第3部 ジャスト・イン・タイム生産:改革サイクル編
ジャスト・イン・タイムを導入するにはどうすればいいのでしょうか?どのように始め、活動を進めていけばいいのか、実例やワークシートの作成方法などを紹介しながら、具体的に説明します。
【この連載の前回:改革サイクル編 流れ生産:ジャスト・イン・タイム生産(その86)へのリンク】
第2章 改革サイクルは、このように実践する
1. レイアウトでイメージし、計画に落とし込んでいく
イメージづくりは森(職場や工場全体)、林(部署や部門)、木(工程)の順に行なう
(1)現状の「森」-現状の工場全体のモノと情報の流れを描く
最初に、イメージを思い描き、それを計画に落とし込んでいくプロセスの実例を紹介します。下図は、ある会社が生産している製品についての生産と情報について、工場全体の流れの現状を描いたものです。この図から、以下の問題点が読み取れます。
(問題点1)
顧客情報をもとに生産管理で生産計画が立案され、生産計画にもとづいて生産する「押し込み生産」方式を採っている。
(問題点2)
部肪メーカーや協力企業からの部品などは、いったん部品倉庫に納品される。部品倉庫の在庫数に関係なく、生産計画の指示にもとづいて納入されるため、部品倉庫には余剰在庫が溢れている。
(問題点3)
生産現場では、現場ごとの計画にもとづく生産を行なっているため、工程間の同期が図られておらず、工程間に仕掛り在庫を多数抱えている。また、一部でラインは組まれているものの、ロット生産の箇所が多く、工程内仕掛り品も多く見受けられる。
図.現状の「森」工場の全体像
(問題点4)
顧客対応のために、製品倉庫には製品在庫が多数ある。以上のほか、近年、注文数が激減しているにもかかわらず、これまでのモノづくりの体制を変えられず、過剰在庫の低減、作業工数の低減、顧客への短納期対応がしにくいという問題を抱えており、体質改革が必須とされる。
(2)本来あるべき姿の「森」-現状をもとに、改革の未来図を描く
現状の「森」をもとに、下図のように本来あるべき姿の「森」を作成し...
【改革点】
①引っ張り生産(Pullシステム)を導入
組立部門では、顧客との間で取り決めた納入期間に合わせて、平準化計画にもとづいてモノをつくり、出荷便に積み込む。部品などは、使われた分だけ前工程から引き取るしくみにする。
②外部からの納入は部門ごとの直納(直接納品)に
部品メーカーや協力企業からの材料・部品の納入は各部門やラインサイドに必要な分だけ、直接納品にする。部品センターは廃止する。
③現場のオモテ化・モノの3定
何が、どこに、いくつあるかがはっきりとわかるように現場をオモテ化し、必要数がわかるようにする。また、モノの流れをオモテ化し、停滞箇所での仕掛り在庫をはっきりさせる。
④かんばんを導入する
製造部門では、引き取られた分だけモノをつくるように指示を出す、仕掛けかんばんや信号かんばんにより、職場内のつくりすぎをなくす。
⑤ライン化
製品ごとのライン化を図り、工程間の停滞を少なくし、 リードタイム短縮と中間仕掛り在庫の低減を図る。また、ライン化と作業者の多能工教育により、変動する仕事量に合わせて少人化を図り、作業工数の低減へつなげる。
⑥生産計画の平準化
生産計画では、月いちのロット生産から日当たり生産へ、そして、顧客の要求数に合わせた平準化へと細分化する。
【課題】
①まず、いまの自分たちのモノづくりの方法では顧客ニーズに対応できないことを認識し、職場や現場の改革の必要性を認識させる。
②部門ごとの能率を追求するのではなく、顧客の存在を前提とする会社全体の能率を追求し、必要なモノを.必要なときに・必要なだけ-(部品などを)発注し、納入してもらい、生産し、(製品を)納入する-という考え方に切り替える。
図.本来あるべき姿の「森」工場の全体像
次回は、(3)「林」一部門の現状と未来図を描くから、解説します。
【出典】古谷誠 著 『会社を強くする ジャスト・イン・タイム生産の実行手順』中経出版発行(筆者のご承諾により連載)