経営システムの活性化を阻む事例  中小メーカ向け経営改革の考察(その3)

 前回のその2に続いて解説します。経営システムの活性化を図るには、既に記述したように活性化を阻害している主要な要因を明らかにし、それらが繰り返し発生しないような対策を講じる必要があります。ISO9001の認証取得やTQM活動の導入を行い、経営(品質)システム向上に努めているが、形式的な運用に終わっていて、経営システムが機能化、活性化されていない事例を実に多く見かけます。特に指摘したいことは、事業展開に際し最も重要である経営方針が最も軽く扱われている現実があり、そのために派生している問題が非常に多いことです。
 
◆ 経営システムの活性化、阻害要因と、損失が発生している状況
 
   1.代表者の立場と経営リスクを曖昧にする損失
   2.経営方針と事業計画の関連性が欠けているための損失
   3.現場を巡回しないために問題点が潜在している損失
   4.誤った自主性の尊重により発生する損失
   5.経営方針に沿った能力開発とそれに関連付けた評価を行わないために蒙る損失
 

1.代表者の立場と経営リスクを曖昧にする損失

 中小企業の代表者は資金調達のために、家屋敷を担保にして資金を導入している方が殆どです。仮に、経営危機に遭遇して倒産に至った場合、全ての財産を失い、裸になって放り出され夜逃げする人も出てきます。金融機関に対する債務履行のため代表者の置かれている立場は非常に厳しい。このため、直接口に出すことはないかもしれないが、「会社は代表者の所有物」のような言動を無意識の内にとってしまい、従業員の不信感を募らせ意欲を萎ませて、活性化の機会を逃し損失を招いていることがあります。
 
 私財を担保にリスクを担って経営を行っていることを、あえて明確に表してはどうでしょうか。そうする事で社内に良い緊張感をもたらすに違いありません。そして、リスクに応じた報酬を確保したくなるのは当然の心情であるから、それを具体的な形にするために、経営方針を利用して企業の成長を促すような代表者の夢を描き出し、代表者と従業員が共有できるような将来展望を明確にする方が良いのでないでしょうか。
 

2.経営方針と事業計画の関連性に起因する損失

 経営方針で描かれている企業像を実現するために、事業計画の中で年次別にどのような活動をすれば良いのか、それを幹部社員の参加を得て決定します。最初の間は聴くに値する意見が出ないかもしれない。だが、数年がかりで経営方針と事業計画を手応えのある内容に練り上げていく粘り強さが代表者には求められます。
 
 年度の始まりに経営方針と事業計画を示しただけで、活動経過の報告を毎月求めることなく、半期ごとに形式的に報告会を開いているようなことでは経営方針・事業計画は空回りします。代表者は社内の反応が乏しいと簡単に諦める例が多いのですが、事業計画のどこに問題があるのか、経営方針との関係について繰り返し議論の場を持つことで、何が問題か見えてきます。固有技術の開発で試作品を作り、試験を繰り返すに似た過程を、この場合にも踏む必要があります。
 
 代表者は経営方針と事業計画の内容を練り上げるために、熱意を持って繰り返し何回でも、経営方針の...
重要なことを強調しつづけることが大切です。すばらしい業績を残している企業を調べると、魅力のある経営方針を確立するまでにかなり長い年月を費やしています。最初の間はコストダウン、ムダの防止が事業計画に挙げられているに過ぎなかった企業が、基礎固めをしっかりと行って周囲が見え始めてくると、経営方針にそれが反映されて魅力的な内容に創り上げられています。
 このような考え方をしないで事業計画と経営方針を出しっ放しにして軽く扱っている企業では、年度ごとの経験を蓄積し再利用する方策が立てられないため、忙しい思いをするだけで、類似した事業活動のムダが反復発生しています。
 
 上述の経営システムの活性化、阻害要因と、損失が発生している状況、3項から5項の解説は、次回以降で行います。
 

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