溶接残留応力と炭素当量 金属材料基礎講座(その33)

更新日

投稿日

 

 溶接の際、問題点として残留応力が挙げられます。元々金属は温度が上がると体積が膨張して、温度が下がると体積が収縮する性質があります。

 溶接では溶接部が溶解するまで温度が上がります。この時、溶接部は熱膨張を起こします。しかし、溶接部の周囲はあまり温度の上がっていない元材に拘束されて、あまり熱膨張できません。そして溶接が終わると冷えます。

 冷却では溶接部の収縮が起こります。この時はきちんと収縮します。膨張が拘束されて、収縮はきちんと行われるので、材料は歪みや変形を起こします。これが溶接による歪みや変形の原因です。その様子を下図に示します。その結果、溶接部が変形したり、そったりします。変形が起きない時、溶接部には引張残留応力が発生します。

金属技術

図 溶接残留応力の模式図

 鉄鋼材料を溶接する時は硬い材料や炭素などの合金元素が多い材料ほど溶接が困難になります。鉄鋼材料の溶接のしやすさ、または難しさを判断するのに材料の炭素当量(Ceq)式があります。これは鋼の溶接性に対する合金元素の影響を炭素量の効果に換算する式です。

 Ceq=C+1/6Mn+1/24Si+1/40Ni+1/5Cr+1/4Mo+1/14V

 各元素の含有量wt%を示しています。これは実験式であり、他にも...

 

 溶接の際、問題点として残留応力が挙げられます。元々金属は温度が上がると体積が膨張して、温度が下がると体積が収縮する性質があります。

 溶接では溶接部が溶解するまで温度が上がります。この時、溶接部は熱膨張を起こします。しかし、溶接部の周囲はあまり温度の上がっていない元材に拘束されて、あまり熱膨張できません。そして溶接が終わると冷えます。

 冷却では溶接部の収縮が起こります。この時はきちんと収縮します。膨張が拘束されて、収縮はきちんと行われるので、材料は歪みや変形を起こします。これが溶接による歪みや変形の原因です。その様子を下図に示します。その結果、溶接部が変形したり、そったりします。変形が起きない時、溶接部には引張残留応力が発生します。

金属技術

図 溶接残留応力の模式図

 鉄鋼材料を溶接する時は硬い材料や炭素などの合金元素が多い材料ほど溶接が困難になります。鉄鋼材料の溶接のしやすさ、または難しさを判断するのに材料の炭素当量(Ceq)式があります。これは鋼の溶接性に対する合金元素の影響を炭素量の効果に換算する式です。

 Ceq=C+1/6Mn+1/24Si+1/40Ni+1/5Cr+1/4Mo+1/14V

 各元素の含有量wt%を示しています。これは実験式であり、他にもいくつかのタイプがあります。炭素当量が低いほど溶接性は良いとされています。各元素の鋼に与える影響は異なりますが、それを炭素当量として計算します。これにより、種類の違う鋼材でも溶接性について比較することができます。

 次回に続きます。

◆【関連解説:金属・無機材料技術】

   続きを読むには・・・


この記事の著者

福﨑 昌宏

金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。

金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。


「金属・無機材料技術」の他のキーワード解説記事

もっと見る
三元系状態図の組成の表示方法:金属材料基礎講座(その176) 

  ◆ 三元系状態図の組成の表示方法 三元系状態図では3つの元素から成り立っており、当然3つの元素ABCの量を合計すると100%になりま...

  ◆ 三元系状態図の組成の表示方法 三元系状態図では3つの元素から成り立っており、当然3つの元素ABCの量を合計すると100%になりま...


異種金属接触腐食とは:金属材料基礎講座(その65)

  ◆ 金属の相性で異なる腐食反応  金属材料はそれぞれ固有の標準電極電位があります。そのため、異なる金属同士を接触させると電位差が発生...

  ◆ 金属の相性で異なる腐食反応  金属材料はそれぞれ固有の標準電極電位があります。そのため、異なる金属同士を接触させると電位差が発生...


赤外線吸収法:金属材料基礎講座(その154) わかりやすく解説

  ◆ 赤外線吸収法 金属の成分分析は金属系の元素以外にも炭素、硫黄、酸素、窒素など非金属系元素の分析も重要です。これら元素はICP-A...

  ◆ 赤外線吸収法 金属の成分分析は金属系の元素以外にも炭素、硫黄、酸素、窒素など非金属系元素の分析も重要です。これら元素はICP-A...


「金属・無機材料技術」の活用事例

もっと見る
金代替めっき接点の開発事例 (コネクター用貴金属めっき)

 私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...

 私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...


ゾルゲル法による反射防止コートの開発と生産

 15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...

 15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...