‐能力開発のシステム創り 製品・技術開発力強化策の事例(その44)

●能力開発のシステム化に必要不可欠の条件。

  前回の事例その43に続いて解説します。
   (1) 情報伝達の仕組み創り
   (2) 目標を明確にする
   (3) 目標達成に必要な基礎知識の習得
   (4) 目標達成感を味わい自信を持つ事
   (5) 会合技術の確立
   (6) 競争意識の醸成
   (7) リ-ダの育成
   (8) 先進事例を知り危機感を持つ
   (9) 日々改善する職場風土の育成
  (10)担当以外の分野にも関心を注ぐ企業風土創り
  (11)収益性の判定基準があること
 
 これらの項目を満たしそれぞれの項目間で相互作用が働くような運用をする事で能力開発が自ずから進められるようになります。 以上の条件が満たされていない企業では、損失が随所に発生していて企業に活力が乏しく、従業員の能力開発も進みません。以下にこれらの1~11の事項について解説します。このページでは、第1回に続いて2~4項について、解説します。
 

(2)目標を明確にする

 目標を明らかにして社内改革に取組み、職場の中に常に何らかの変化が生じているような行動様式をとる事で、惰性に流れる事を防ぎ、変化に対応できる素質が育成されます。しかし、個々バラバラに改善に取り組んでも企業全体としての整合性にかけ、経営効率を高める事は難しいです。そのために、経営計画に沿って職場別の改善計画を立て、日常業務の中で改善が行われる様な活動を行います。
 
 つまり、「経営方針、経営計画」を踏まえて責任者別に目標の設定と改善行動計画を起案し、経営者の総合調整が行われた上で実施します。個別目標の決定までに数回の調整が行われる事で内容が練り上げられて改善行動計画の立案に参加した人達に目標達成への意欲が湧き出てきます。活動に入ってからは月次の報告会を行い、活動の経過報告に対する経営層からの助言を得て、次月への取組みの心構えを確認します。「経営方針や経営計画」が曖昧のままで目標設定をやらせても効果は得られない。企業内に明確に貫かれている経営方針がなければ形式的な改善活動になり、活動内容が相互に機能しないで、局部最適化に陥る場合が多く見られています。
 
 また、企業内で納得できる目標であっても、その目標の達成で競合企業に勝ち残る水準にならなければ意味がありません。小手先の改善では経営に貢献せず、その結果として従業員は改善を成し遂げた誇りを持ちえず、活力のある職場が実現しないことになる。その意味からも経営方針の内容が重要になります。目標の設定には情報収集が大きく影響する事になります。 顧客の要求事項や競合企業の水準を収集した情報により、どの程度の改善目標を実現しないと経営に役立たないのか、その自覚が従業員にもたらされるのは日常からの情報伝達の仕方によります。
 

(3)目標達成に必要な基礎知識の習得

 改善活動を進めていくには、問題解決に必要な基礎知識がなければ、改善活動は空回りに終わる事は多くの事例が示しています。改善意欲が如何にあっても基礎知識に欠けている職場では気持ちが先走り、目に見えるような成果を上げる事が出来ないので、やがて息切れして諦めてしまいます。
 
 改善目標を達成するためには、何が問題かそれを見極めるための観察に必要な知識を先に学習する事から始める必要があります。それは、問題点を巡る対象品に関する専門的知識、品質管理の七つ道具、5S(整理、整頓、清掃、清潔、習慣(躾))の適正な運用法、問題点を改善に導く計画の立て方等、改善に導くために必要な知識を学習する事から始める必要があります。他社で成功しているからとの理由で基礎的な学習もしないで表面だけを取り入れて失敗している例は5Sや改善提案制度で特に多く見られています。 一見、簡単に見えることでも成果を上げるには奥深い何かが潜んでいるので、成功事例に接した場合、表面的な現象にとらわれる事無く、何故上手くいったのか、根本的な理由は何か、どのような困難を乗り越えてきたのか、しっかりと根本的な問題を見極めた上で技法の導入を行う必要があります。
 
 企業内の専門知識を有する人達を活用して、相互に学習する仕組みを作り上げるのがよく、何よりも大切な事は、自企業が専門にしている業務に関する専門書や月刊誌を常備し、必要に応じて専門書を開くように習慣付けする事が最も効果的な方法です。専門書を見ないで我流で仕事に着手するような従業員に対しては、図書を見たか、我流では遠回りで損失を増やす。と何回でも指摘して図書をひも解く習慣が付くようにしていきます。
 

(4)目標達成感を味わい自信を持つ事

 人は自信を持つと大きな力を発揮するが、自信のない人に意欲を湧きあがらせる事はかなり難しいです。自信は何かを達成した場合や自分の長所を指摘されるなどの経験から長所を自覚した時、自信がついてきます。特に問題解決の経験を多く積むほどに自信が強くなります。
 
 これに反して、何時も叱られてばかりいる人は自信が喪失しており、潜在的な能力があってもそれを発揮できないでいます。企業の上層部で能力はあるが、思い切って任せる事が出来ない幹部がいると、部下は自分の力を発揮する機会が与えられず、能力開発が進まない気の毒な状態になります。
 
 目標を達成した場合それを適正に評価するような制度がある企業では、改善に次々と取り組む意欲が出てくるが、目標が達成しても、それに対して何の評価もしないばかりか、時には、こんな事は出来て当たり前、と評価を与えないと意欲は萎えてしまいそれ以降の改善に取り組む意欲は出て来ません。
 
 物事を見通し先が見える幹部ほどこのような傾向になり易いから注意が必要です。相手の能力に応じた評価が必要です。人によっては低い目標の達成では話にならないと厳しく指摘されて発奮する場合がありますが、そのような人は最近では稀な存在になってきました。事業を起した経営者の様に困難にくじけることなく問題に立ち向かうような人は何時までも中小企業に勤めていません。やがて...
独立していきます。そのように割り切って、経営者の感覚と同一に扱う事無く相手により評価のあり方を変える必要があります。
 
 適正な評価をする前提として、改善の目標を立てた場合、必ず到達すべき目標値を明確にする事です。目標値が明確でないと僅かな改善でも当人は達成した積もりになりますが、評価する立場の幹部から見ると、この程度ではダメ、と言いたくなりまする。したがって、改善に取り組む前の目標設定の段階で指導する事が大切です。改善の課題によっては目標値を決められないと言う意見が少なくないが、現状把握の仕方を工夫する事で改善前後の差異を判り易くして、目標達成の程度についての評価が行い易くなります。
 
 例えば、5S運動では評価が難しいとの意見がしばしば聞かれますが、改善前後の移動距離、探す時間、在庫高などの比較が出来るように改善の対象になった個所に付いて改善に着手する前に平均値を測定して置けば良いです。また、改善前後の写真を撮りそれを比べて見る方法もあります。要するに、改善着手前の状態を観測しないで改善に着手すると評価が出来ません。折角取り組んだ改善に適正な評価がされないと改善に取り組んだ当事者に次なる改善への意欲を導き出す事は難しいです。観察した内容を数値として目標に示す事が困難な場合でも、代用特性(金額の代わりに時間や量で示す等)を利用する方法もあります。
 
 冒頭の1~11の事項についての解説、第3回では、5以降について、順番に解説します。
 

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