前回のその68に続いて解説します。
【第4章】中国新規取引先選定のポイント
2、契約書に対する意識
【他社の事例】
前述の岩城氏の会社は、主に一品ものの設備を中国企業から購入及び生産委託しており、既に20年近く中国企業との取り引きをしています。
この会社は、日本で一般的な取引基本契約書をそのまま中訳、英訳したもので取り交わしたことはありません。基本的には個別契約か、サプライヤーごとの定型付属書を利用しています。
その理由として「日本的な上下関係前提の基本契約は、契約を真面目に履行する意思のある会社であれば、契約を拒否されるか、心証を悪くするから」と言っています。サプライヤーごとの定型付属書には、取り引きの決め事として実質的に必要なことを記載し個々の注文書、契約書等にはその定型付属書番号等を記載しています。
実務的に考えても、基本契約は長い取り引きで想定できるすべてを想定し、それについて取り交わさなくてはなりません。日本のように阿吽(あうん)の呼吸ではいかないことを考え、環境変化に機敏に対処できる定型付属書を採用しているとのことです。
まとめると、日本企業が取り交わす取引基本契約は購入側本位の内容となっていることが多く、二つの事例に書いたようにきちんと内容を確認して、その内容を守る意思のある企業ほど取り交わしを拒みます。阿吽の呼吸が通じる日本企業と同じ感覚で中国企業に対するのは無理があります。この取引基本契約に関しては、中国企業だけではなく契約書を重視する欧米企業とも日本企業と同内容での取り交わしは難しいのではないでしょうか。
(2) 契約を守らせるのではなく、守れる契約を結ぶという考え方
岩城氏の中国人部下が「契約を守ることにどんなメリットがあるのですか?」と言ってきたことがあったそうです。その中国人部下が中国人を代表していることにはなりませんが、なるほど中国人はそのような考え方をするのかと捉えることはできます。
日本人ですと契約を守るメリットという発想はなく、契約は守るのが当たり前と考えるのが普通ではないでしょうか。中国人が「この契約を守るメリットがあるのか、ないのか」という視点で考えるとすれば、メリットがなければ守らないということになります。そんな中国人に契約を守らせるために一生懸命になるよりも、彼らが守れる契約を結ぶという考え方・視点も場合によって必要かもしれません。
(3) それでも契約書は必要
守られ...