標準水素電極、参照電極 金属材料基礎講座(その57)

更新日

投稿日

 

 

1. 標準水素電極 ~ 標準的な基準電極

 イオン化傾向は各金属の電位(正確には電極電位という)の相対値ですが、電気化学的には各金属は固有の電位の値を持っています。

 ダニエル電池における亜鉛と銅の反応はそれぞれの電位をもとに電位差が生まれ、反応が起こります。亜鉛と銅の電位差を測定することはできますが、亜鉛と銅のそれぞれの電位を測定することはできません。そこで基準となる電位を決めて、それに対する亜鉛と銅のそれぞれの電位を測定を行っています。

 この基準となる電位を標準水素電極といいます。これは温度に関わらず0Vと決められています。酸性溶液中における白金電極上での水素の反応は式(1)のようになります。この時、水素イオンのモル濃度1mol/L(正確には活量1)、水素ガスが1気圧となる時は電位E=0Vという電極です。

金属

 このような標準水素電極と亜鉛を組み合わせれば、標準水素電極0Vに対する亜鉛の電位を求めることができます。この亜鉛の反応はアノード反応だけを取り出しているので半電池と呼びます。標準水素電極が0Vなので、得られた電位差が亜鉛の電位となります。同様に標準水素電極と銅を組み合わせれば銅の電位を測定することができます。

 

2. 参照電極

 電位の基準は標準水素電極ですが、この電極は扱いが難しいのです。そのため、標準水素電極に対して一定の電位を示す電極を使用します。この電極を参照電極や照合電極といいます。

 参照電極に求められることとして、電極反応が可逆で電極電位がネルンストの式[1]にしたがうこと、電位を測定する時に電流によって電位が変化しないこと、競争反応がないこと、どの環境でも電位が一定であることなどが望まれます。表1に代表的な参照電極を示します。

表1.参照電極例(25℃)

金属

 

 飽和カロメル電極は甘汞(かんこう)電極ともいいます。

 電解液として飽和塩化カリウム水溶液を用いた飽和カロメル電極が使用されます。しかし飽和カロメル電極にはHgが使用されるため、使用することが減少しています。銀・塩化銀電極は銀の表面を塩化銀で覆い、それを塩化物水溶液に浸したものです。塩化物水溶液には飽和塩化カリウム水溶液が使用されます。近年広く使用される参照電極です。

 電位測定の時には参照電極と測定する半電池の環境が混ざらないように塩橋(えんきょう)とよばれるもので接続します。イオンは塩橋を通過できますが、原子や分子は塩橋を通過できません。

 

 次回に続きます。

 

 【用語解説】

 [1]ネルンストの...

 

 

1. 標準水素電極 ~ 標準的な基準電極

 イオン化傾向は各金属の電位(正確には電極電位という)の相対値ですが、電気化学的には各金属は固有の電位の値を持っています。

 ダニエル電池における亜鉛と銅の反応はそれぞれの電位をもとに電位差が生まれ、反応が起こります。亜鉛と銅の電位差を測定することはできますが、亜鉛と銅のそれぞれの電位を測定することはできません。そこで基準となる電位を決めて、それに対する亜鉛と銅のそれぞれの電位を測定を行っています。

 この基準となる電位を標準水素電極といいます。これは温度に関わらず0Vと決められています。酸性溶液中における白金電極上での水素の反応は式(1)のようになります。この時、水素イオンのモル濃度1mol/L(正確には活量1)、水素ガスが1気圧となる時は電位E=0Vという電極です。

金属

 このような標準水素電極と亜鉛を組み合わせれば、標準水素電極0Vに対する亜鉛の電位を求めることができます。この亜鉛の反応はアノード反応だけを取り出しているので半電池と呼びます。標準水素電極が0Vなので、得られた電位差が亜鉛の電位となります。同様に標準水素電極と銅を組み合わせれば銅の電位を測定することができます。

 

2. 参照電極

 電位の基準は標準水素電極ですが、この電極は扱いが難しいのです。そのため、標準水素電極に対して一定の電位を示す電極を使用します。この電極を参照電極や照合電極といいます。

 参照電極に求められることとして、電極反応が可逆で電極電位がネルンストの式[1]にしたがうこと、電位を測定する時に電流によって電位が変化しないこと、競争反応がないこと、どの環境でも電位が一定であることなどが望まれます。表1に代表的な参照電極を示します。

表1.参照電極例(25℃)

金属

 

 飽和カロメル電極は甘汞(かんこう)電極ともいいます。

 電解液として飽和塩化カリウム水溶液を用いた飽和カロメル電極が使用されます。しかし飽和カロメル電極にはHgが使用されるため、使用することが減少しています。銀・塩化銀電極は銀の表面を塩化銀で覆い、それを塩化物水溶液に浸したものです。塩化物水溶液には飽和塩化カリウム水溶液が使用されます。近年広く使用される参照電極です。

 電位測定の時には参照電極と測定する半電池の環境が混ざらないように塩橋(えんきょう)とよばれるもので接続します。イオンは塩橋を通過できますが、原子や分子は塩橋を通過できません。

 

 次回に続きます。

 

 【用語解説】

 [1]ネルンストの式:ネルンストの式(英: Nernst equation)とは、電気化学において、電池の電極の電位 E を記述した式である。1889年にヴァルター・ネルンストによって提出されたとされるが、実際にネルンストが提出した式や考え方は、現在知られているものとは異なる。現在、広く受け入れられている式は、化学ポテンシャルの考え方に基づいて導出される(引用:Wikipediaから、https://ja.wikipedia.org/、最終更新 2019年12月4日)。

◆【関連解説:金属・無機材料技術】

   続きを読むには・・・


この記事の著者

福﨑 昌宏

金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。

金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。


「金属・無機材料技術」の他のキーワード解説記事

もっと見る
ブラベー格子:金属材料基礎講座(その182) わかりやすく解説

  ◆ ブラベー格子 金属の結晶構造は主に体心立方格子、面心立方格子、稠密六方格子の3種類です。   この中で体心立方格子...

  ◆ ブラベー格子 金属の結晶構造は主に体心立方格子、面心立方格子、稠密六方格子の3種類です。   この中で体心立方格子...


シュミット因子 金属材料基礎講座(その39)

  ♦ すべり系とシュミット因子 金属材料はすべり運動によって塑性(そせい)変形が起きます。 そしてすべり面は最密充填構造です...

  ♦ すべり系とシュミット因子 金属材料はすべり運動によって塑性(そせい)変形が起きます。 そしてすべり面は最密充填構造です...


磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

  磁性体には応用先が色々あり、日常生活には欠かせません。なぜ物質によって磁気を帯びたりするのか。磁気とは何なのか。今回は、磁性体に焦点を...

  磁性体には応用先が色々あり、日常生活には欠かせません。なぜ物質によって磁気を帯びたりするのか。磁気とは何なのか。今回は、磁性体に焦点を...


「金属・無機材料技術」の活用事例

もっと見る
金代替めっき接点の開発事例 (コネクター用貴金属めっき)

 私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...

 私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...


ゾルゲル法による反射防止コートの開発と生産

 15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...

 15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...