‐時代の流れを意識した開発テ-マの設定‐ 製品・技術開発力強化策の事例(その5)
2015-11-12
前回の事例その4に続いて解説します。時代の流れに沿う開発テ-マとして、最近では、高齢者介護機器、環境関連機器、省エネ機器、情報技術(IT)等に関心が注がれています。時代の流れとして報道される事が多く、社会的な関心が強いことから有望な開発テ-マとして取り上げられ易く、市場になだれ込む企業も多く、競争は激しくならざるを得ません。
これらの分野に参入する事は時代の流れに沿うことになり、有望な開発テ-マになり得ると表面的に解釈して事業に参入すると思わぬ障害に出会って迷路に入り込む場合が多いのです。やがて淘汰される企業が増えることは過去の例を見れば明らかです。多くの新規参入企業の中で生き残るのは、一握りの企業です。
新規参入分野で生き残り企業になるには、自企業の技術を発展させて行く方向の中で、時代の流れとの接点を見つけるような発想が大切です。社会のム-ドに流されて自企業の置かれている状態を厳密に見極めないで、「社会が求めている」「ニ-ズがある」と表面的に解釈して取り組むような開発では、成果を上げることは出来ません。
N社はホ-ムペ-ジの企画を主たる業務にしているが、元々は、金属部品の加工を行う現場技術者が一念発起して、起業したものです。当初パソコン等の販売を行っていたが、販売先でソフトウエアの技術者が不足している現状から、中小企業向けにソフトウエアの支援事業に転換しました。この分野に参入すると、開発された製品や優れた技術を持つ企業は多いが、販売で迷っている中小企業が多いことに気づきました。
この問題意識を基にして、ホ-ムペ-ジによるPR業務を受託する事業に参入したのです。ホ-ムペ-ジの企画に対しては委託企業の現場に出向き、該当業務の担当者から現場での作業状況を聞出し、その製品の生産面で特に留意している事項、品質面の特徴が購入者にどのような利点を提供するようになるのか、きめ細かい情報収集に力を注いで、そこから得られた資料をホ-ムペ-ジの企画に反映させています。N社長にはかつて、現場技術者としての経験があるから、現場に出掛けて意見交換することは苦になりません。また、現場経験があるから、現場技術者の心理が分かり、彼らが関心を寄せる所が判ります。
N社長はソフトウエアの技術者ではなかったが、その必要性を認識して、起業後に学校に通って学んでいます。現場を知っているため、現場での意見交換が円滑に行われ、委託者の評価は高いようです。事業展開の一つとして、ホ-ムペ-ジに寄せられた質問に対して、委託者と利用者の間に入ってメッセ-ジの処理を行うことを会員制にして事業化しています。PR効果が上がって関西と東北地方の企業の結び付きで製品開発が行われた事例などがあります。
新規採用したソフトウエアの技術者は、N社長のように現場に出掛けて情報収集する事が簡単にできません。それでは、N社の方針に沿った営業活動が出来なくなるとして、N社長は新入社員を同行させて、社長の情報収集の状況を肌で体験するようにOJTしています。そして、帰社後に感想文を提出させ、それを指導の資料に活用しています。
開発した製品の販売方法が判らず迷っている企業に対し、ホ-ムペ-ジでPRする業務を受託する企業の事例を紹介しまし...
た。製品開発者の意図を十分に理解し、開発動機などを含め開発の目的をホ-ムペ-ジに反映させ、閲覧者の心に好印象を与えるような企画製作の力が必要です。そのことの実現のため、依頼者の現場に出向き、資料収集を行う労を惜しんではなりません。一般的に言えることですが、ソフトウエアの技術者はコンピュ-タ-を相手に仕事をすることに馴れて、人との会話をすることが苦手な者が比較的多いようです。このような苦手な問題を克服し、新たな能力を自己啓発して行くことが非常に大切です。
時代の流れから判断して必要性があるとして、取り上げた開発テ-マとの接点に自社の得意技術が位置付けられていること。または、強い関心があって研究が日常から行われている内容と時代の変化との間に接点を見つけ出すことが研究開発に対して不可欠の条件です。