新規開拓のどこを見ればよいか 中国工場の品質改善(その69)

更新日

投稿日

中国

 前回のその68に続いて解説します。

【第4章】中国新規取引先選定のポイント

2、契約書に対する意識

【他社の事例】

 前述の岩城氏の会社は、主に一品ものの設備を中国企業から購入及び生産委託しており、既に20年近く中国企業との取り引きをしています。

 この会社は、日本で一般的な取引基本契約書をそのまま中訳、英訳したもので取り交わしたことはありません。基本的には個別契約か、サプライヤーごとの定型付属書を利用しています。

 その理由として「日本的な上下関係前提の基本契約は、契約を真面目に履行する意思のある会社であれば、契約を拒否されるか、心証を悪くするから」と言っています。サプライヤーごとの定型付属書には、取り引きの決め事として実質的に必要なことを記載し個々の注文書、契約書等にはその定型付属書番号等を記載しています。

 実務的に考えても、基本契約は長い取り引きで想定できるすべてを想定し、それについて取り交わさなくてはなりません。日本のように阿吽(あうん)の呼吸ではいかないことを考え、環境変化に機敏に対処できる定型付属書を採用しているとのことです。

 まとめると、日本企業が取り交わす取引基本契約は購入側本位の内容となっていることが多く、二つの事例に書いたようにきちんと内容を確認して、その内容を守る意思のある企業ほど取り交わしを拒みます。阿吽の呼吸が通じる日本企業と同じ感覚で中国企業に対するのは無理があります。この取引基本契約に関しては、中国企業だけではなく契約書を重視する欧米企業とも日本企業と同内容での取り交わしは難しいのではないでしょうか。

(2) 契約を守らせるのではなく、守れる契約を結ぶという考え方

 岩城氏の中国人部下が「契約を守ることにどんなメリットがあるのですか?」と言ってきたことがあったそうです。その中国人部下が中国人を代表していることにはなりませんが、なるほど中国人はそのような考え方をするのかと捉えることはできます。

 日本人ですと契約を守るメリットという発想はなく、契約は守るのが当たり前と考えるのが普通ではないでしょうか。中国人が「この契約を守るメリットがあるのか、ないのか」という視点で考えるとすれば、メリットがなければ守らないということになります。そんな中国人に契約を守らせるために一生懸命になるよりも、彼らが守れる契約を結ぶという考え方・視点も場合によって必要かもしれません。

(3) それでも契約書は必要

 守られ...

中国

 前回のその68に続いて解説します。

【第4章】中国新規取引先選定のポイント

2、契約書に対する意識

【他社の事例】

 前述の岩城氏の会社は、主に一品ものの設備を中国企業から購入及び生産委託しており、既に20年近く中国企業との取り引きをしています。

 この会社は、日本で一般的な取引基本契約書をそのまま中訳、英訳したもので取り交わしたことはありません。基本的には個別契約か、サプライヤーごとの定型付属書を利用しています。

 その理由として「日本的な上下関係前提の基本契約は、契約を真面目に履行する意思のある会社であれば、契約を拒否されるか、心証を悪くするから」と言っています。サプライヤーごとの定型付属書には、取り引きの決め事として実質的に必要なことを記載し個々の注文書、契約書等にはその定型付属書番号等を記載しています。

 実務的に考えても、基本契約は長い取り引きで想定できるすべてを想定し、それについて取り交わさなくてはなりません。日本のように阿吽(あうん)の呼吸ではいかないことを考え、環境変化に機敏に対処できる定型付属書を採用しているとのことです。

 まとめると、日本企業が取り交わす取引基本契約は購入側本位の内容となっていることが多く、二つの事例に書いたようにきちんと内容を確認して、その内容を守る意思のある企業ほど取り交わしを拒みます。阿吽の呼吸が通じる日本企業と同じ感覚で中国企業に対するのは無理があります。この取引基本契約に関しては、中国企業だけではなく契約書を重視する欧米企業とも日本企業と同内容での取り交わしは難しいのではないでしょうか。

(2) 契約を守らせるのではなく、守れる契約を結ぶという考え方

 岩城氏の中国人部下が「契約を守ることにどんなメリットがあるのですか?」と言ってきたことがあったそうです。その中国人部下が中国人を代表していることにはなりませんが、なるほど中国人はそのような考え方をするのかと捉えることはできます。

 日本人ですと契約を守るメリットという発想はなく、契約は守るのが当たり前と考えるのが普通ではないでしょうか。中国人が「この契約を守るメリットがあるのか、ないのか」という視点で考えるとすれば、メリットがなければ守らないということになります。そんな中国人に契約を守らせるために一生懸命になるよりも、彼らが守れる契約を結ぶという考え方・視点も場合によって必要かもしれません。

(3) それでも契約書は必要

 守られないのなら契約書を取り交わしても仕方がないと思ってしまうかもしれませんが、それでも契約書は必要です。何か問題が起きた時の最後のよりどころは契約書になるのもまた事実ですので、なるべく詳細な契約書を取り交わすようにしてください。契約書を盾に相手側にこちらの要求通りにやってもらうというような交渉の場面に出くわす可能性は誰にでもあります。

 次回は、契約書取り交わしのポイントから解説を続けます。

 【出典】根本隆吉 著 「中国工場の品質改善」 日刊工業新聞社発行、筆者のご承諾により抜粋を連載 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

根本 隆吉

中国工場の改善・指導に強みを持っている専門家です。 社名の「KPI」は「Key Process Improvement」のことで、工場の最も重要な工程の改善・再構築を第一の使命と考え皆様を支援します。

中国工場の改善・指導に強みを持っている専門家です。 社名の「KPI」は「Key Process Improvement」のことで、工場の最も重要な工程の改...


「生産マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
  生産管理とコストダウン  (その3)

 生産管理システムとコストダウンについて、3回に分けて解説しています。第1回は、生産管理について整理しました。第2回は、生産管理ソフトについてでした。第3...

 生産管理システムとコストダウンについて、3回に分けて解説しています。第1回は、生産管理について整理しました。第2回は、生産管理ソフトについてでした。第3...


手段と目的 現場改善:発想の転換 (その3)

   工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「現場改善:発想の転換」をテーマに解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど...

   工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「現場改善:発想の転換」をテーマに解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど...


デュアルシステムとは(2) 【快年童子の豆鉄砲】(その91)

  日本版デュアルシステムについては、基盤整備センターが2019年12月に発行した「技能と技術」誌2019年4号に掲載された調査研究報告「...

  日本版デュアルシステムについては、基盤整備センターが2019年12月に発行した「技能と技術」誌2019年4号に掲載された調査研究報告「...


「生産マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
‐段取り替え時間の短縮‐ 製品・技術開発力強化策の事例(その33)

 前回の事例その32に続いて解説します。繰り返し性のある大量生産品はアジアの各国に生産拠点が移転し、多品種少量の生産が当然の状態になっています。つまり、段...

 前回の事例その32に続いて解説します。繰り返し性のある大量生産品はアジアの各国に生産拠点が移転し、多品種少量の生産が当然の状態になっています。つまり、段...


金型構造設計の3次元化 伸びる金型メーカーの秘訣 (その32)

        今回、紹介するプレス金型メーカーは、以前にも登場したことのあるS金型です。同社は、自動車のシ...

        今回、紹介するプレス金型メーカーは、以前にも登場したことのあるS金型です。同社は、自動車のシ...


仕入先から直接顧客に納入した部品でクレーム 中国企業の壁(その40)

        建設用の組立ユニットを生産している中国企業の工場では、自分の工場で部材を調達・加工、そしてサブアッセンブリーをした上で顧客に納入して...

        建設用の組立ユニットを生産している中国企業の工場では、自分の工場で部材を調達・加工、そしてサブアッセンブリーをした上で顧客に納入して...