前回の事例その1に続いて解説します。顧客から難しい要求や相談があったとき、意欲的にその問題に取り組む企業がある。その取組みから他社では出来ないような技術が生み出されています。その結果、この企業に相談すればなんとかしてくれる。そのような印象が顧客に持たれるようになり、情報が集まり易くなります。反対に、困難を理由にして要求から逃避する企業には、情報が避けて通るようになり、開発テ-マを取り逃がします。他社の嫌がる難しいことに対処する中から、技術開発が進展し、付加価値の高い受注開拓が出来るようになっている事例を紹介します。
1.小型精密弁の要求に対処
F社は、機械工具の問屋であったが、顧客から精度の良い小型弁を求める要求が再々もたらされた。仕入れ先のバルブメ-カ-に生産を要求すると、自社では生産形態が異なり出来ないとのことで、協力してくれる業者が見つかりません。
市場に要求があるのにそれを放置しておく事は出来ません。採算性を判断して自社で生産ラインを設けることにしました。今では、素材から機械加工、組立に至るまで一貫生産する方式で、小型精密弁の生産メ-カ-に転進しています。この分野は品質管理が厳しく、簡単に参入出来難い状況にあり、同業者が手掛けなかった事業で成功しました。製品化が難しくて他社が嫌がる仕様であると付加価値を高く出来る利点があります。
2.機械部品で顧客の難しい要求に対処
板金加工の業者で今までの加工品の代表的な作品を分類整理して陳列し、受注に対応している企業があります。S社では、他社が難しくて受注したがらない難加工性の素材や複雑な形状の部品受注を積極的に引き受けています。
陳列してある部品の加工条件のデ-タが蓄積されていて、受注した部品と類似形状の部品の加工デ-タを参考にし、これを基礎にしてより難しい部品の加工法について技術者が応用力を発揮して加工法を決めています。
過去の加工デ-タが整備された見本があるため、依頼者との間で形状について検討する場合、見本を示しながら、依頼者に提案して目的に沿うような形状の部品を決め、低いコストで試作品が作られています。生産に際しては、治具の製作がポイントになり、受注量が一定期間続く可能性がある場合には、工夫した治具を基にして自動機の開発も行っています。
3.事例の要点
顧客の要求する事項を詳細に調べ、市場性があるのか、その顧客だけに特有の問題かの確認が必要です。市場性の確認を怠ると、開発に成功しても収益向上に結び付きません。得意分野を明確にし顧客の信用が得られると、口コミで知名度が上がるようになり、広く受注が届くようになる例が少なくありません。5億円程度の市場であれば、1~2社で国内の需要を占有している例が見られます。
市場における技術水準、競合状況等を調べて、競争に勝て...
るように経営の方向づけを明確にし、経営者は毅然たる態度を取り、経営方針が企業内に浸透するように意識改革を図っていく必要があります。それが不足したままで従業員の能力開発を奨励すると、企業の進むべき方向と従業員の能力向上への努力の間に食い違いが生じます。
方針の徹底と開発担当者の自発性を尊重することは両立が可能です。方針を徹底させたために企業内が硬直化して息苦しくなるようであれば、組織運営面で何かの過ちを犯しています。方針の枠組みの中で目標を担当者に決めさせること、目標を経営者が決めた上で具体的な行動計画を決めさせるようにします。活動の枠組を決めて、その中で自主性を尊重した組織運営を行うことが重要です。