設計改善研究会の成果 伸びる金型メーカーの秘訣 (その39)

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  技術マネジメント
 
 今回、紹介する機械装置メーカーは、株式会社 K製作所です。同社は、自動車メーカーや工作機械メーカーなどで使用される、自動装置の設計製造を行っています。元々同社はストッカーなど自動装置を、標準ラインナップの中からカタログ販売する製造販売メーカーでしたが、現在は顧客ユーザーのニーズにより、材料の供給からストック、搬送、加工、検査などを全て自動化するシステム一式で請け負う事業が主力になっています。同社において、そのシステム一式の請け負い事業を支えているのが、設計部・開発部の存在ですが、ここでは、設計改善研究会の成果事例を解説します。
 

1. コアコンピタンス

 
 同社の強みは、次の3点に集約されます。
 

(1) 幅広い顧客ユーザーに対応できる技術・設計力

 
 同社の強みとして、幅広い顧客ユーザーに対応できる技術・設計力があります。顧客は、自動車メーカーやそのティア1、ティア2メーカー、また工作機械メーカーなど幅広い分野に渡っており、自動装置に要求される細かな仕様は、各社・各分野それぞれに異なっています。そうした幅広い技術分野に対応できる技術力・設計力があるのです。
 

(2) 顧客ユーザーごとの細かな要求に対応できる小回りの良さ

 
 顧客ユーザーごとの細かな要求に対応できる小回りの良さも強みの一つです。顧客ユーザーからは、直接口頭や文書などで顕在的に求められる仕様ニーズもあれば、機能や概念など潜在的なニーズとして、設計担当者が打ち合わせの中でくみ取らなければならない仕様ニーズもあります。
 

(3) 細かなユーザーのオーダーメイド受託に対応できる設計職人集団

 
 細かなユーザーのオーダーメイド受託に対応できる設計職人集団。前述した強みは、まさに同社を支える設計部隊の努力であり、顧客ごとの担当設計者が自律した機能を持ち、顧客からオーダーメイドで発注されるそれぞれの仕様を細かくくみ取り対応している設計職人の集団であるからこそ成り立っています。
 

2. 強みゆえのウィークポイント

 
 同社では、幅広い顧客ユーザーごとのオーダーメイド発注に対応してきたため、設計職人ごとの構造・ユニット・市販部品選定において自己流に派生した図面が、社内に根付いてしまいました。自律した設計職人集団であることは、同社の強みでありメリットこそ大きいのですが、このようなデメリットもあるのです。
 
 このため、後工程である購買・組み立て部門の効率低下を招く事態が起きていました。例えば、設計者ごとに異なる構造を採用したり市販部品を用いたりすることで、購買部門ではまとめ発注により安く購入するなど、規模の経済を活かせない状況です。
 

3. 改革プロジェクト:設計改善研究会

 
 そこで、開発部・設計部主導による「設計改善研究会」を筆者と共に発足しました。これにより、設計部門の強みを活かしつつ、会社全体としてのウィークポイントを改善できる設計管理の仕組みの構築を図ることを目指すことになりました。またこれまでの同社において、外注設計を含めた2D設計主体から、すでに導入を進めていた3次元設計を主体とすることへの変革も図ることにしました。この研究会によって、そのための下地を1年で構築することを目標としました。
 

4. プロジェクトの成果

 
 ここまで半年間続けてきたプロジェクトの進捗成果として、次のような方向性が見えてきました。
 
  • 3D設計でも応用できる設計管理方式の構築
  • 自社の部品規格として、重複しない固有名称と仕様の標準化
  • 設計要件仕様書の確立(機械・電気仕様など要件定義を、詳細設計前に見える化する)
 

5. 同社が導入する設計管理とは

 
 ここで同社が導入していく設計管理方式について見ていきます。これは社内で継続的に、同じかアレンジした図面を継続的に再利用していく図面の管理方法についての話です。ただし前提条件として、複数の設計者で管理・更新していく場合に限定される管理方法です。というのは1人で管理していくのであれば、他者に申し伝えることは必要なく、自分のパソコンで管理するなど個人管理だけで済むためです。
 
 一見、アレンジ設計した図面はそれぞれ個人管理のように見えます。しかし、社内で締結方法を統一したいとか、市販部品の種類や購入先を統一し購買部門のムダ削減を図りたいなど、本来、企業の全体最適としては統一ルールを共有していかなければならないのです。具体的に、複数設計者で図面データを管理していく方法としては、(1) テンプレート方式と、(2) データベース方式の2つです。
 

(1) テンプレート管理方式を採用するケース

 
 テンプレート管理方式は、顧客ごとや、製品ごとで、図面の種類がさほど多くない場合に採用されます。具体的には、機械装置ごとに、アレンジ設計の基礎となる親図面(これをテンプレートを言う)を定義し、それをサーバーに保存、設計者はそこからコピーして再利用設計を行います。
 
 運用上のルールとして、新たに採用したサブアセンブリや市販部品があれば、テンプレートに盛り込んで更新します。ただし、それは誰でも好き勝手にやっていいものではなく、社内でそれが許されるテンプレート管理責任者を選任するなど、そのテンプレートを再利用する設計者全員に編集権限を管理していくことが必要になります。
 

(2) データベース管理方式を採用するケース

 
 データベース管理方式は、顧客ごとや、製品ごとの仕様により、管理・保存する図面の種類が多いときに採用されます。具体的な運用方法としては、設計者が自分の設計が終った時点で、どの親図面を使ったか、またその親図面にどのような変更を行ったかをデータベースに登録していきます。新たにアレンジ設計を行う際、設計者は過去にさかのぼって親図面を検索し、その子や孫となる派生図面に登録されている情報(過去に修正・変更した内容)を参照しながら、それらの修正を盛り込んだ新規の設計を行います。
 
 データベースはこのように活用しながら、複数の設計者で最新情報を共有していくために利用されます。この方式のメリットとしては、一番祖先の親図面(テンプレート)を最新の状態に更新する必要がないことです。
 
 顧客ごとや、製品ごとの仕様により、管理・保存する図面が多い場合、テンプレートを作っても、管理するテンプレート図面が多くなるだけで、せっかく更新してもそれぞれのテンプレートは使う頻度が少...
 
  技術マネジメント
 
 今回、紹介する機械装置メーカーは、株式会社 K製作所です。同社は、自動車メーカーや工作機械メーカーなどで使用される、自動装置の設計製造を行っています。元々同社はストッカーなど自動装置を、標準ラインナップの中からカタログ販売する製造販売メーカーでしたが、現在は顧客ユーザーのニーズにより、材料の供給からストック、搬送、加工、検査などを全て自動化するシステム一式で請け負う事業が主力になっています。同社において、そのシステム一式の請け負い事業を支えているのが、設計部・開発部の存在ですが、ここでは、設計改善研究会の成果事例を解説します。
 

1. コアコンピタンス

 
 同社の強みは、次の3点に集約されます。
 

(1) 幅広い顧客ユーザーに対応できる技術・設計力

 
 同社の強みとして、幅広い顧客ユーザーに対応できる技術・設計力があります。顧客は、自動車メーカーやそのティア1、ティア2メーカー、また工作機械メーカーなど幅広い分野に渡っており、自動装置に要求される細かな仕様は、各社・各分野それぞれに異なっています。そうした幅広い技術分野に対応できる技術力・設計力があるのです。
 

(2) 顧客ユーザーごとの細かな要求に対応できる小回りの良さ

 
 顧客ユーザーごとの細かな要求に対応できる小回りの良さも強みの一つです。顧客ユーザーからは、直接口頭や文書などで顕在的に求められる仕様ニーズもあれば、機能や概念など潜在的なニーズとして、設計担当者が打ち合わせの中でくみ取らなければならない仕様ニーズもあります。
 

(3) 細かなユーザーのオーダーメイド受託に対応できる設計職人集団

 
 細かなユーザーのオーダーメイド受託に対応できる設計職人集団。前述した強みは、まさに同社を支える設計部隊の努力であり、顧客ごとの担当設計者が自律した機能を持ち、顧客からオーダーメイドで発注されるそれぞれの仕様を細かくくみ取り対応している設計職人の集団であるからこそ成り立っています。
 

2. 強みゆえのウィークポイント

 
 同社では、幅広い顧客ユーザーごとのオーダーメイド発注に対応してきたため、設計職人ごとの構造・ユニット・市販部品選定において自己流に派生した図面が、社内に根付いてしまいました。自律した設計職人集団であることは、同社の強みでありメリットこそ大きいのですが、このようなデメリットもあるのです。
 
 このため、後工程である購買・組み立て部門の効率低下を招く事態が起きていました。例えば、設計者ごとに異なる構造を採用したり市販部品を用いたりすることで、購買部門ではまとめ発注により安く購入するなど、規模の経済を活かせない状況です。
 

3. 改革プロジェクト:設計改善研究会

 
 そこで、開発部・設計部主導による「設計改善研究会」を筆者と共に発足しました。これにより、設計部門の強みを活かしつつ、会社全体としてのウィークポイントを改善できる設計管理の仕組みの構築を図ることを目指すことになりました。またこれまでの同社において、外注設計を含めた2D設計主体から、すでに導入を進めていた3次元設計を主体とすることへの変革も図ることにしました。この研究会によって、そのための下地を1年で構築することを目標としました。
 

4. プロジェクトの成果

 
 ここまで半年間続けてきたプロジェクトの進捗成果として、次のような方向性が見えてきました。
 
  • 3D設計でも応用できる設計管理方式の構築
  • 自社の部品規格として、重複しない固有名称と仕様の標準化
  • 設計要件仕様書の確立(機械・電気仕様など要件定義を、詳細設計前に見える化する)
 

5. 同社が導入する設計管理とは

 
 ここで同社が導入していく設計管理方式について見ていきます。これは社内で継続的に、同じかアレンジした図面を継続的に再利用していく図面の管理方法についての話です。ただし前提条件として、複数の設計者で管理・更新していく場合に限定される管理方法です。というのは1人で管理していくのであれば、他者に申し伝えることは必要なく、自分のパソコンで管理するなど個人管理だけで済むためです。
 
 一見、アレンジ設計した図面はそれぞれ個人管理のように見えます。しかし、社内で締結方法を統一したいとか、市販部品の種類や購入先を統一し購買部門のムダ削減を図りたいなど、本来、企業の全体最適としては統一ルールを共有していかなければならないのです。具体的に、複数設計者で図面データを管理していく方法としては、(1) テンプレート方式と、(2) データベース方式の2つです。
 

(1) テンプレート管理方式を採用するケース

 
 テンプレート管理方式は、顧客ごとや、製品ごとで、図面の種類がさほど多くない場合に採用されます。具体的には、機械装置ごとに、アレンジ設計の基礎となる親図面(これをテンプレートを言う)を定義し、それをサーバーに保存、設計者はそこからコピーして再利用設計を行います。
 
 運用上のルールとして、新たに採用したサブアセンブリや市販部品があれば、テンプレートに盛り込んで更新します。ただし、それは誰でも好き勝手にやっていいものではなく、社内でそれが許されるテンプレート管理責任者を選任するなど、そのテンプレートを再利用する設計者全員に編集権限を管理していくことが必要になります。
 

(2) データベース管理方式を採用するケース

 
 データベース管理方式は、顧客ごとや、製品ごとの仕様により、管理・保存する図面の種類が多いときに採用されます。具体的な運用方法としては、設計者が自分の設計が終った時点で、どの親図面を使ったか、またその親図面にどのような変更を行ったかをデータベースに登録していきます。新たにアレンジ設計を行う際、設計者は過去にさかのぼって親図面を検索し、その子や孫となる派生図面に登録されている情報(過去に修正・変更した内容)を参照しながら、それらの修正を盛り込んだ新規の設計を行います。
 
 データベースはこのように活用しながら、複数の設計者で最新情報を共有していくために利用されます。この方式のメリットとしては、一番祖先の親図面(テンプレート)を最新の状態に更新する必要がないことです。
 
 顧客ごとや、製品ごとの仕様により、管理・保存する図面が多い場合、テンプレートを作っても、管理するテンプレート図面が多くなるだけで、せっかく更新してもそれぞれのテンプレートは使う頻度が少なく、手間をかけるほどメリットが出ないのです。そこでどの世代の図面を使っても、最新の状態にするための情報を、別途データベースから参照することで、設計者全員が最新情報を参照できる方法を採用するのです。それがデータベース管理方式です。
 

6. 同社独自の管理方式構築と今後の方向性

 
 このプロジェクトによる外注設計も含めた一元管理体制を構築し、これまでに設計職人集団が蓄積してきたノウハウを、同社の設計資産として全員で共有していける仕組みを完成させます。またその設計資産を活かしつつ、2Dから3D設計に段階的で直線的な移行を図っていきます。
 
 したがって、2D・3D設計、両方に適用できる設計管理方法が必要になります。それら条件に合致するのがテンプレート管理方式であり、今後管理ルールの整備と共に同社独自の仕組みとして構築し、根付かせていきます。高度な設計管理方式の導入により、設計職人の強みを活かした自動装置事業のさらなる強化を図る同社に、筆者は大きな期待をしています。
 
 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。
 

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この記事の著者

村上 英樹

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント


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