についての情報を収集する方法

 補完品企業およびその製品について情報を収集する方法の1つは、単純ではありますが、直接補完品企業と打合せを持つことです。補完品企業は競合企業ではありませんし、お互いにとって補完企業ですし、また場合によっては顧客とサプライヤーの関係になる可能性もありますし、お互いに情報交換のメリットはおおいにありますので、積極的に進めるべきでしょう。 

 2つ目に補完品の製品を購入し、自社の製品との組み合わせで、顧客そしてB2B製品の場合には顧客の顧客としてテストを行うということが考えられます。

 3つ目には、その補完品製品もしくはサービスが実際に製造されたり、提供されたり、顧客の生産現場で組み込まれている場を観察することです。実際に私のクライエント企業でエレクトロニクス設備用機器を製造しているメーカーでは、その装置が補完品企業である据え付け業者によって据え付けられている作業を観察し、製品アイデアに生かしている例があります。

 以上2つ目、3つ目については、実際には自社の顧客がそのような視点で、作業を行っている訳ですが、その場合は顧客からそのような情報がもたらされるわけで、情報量としては限定的です。自社で、実際の現場に身をおき、直接経験することで、形式知たけでなく暗黙知も含めた情報収集が可能となります。

 4つ目の究極の姿としては、上で紹介した日本電産のように、補完品メーカーを買収するということも考慮の対象となるでしょう。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「ステージゲート法」の他のキーワード解説記事

もっと見る
顧客の現場にある自社製品は、『トロイの木馬』

1.自社にとっての既存顧客の価値とは  マーケティングの言葉にLTV(顧客生涯価値)という言葉があります。これは、ある顧客がその生涯において自社にいくら...

1.自社にとっての既存顧客の価値とは  マーケティングの言葉にLTV(顧客生涯価値)という言葉があります。これは、ある顧客がその生涯において自社にいくら...


自社の技術知識を強化・拡大するための『TCAS』モデルとは

 革新的テーマのスパーク(新結合)には「市場知識」「技術知識」「自社の強み」の3つの原料が必要とされます。  研究開発に携わる人たちにとっては、「技術知...

 革新的テーマのスパーク(新結合)には「市場知識」「技術知識」「自社の強み」の3つの原料が必要とされます。  研究開発に携わる人たちにとっては、「技術知...


ステージゲート法導入プロジェクトの始め方

 ステージゲート法の導入の大きな問題が、プロジェクトチーム側である研究者や技術者の方々の抵抗です。今回はこの問題について議論します。 1.プロジェクトチ...

 ステージゲート法の導入の大きな問題が、プロジェクトチーム側である研究者や技術者の方々の抵抗です。今回はこの問題について議論します。 1.プロジェクトチ...


「ステージゲート法」の活用事例

もっと見る
3Mにおける組織内の知識・情報活用の事例

 研究テーマの設定、推進にあたって、組織内の知識・情報(特に技術に関する)の活用は極めて有用ですが、それを徹底しているのがイノベーションで有名な3Mです。...

 研究テーマの設定、推進にあたって、組織内の知識・情報(特に技術に関する)の活用は極めて有用ですが、それを徹底しているのがイノベーションで有名な3Mです。...


オープンイノベーションにおけるライトハウスカスタマーの事例2件

 情報・知識を多様化するコンセプトとして、オープンイノベーションが注目されています。今回は、そのための情報発信先としてのライトハウスカスタマーについて、B...

 情報・知識を多様化するコンセプトとして、オープンイノベーションが注目されています。今回は、そのための情報発信先としてのライトハウスカスタマーについて、B...


積極的情報発信の事例

  「情報の収集のための積極的情報発信」の必要性については、りんご(情報)を収穫するのに、一つ一つのりんごをりんごの木からもぎ取るのではなく、りんごの木の...

  「情報の収集のための積極的情報発信」の必要性については、りんご(情報)を収穫するのに、一つ一つのりんごをりんごの木からもぎ取るのではなく、りんごの木の...