経営理念・方針などの混同 1 中小メーカ向け経営改革の考察(その5)
2016-02-23
前回のその4に続いて解説します。一般的に、日常の問題点(品質問題、リードタイム短縮、コストダウンなど)の解決に力を注いでいる企業では、長期展望を描き出すことに欠ける傾向があります。反対に、経営方針に長期展望が描き出されている企業では、日常発生している問題点の解決に力を入れることに欠けて、一足飛びに製品開発等の研究開発に取組む傾向が見られます。
日常発生している問題点の再発防止の体験を積まないで新製品・技術の開発に取組むと、問題解決の基礎が体得されていないのに新しい問題が上積みされることになり、損失が急増します。本来は、経営方針で将来展望を示した上で、事業計画で日常発生している損失の再発防止対策に取組む課題を明らかにし、その上に長期的視点で描き出している企業像を実現させるための開発的な課題を含めます。そのような手順を組込むことが非常に重要です。
しかし、経営方針と事業計画立案に際して適正な手順を踏むように一貫性を持たせて、両立した取組み方を行っている例が少なく、事業計画は経営方針を踏まえて策定し、両者の間に混同が生じない取組み方を行うことが非常に大切です。方針と計画の区分が曖昧になって入り混じる事や、売上高や利益率だけが示され、具体的に何をすべきか明確にされないままで事業が進められている例が多いようです。経営理念、経営方針、事業計画が入り混じっている例もあります。
これらの区分が明確でない状態の企業では「頑張らなくちゃ、やる気を出さねばならん」などの威勢の良い言葉は聞かれるが、活動内容に具体性が乏しく、空回りに陥っている例を多くあります。
事業計画の中に将来展望に相当する文言が示されることで、精神論的な学習の機会ばかり多く取り入れられ、具体的な目標・目標値が示されず、威勢の良い言葉が社内で飛び交うだけの空回りによる損失が多く発生します。
これらの混同は、日常業務に好ましくない影響を及ぼします。つまり、事業計画の中に長期的な項目が混入しスローガンのような計画になり、目標値と達成期限を決めないで活動開始し、活動が上滑りして足下の問題解決が先送りされ、損失を増幅させます。このような問題を回避するには、経営方針と事業計画の相互関係を理解した上で計画立案の技術向上に努める必要があります。
特に大切な事は、経営方針は経営システムの根幹をなす重要な事項であるから、固有技術の開発に当たり時間をかけて研究するのと同様の取組み方が必要だということです。
経営方針は代表者の才能と整合性を図る事で成果を高め易くなります。近頃では「時代の流れに乗る必要がある」など、講演会やマスコミ報道からの多様な情報に影響され、いくつもの目標が経営方針に織り込まれている場合が多く見られます。しかし、目標が増え過ぎると事業計画を立てる作業が複雑になり、力点が分散して効率の良い事業活動を展開する事ができなくなります。
また、中小企業では人材が乏しいと嘆く前に、集中的に課題に取組めるような経営システムを創り上げる方法を研究する事が何よりも大切です。人材がいないのでなくて、人材を育てる経営システムが創られていないのです。そのような視点から経営方針を見直す必要があります。そして、経営方針とそれを受けて策定される事業計画の内容が非常に重要です。
自動車部品を生産している某企業で受注が落ち込み、売上高の確保に営業が奔走していたところ、農業機械の部品の引き合いがあった。受注すればかなりの金額になるため、営業は喜んで見積りを出したいと報告した。だが、代表者は「当社は...
精密部品の生産で信用を得てきた。精度のランク落ちするような部品で、現場の感覚を劣化させるような受注は絶対に承認できない」と言い切って経営方針を貫きました。そして、時間の余裕がある間に生産機械の開発をするように指示した。やがて開発した機械が他社の注目するところとなり、市販が可能な事が判り、自主開発の製品として販売開始し、業績が向上しました。
この例と反対に、高精度の部品を得意にしている別の企業では、受注が落ち込んだ時に精度の低い部品の受注に飛びつき、当面の売上高低下を補いました。しかし、それ以降、生産現場の感覚が鈍って、精度の高い受注品と低精度の部品を区分した生産が困難になり、代表者は「困ったことになった」と嘆いておられました。