「経営方針」設定の手順 中小メーカ向け経営改革の考察(その9)

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 前回のその8に続いて解説します。経営方針を設定するには所属業界、関連団体に関する情報収集機能が働いていなければなりません。その機能が確保されていない場合には、どのような企業を実現させたいのか、将来展望を描き出すだけに留め、数年がかりで方針を練り上げていく方が適正です。そして、日常発生している問題(品質、納期、コスト)解決を事業計画に上げ、問題解決の経験を積むことで長期展望に挑む能力を啓発します。そして、代表者は社外活動で得た情報を社内に伝達しながら、幹部社員にも情報収集に関心を持つように導き、どのような技術開発から取り組む必要があるのか、代表者の手許に情報が集められるように努めます。
 

(1)経営方針設定に必要な情報

・全体と製品別に区分した売上高と限界利益率の数年間の推移
 限界利益率=(固定費+利益)/売上高
・取引先の動向と自企業に要請されている課題
・業界の動向と自企業の水準
・自企業の核になる技術データの蓄積状況
・行政の中小企業施策
 

(2)経営方針の決定手順

・数年先に到達したい企業像
(例:○○の分野で高付加価値企業、 売上高○○、利益率○○%、○○でオンリ-ワン企業など)               
・顧客に接する考え方
(売上高と限界利益率の製品・顧客別の推移から力点を置く対象を決める)   
・顧客満足度の意義付け
(品質、納期、単価及び顧客観察から得た情報、要請されている課題、に基づいて顧客満足度を高めるための考え方の明示)           
・技術、商品開発への取組み方
 (上記事項を実現するために何をしなければならないのか保有技術の蓄積状況に基いて明示)    
・従業員の資質向上策
 (上記事項を踏まえた能力開発の方向付け明示)   
・所属する業界の競合面での位置付け
 (上記事項を点検し競合に支障ある場合はその点を修正)  
・省エネ・環境問題
 (上記事項を点検し関連付けが可能な課題がある場合には修正追加する)
 
 特定製品の限界利益率が低下して採算性が悪化しているのに、経営幹部や代表者が開発に従事した製品の場合、愛着を感じて扱いを中止することに抵抗する場合が多く見られます。限界利益率低下の限度を決め、採算性の悪い製品を見切るルールを決めて毅然と処理することは、自企業の今後のために非常に大切です。大切な事は時系列の推移が判るようなデータを作ることです。1年間のデータでは、今後良くなるかもしれないとの期待感を持ち、判断を先送りすることに陥りやすい。
 
 これらの情報が不足している時には、経営方針を設定する資料が不足するために、適正な判断が下せません。そのために、幾つもの課題を羅列し、本当は何を実現したいのか、行動の焦点を定めきれない経営方針が作られることになります。このような経営方針を設定すると、重視しなければならない課題に集中的に取組むことができなくなり、多様な問題を取捨選択する判断基準が得られないため空回りに近くなり、損失を増やすだけです。
 

◆第一の段階

 情報収集機能が不足している間は、代表者が心に描いている自企業の将来展望を描くに止め、それ以外は日常の取引で客先から示されている苦情、要求事項(品質クレ-ム、納期遅延問題等の技術課題など)を整理し、それらを解決する事を経営方針に掲げる方が賢明です。数年間で取引先の要求水準を上回り、類似取引のある業者の間で抜きん出る事を目標にします。そして、技術データの蓄積に努め、その再利用により、ムダの少ない生産方式を開発することに努めます。足下が固まってくると、様々な問題を調べる余裕ができてきて、将来展望に関連して何を描き出す必要があるのか、考える力が備わってきます。
 
 日常発生している問題としては、次のような事項が考えられます。
 
・品質不良のクレ-ム対策
・納期遅延の対策
・要求されている受注単価で利益確保を可能にするコストダウン対策
・外注品の品質、納期、単価などに関する問題
 
 これらに関する生産技術向上策を方針に取り上げる。ただし、この問題に終始することでは、発注先からの値下げ要求に対処するだけに終わり、付加価値の高い経営を実現できなくなります。この問題は2年間程度とし、以降は企業の将来像の実現のための具体策を経営方針に組込み、事業計画にそれを反映させて新規顧客開拓、技術開発等により企業の安定的な成長を図るように努めます。経営方針を設定するためには、固有技術の開発と同じような研究開発の過程を踏む必要があります。簡単に短期間で企業の針路設定が立てられるものではありません。
 

◆第二の段階

 ある程度の情報収集機能が保有されている場合には、まず代表者が心に描いている近い将来に実現したい企業像を幹部社員に示し、それに関連した情報を報告させて方針設定の参考資料を収集します。その上で経営方針を起案し、経営会議で検討して決定します。経営方針の主柱である企業の将来像は代表者の意思を示し、幹部社員の意向は主として事業計画に反映させることで幹部の意欲を導き出します。代表者は投資した資金の回収と利益確保を目的にして将来展望を描くことは既に述べましたが、このような事...
 前回のその8に続いて解説します。経営方針を設定するには所属業界、関連団体に関する情報収集機能が働いていなければなりません。その機能が確保されていない場合には、どのような企業を実現させたいのか、将来展望を描き出すだけに留め、数年がかりで方針を練り上げていく方が適正です。そして、日常発生している問題(品質、納期、コスト)解決を事業計画に上げ、問題解決の経験を積むことで長期展望に挑む能力を啓発します。そして、代表者は社外活動で得た情報を社内に伝達しながら、幹部社員にも情報収集に関心を持つように導き、どのような技術開発から取り組む必要があるのか、代表者の手許に情報が集められるように努めます。
 

(1)経営方針設定に必要な情報

・全体と製品別に区分した売上高と限界利益率の数年間の推移
 限界利益率=(固定費+利益)/売上高
・取引先の動向と自企業に要請されている課題
・業界の動向と自企業の水準
・自企業の核になる技術データの蓄積状況
・行政の中小企業施策
 

(2)経営方針の決定手順

・数年先に到達したい企業像
(例:○○の分野で高付加価値企業、 売上高○○、利益率○○%、○○でオンリ-ワン企業など)               
・顧客に接する考え方
(売上高と限界利益率の製品・顧客別の推移から力点を置く対象を決める)   
・顧客満足度の意義付け
(品質、納期、単価及び顧客観察から得た情報、要請されている課題、に基づいて顧客満足度を高めるための考え方の明示)           
・技術、商品開発への取組み方
 (上記事項を実現するために何をしなければならないのか保有技術の蓄積状況に基いて明示)    
・従業員の資質向上策
 (上記事項を踏まえた能力開発の方向付け明示)   
・所属する業界の競合面での位置付け
 (上記事項を点検し競合に支障ある場合はその点を修正)  
・省エネ・環境問題
 (上記事項を点検し関連付けが可能な課題がある場合には修正追加する)
 
 特定製品の限界利益率が低下して採算性が悪化しているのに、経営幹部や代表者が開発に従事した製品の場合、愛着を感じて扱いを中止することに抵抗する場合が多く見られます。限界利益率低下の限度を決め、採算性の悪い製品を見切るルールを決めて毅然と処理することは、自企業の今後のために非常に大切です。大切な事は時系列の推移が判るようなデータを作ることです。1年間のデータでは、今後良くなるかもしれないとの期待感を持ち、判断を先送りすることに陥りやすい。
 
 これらの情報が不足している時には、経営方針を設定する資料が不足するために、適正な判断が下せません。そのために、幾つもの課題を羅列し、本当は何を実現したいのか、行動の焦点を定めきれない経営方針が作られることになります。このような経営方針を設定すると、重視しなければならない課題に集中的に取組むことができなくなり、多様な問題を取捨選択する判断基準が得られないため空回りに近くなり、損失を増やすだけです。
 

◆第一の段階

 情報収集機能が不足している間は、代表者が心に描いている自企業の将来展望を描くに止め、それ以外は日常の取引で客先から示されている苦情、要求事項(品質クレ-ム、納期遅延問題等の技術課題など)を整理し、それらを解決する事を経営方針に掲げる方が賢明です。数年間で取引先の要求水準を上回り、類似取引のある業者の間で抜きん出る事を目標にします。そして、技術データの蓄積に努め、その再利用により、ムダの少ない生産方式を開発することに努めます。足下が固まってくると、様々な問題を調べる余裕ができてきて、将来展望に関連して何を描き出す必要があるのか、考える力が備わってきます。
 
 日常発生している問題としては、次のような事項が考えられます。
 
・品質不良のクレ-ム対策
・納期遅延の対策
・要求されている受注単価で利益確保を可能にするコストダウン対策
・外注品の品質、納期、単価などに関する問題
 
 これらに関する生産技術向上策を方針に取り上げる。ただし、この問題に終始することでは、発注先からの値下げ要求に対処するだけに終わり、付加価値の高い経営を実現できなくなります。この問題は2年間程度とし、以降は企業の将来像の実現のための具体策を経営方針に組込み、事業計画にそれを反映させて新規顧客開拓、技術開発等により企業の安定的な成長を図るように努めます。経営方針を設定するためには、固有技術の開発と同じような研究開発の過程を踏む必要があります。簡単に短期間で企業の針路設定が立てられるものではありません。
 

◆第二の段階

 ある程度の情報収集機能が保有されている場合には、まず代表者が心に描いている近い将来に実現したい企業像を幹部社員に示し、それに関連した情報を報告させて方針設定の参考資料を収集します。その上で経営方針を起案し、経営会議で検討して決定します。経営方針の主柱である企業の将来像は代表者の意思を示し、幹部社員の意向は主として事業計画に反映させることで幹部の意欲を導き出します。代表者は投資した資金の回収と利益確保を目的にして将来展望を描くことは既に述べましたが、このような事情は社内で明言したが方が良く、控え目にして明言しないでいると、「会社は代表者の所有物」というような言動を不用意に漏らしやすい。その結果、従業員の不信感を募らせる事の方が良くありません。
 
 一般的に経営方針を設定する場合、総務・品質管理等の担当部門が起案する場合が多く、代表者が自ら作成する事は稀です。起案の担当者に指名された者は、代表者が日常話している意向を十分に把握して経営方針に落とし込みを行います。泥臭い内容であっても構わないから、代表者の意向がきちんと汲み取られた内容になるように努め、形式的な言葉の羅列を避けます。
 
 経営方針を設定した後で、その内容と差異のある言動を代表者が行うような状況が見られるのは、代表者の意向が反映されず、形式を重んじて作られた経営方針になっているからです。このような事態に陥ると、社内で経営方針に沿った活動をする事は見られなくなり、まとまりの無い事業活動が発生します。それに伴って損失が多発する経営になることは避けられません。
 
 中小企業には人材不足、資金不足等の声が少なくないので、能力を集中できる環境を創り出すためにも、経営方針は簡単明瞭に描き出して、全社の集中力が発揮できる環境を創ることに力を注ぐことが非常に大切です。
 

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この記事の著者

新庄 秀光

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