活用される技法 品質工学による技術開発(その12)

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◆技術開発で活用される技法

1.はじめに

前回“その11”では,品質工学の骨格であるにも関わらずその定義の方法が明確には定まっていない基本機能とは何かについて,筆者なりの考え方を解説しました.基本機能を定義する方法,注意点などについては“その11”を参照願います.今回は”その9“と”その10”で取り上げた光ディスクの光学ヘッドの部品の固定に使われる接着剤の技術開発の事例を取り上げて,そこではどのように基本機能を定義したかについて解説します.

 

【この連載の前回:品質工学による技術開発(その11)ロバスト性を評価する技法へのリンク】

 

2.光学接着剤の基本機能

前回“その11”で解説したように基本機能は定量データを扱う3つの技術開発活動の中のアナリシスパートにある現象説明因子Xの中にその候補が存在しています.基本機能の計測特性として定義された現象説明因子は,“その10”で解説した目的機能と因果関係を持っていなければなりません.この技術開発では接着剤の目的機能は保形性であり,その計測特性を寸法としました.この目的機能の計測特性である寸法は何らかのメカニズムが働くことによって,結果として得られる計測特性です.多くの場合,目的機能を実現するメカニズムは何らかのエネルギーの変換プロセスとして記述することができます.

 

この技術開発で対象とした接着剤はUVで硬化させる方式によるものです.従って,入力エネルギーはUV光のパワーですが,化学反応によって硬化させるプロセスを考えると,より本質的には波長で決まる光のエネルギーを入力と考える方が妥当と言えます.硬化前の接着剤に入力されたUV光が持つエネルギーが接着剤を構成する材料に吸収され,化学反応が引き起こされ,その結果として硬化し,最終的に形状が決まり,寸法の計測が可能となります.その化学反応のエネルギー変換プロセスを計測することによって基本機能によるロバスト性評価を実現することができます.

 

基本機能を定義できたとしても,それを計測できないケースも多くあることも前回“その11”で述べました.本技術開発においても化学反応プロセスを直接的に計測することは現実的にはできませんでした.ただし,接着剤硬化の化学反応プロセスが完了するまでの時間は十分に長く,時間が計測の制約になることはありません.そのような場合は,化学反応を間接的に計測する代用特性を考案することが有効になります.本技術開発では接着剤の内部での化学反応が均一に進んでいることを理想の状態と定義し,図1のようにテストピースの上面と下面の硬度を化学反応の代用計測特性として定義しました.内部の化学反応が均一に進んでいれば上面と下面の硬度の変化が等しくなるであろうという考え方です.

 

品質工学

図1.光学接着剤の基本機能

 

3.基本機能の発想の注意点[1][2]

目的機能を代用できる基本機能を発想するためには,定量データを扱う技術開発の3つのパートの因果関係を十分に把握できてきていることが求められることを前回“その11”で述べました.この因果関係の把握が不十分では,目的機能を代用できない基本機能を定義してしまい,技術開発の方向を誤ってしまう,あるいは部分最適化になってしまうリスクがあることも前回”その11“で述べました.本技術開発においても,接着剤は材料メーカーに試作を依頼して入手したものであり,接着剤が硬化するメカニズムについての知見がありませんでした.このようなケースでは基本機能だけの評価はリスクが高いも...

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◆技術開発で活用される技法

1.はじめに

前回“その11”では,品質工学の骨格であるにも関わらずその定義の方法が明確には定まっていない基本機能とは何かについて,筆者なりの考え方を解説しました.基本機能を定義する方法,注意点などについては“その11”を参照願います.今回は”その9“と”その10”で取り上げた光ディスクの光学ヘッドの部品の固定に使われる接着剤の技術開発の事例を取り上げて,そこではどのように基本機能を定義したかについて解説します.

 

【この連載の前回:品質工学による技術開発(その11)ロバスト性を評価する技法へのリンク】

 

2.光学接着剤の基本機能

前回“その11”で解説したように基本機能は定量データを扱う3つの技術開発活動の中のアナリシスパートにある現象説明因子Xの中にその候補が存在しています.基本機能の計測特性として定義された現象説明因子は,“その10”で解説した目的機能と因果関係を持っていなければなりません.この技術開発では接着剤の目的機能は保形性であり,その計測特性を寸法としました.この目的機能の計測特性である寸法は何らかのメカニズムが働くことによって,結果として得られる計測特性です.多くの場合,目的機能を実現するメカニズムは何らかのエネルギーの変換プロセスとして記述することができます.

 

この技術開発で対象とした接着剤はUVで硬化させる方式によるものです.従って,入力エネルギーはUV光のパワーですが,化学反応によって硬化させるプロセスを考えると,より本質的には波長で決まる光のエネルギーを入力と考える方が妥当と言えます.硬化前の接着剤に入力されたUV光が持つエネルギーが接着剤を構成する材料に吸収され,化学反応が引き起こされ,その結果として硬化し,最終的に形状が決まり,寸法の計測が可能となります.その化学反応のエネルギー変換プロセスを計測することによって基本機能によるロバスト性評価を実現することができます.

 

基本機能を定義できたとしても,それを計測できないケースも多くあることも前回“その11”で述べました.本技術開発においても化学反応プロセスを直接的に計測することは現実的にはできませんでした.ただし,接着剤硬化の化学反応プロセスが完了するまでの時間は十分に長く,時間が計測の制約になることはありません.そのような場合は,化学反応を間接的に計測する代用特性を考案することが有効になります.本技術開発では接着剤の内部での化学反応が均一に進んでいることを理想の状態と定義し,図1のようにテストピースの上面と下面の硬度を化学反応の代用計測特性として定義しました.内部の化学反応が均一に進んでいれば上面と下面の硬度の変化が等しくなるであろうという考え方です.

 

品質工学

図1.光学接着剤の基本機能

 

3.基本機能の発想の注意点[1][2]

目的機能を代用できる基本機能を発想するためには,定量データを扱う技術開発の3つのパートの因果関係を十分に把握できてきていることが求められることを前回“その11”で述べました.この因果関係の把握が不十分では,目的機能を代用できない基本機能を定義してしまい,技術開発の方向を誤ってしまう,あるいは部分最適化になってしまうリスクがあることも前回”その11“で述べました.本技術開発においても,接着剤は材料メーカーに試作を依頼して入手したものであり,接着剤が硬化するメカニズムについての知見がありませんでした.このようなケースでは基本機能だけの評価はリスクが高いものになってしまいます.よって,必ず目的機能を同時に評価し,基本機能に置き換えることが可能であるかを実験結果から確認することが大切です.次回は目的機能と基本機能を比較した結果を紹介します.

 

【参考文献】
[1]細川哲夫:「タグチメソッドによる技術開発 ~基本機能を探索できるCS-T法~」,日科技連(2020)
[2]細川哲夫:QE Compass, https://qecompass.com/, (2022.12.09)

 

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 

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この記事の著者

細川 哲夫

お客様の期待を超える感動品質を備えた製品を継続して提供するために、創造性と効率性を両立した新しい品質工学を一緒に活用しましょう。

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