研究者自身が感じる脅威とは 『価値づくり』の研究開発マネジメント (その21)

更新日

投稿日

 
オープンイノベーション
 
今回は、オープンイノベーションに抵抗する心理として、研究者自身の能力の外部による置換の脅威について解説します。
 

1. 研究者自身が感じる個人的な脅威とは

 
 オープンイノベーションは、従来自社で行っていた研究開発活動の一部を外部で置換するものであり、社内の研究者にとっては、自信の存在価値を大きく損なう可能性のある脅威と映っても不思議ではありません。オープンイノベーションが、これまで解説してきたように企業全体にとってどんなに利益があろうと、研究者自身は、個人的な脅威と感じるものについては、敏感に反応します。その昔、英国で産業革命時代に、「ラッダイト」と呼ばれる労働者による彼らの仕事を奪う脅威のある機械を破壊するサボタージュ活動が頻繁に起こったといわれています。この「ラッダイト」ほどあからさまな活動ではありませんが、オープンイノベーションは、研究者の心の中には同じような強い拒否反応が起こるものです。この点についてマネジメント全体として確実な対応を行わないと、オープンイノベーションは実現出来ません。
 

2. 研究者自身が脅威と感じることへの対応策

 
 オープンイノベーションが、これまで解説してきたように企業全体にとってどんなに利益があろうと、研究者自身は、個人的な脅威と感じるものについては、敏感に反応します。この点については、次の3つの対応が考えられます。
 

(1) オープンイノベーション経営への転換をコミットメント

 
 オープンイノベーション経営における合理性をきちんと周知・説明した上で、経営陣がその経営に強くコミットする姿勢と意思を社内に明確に示す必要があります。つまり、どんな抵抗があろうと、不退転の意思も持って、抵抗があれば敢えてそれを排除することを含め、オープンイノベーションを追求するという強い姿勢を示すことです。社内でこの活動が単なる世の流行に基づく経営陣の気まぐれととられるようでは、オープンイノベーションへの経営の転換は成功しません。
 

(2) 強化すべき技術分野とそうでない分野を明確にする

 
 外部から見境なく技術を導入するということでは、常に社員は不安を感じるようになります。このような状況を避けるためにも、社内で今後も継続的に戦略的に強化すべき技術分野とそうでない分野を明確に切り分ける必要があります。その結果、むしろ戦略的に強化すべき技術分野に携わっている研究者のモラールは、向上することになります。
 

(3) コア技術以外の研究者は「協創」推進者として位置付ける

 
 それではそのコア技術以外の技術に携わっている技術者につ...
 
オープンイノベーション
 
今回は、オープンイノベーションに抵抗する心理として、研究者自身の能力の外部による置換の脅威について解説します。
 

1. 研究者自身が感じる個人的な脅威とは

 
 オープンイノベーションは、従来自社で行っていた研究開発活動の一部を外部で置換するものであり、社内の研究者にとっては、自信の存在価値を大きく損なう可能性のある脅威と映っても不思議ではありません。オープンイノベーションが、これまで解説してきたように企業全体にとってどんなに利益があろうと、研究者自身は、個人的な脅威と感じるものについては、敏感に反応します。その昔、英国で産業革命時代に、「ラッダイト」と呼ばれる労働者による彼らの仕事を奪う脅威のある機械を破壊するサボタージュ活動が頻繁に起こったといわれています。この「ラッダイト」ほどあからさまな活動ではありませんが、オープンイノベーションは、研究者の心の中には同じような強い拒否反応が起こるものです。この点についてマネジメント全体として確実な対応を行わないと、オープンイノベーションは実現出来ません。
 

2. 研究者自身が脅威と感じることへの対応策

 
 オープンイノベーションが、これまで解説してきたように企業全体にとってどんなに利益があろうと、研究者自身は、個人的な脅威と感じるものについては、敏感に反応します。この点については、次の3つの対応が考えられます。
 

(1) オープンイノベーション経営への転換をコミットメント

 
 オープンイノベーション経営における合理性をきちんと周知・説明した上で、経営陣がその経営に強くコミットする姿勢と意思を社内に明確に示す必要があります。つまり、どんな抵抗があろうと、不退転の意思も持って、抵抗があれば敢えてそれを排除することを含め、オープンイノベーションを追求するという強い姿勢を示すことです。社内でこの活動が単なる世の流行に基づく経営陣の気まぐれととられるようでは、オープンイノベーションへの経営の転換は成功しません。
 

(2) 強化すべき技術分野とそうでない分野を明確にする

 
 外部から見境なく技術を導入するということでは、常に社員は不安を感じるようになります。このような状況を避けるためにも、社内で今後も継続的に戦略的に強化すべき技術分野とそうでない分野を明確に切り分ける必要があります。その結果、むしろ戦略的に強化すべき技術分野に携わっている研究者のモラールは、向上することになります。
 

(3) コア技術以外の研究者は「協創」推進者として位置付ける

 
 それではそのコア技術以外の技術に携わっている技術者についてはどうするのか、その中の多くの人材は、対象の技術分野を変更してもらうことです。優秀な研究者は、対象分野が変わっても、その分野で能力を発揮するものです。更に、それ以外の研究者・技術者は、まさにオープンイノベーションで外部から導入する技術について深い知見を持っているので、導入する技術の評価において、彼らの知識はおおいに活用することができます。つまり、コア技術以外の研究者は「競争」ではなく「協創」推進者として位置付けるということです。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
取り組みへの意思決定 普通の組織をイノベーティブにする処方箋(その90)

   今回も引き続き、エドワード・デシが内発的動機付けに必要と主張している2つの要素「自律性」と「有能感」の内、後者の「有能感獲得に向けて...

   今回も引き続き、エドワード・デシが内発的動機付けに必要と主張している2つの要素「自律性」と「有能感」の内、後者の「有能感獲得に向けて...


知財戦略を作る理由 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その9)

        皆さまの会社には「知財戦略」がありますか。    そして「知財戦略」に法って特...

        皆さまの会社には「知財戦略」がありますか。    そして「知財戦略」に法って特...


イノベーションの創出 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その131)

  【この連載の前回へのリンク】 現在「切り取った知識の重要部分を発想するフレームワークを使って、イノベーションを発想する」にむけて、日...

  【この連載の前回へのリンク】 現在「切り取った知識の重要部分を発想するフレームワークを使って、イノベーションを発想する」にむけて、日...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
品質の仕組みとは3 プロジェクト管理の仕組み (その29)

 これまでISO9001を例にした話になっていますので、ここで PMBOK (Project Management Body of Knowledge) ...

 これまでISO9001を例にした話になっていますので、ここで PMBOK (Project Management Body of Knowledge) ...


サブシステムの開発目標 プロジェクト管理の仕組み (その41)

 前回までで、化粧品の自販機についてシステムの内部構造を決めました。システム内部構造は、システムを独立したサブシステムにブレークダウンしたもので、ブロック...

 前回までで、化粧品の自販機についてシステムの内部構造を決めました。システム内部構造は、システムを独立したサブシステムにブレークダウンしたもので、ブロック...


新事業開発のステップを事例で考える

 中小ものづくり企業が自前のヒット商品を開発し、販売まで行うのは容易なことではありません。しかし、だからと言って下請け仕事を続けていて、利益を上げることは...

 中小ものづくり企業が自前のヒット商品を開発し、販売まで行うのは容易なことではありません。しかし、だからと言って下請け仕事を続けていて、利益を上げることは...