回復と再結晶 金属材料基礎講座(その25)

更新日

投稿日

 

【目次】
     

     金属材料に圧延や鍛造などの加工を行うと、材料中にひずみや転位が蓄積されて加工硬化していきます。加工硬化された材料は伸びや靭性などの塑性加工性が低下します。ここで、加工硬化された材料を加熱すると、次第に材料中のひずみが解放され、新しいひずみのほとんどない結晶粒に置き換わる現象が起きます。これを回復・再結晶と呼びます。その硬さと伸びと組織の概念図を図1に示します。

    金属材料

    図1. 回復と再結晶の概念図

     

    金属の回復とは?

     低温では硬さが高く伸びが低いです。その時の組織はひずみの多い組織になります。これを加熱すると原子の拡散が起こり、格子欠陥の移動や...

     

    【目次】
       

       金属材料に圧延や鍛造などの加工を行うと、材料中にひずみや転位が蓄積されて加工硬化していきます。加工硬化された材料は伸びや靭性などの塑性加工性が低下します。ここで、加工硬化された材料を加熱すると、次第に材料中のひずみが解放され、新しいひずみのほとんどない結晶粒に置き換わる現象が起きます。これを回復・再結晶と呼びます。その硬さと伸びと組織の概念図を図1に示します。

      金属材料

      図1. 回復と再結晶の概念図

       

      金属の回復とは?

       低温では硬さが高く伸びが低いです。その時の組織はひずみの多い組織になります。これを加熱すると原子の拡散が起こり、格子欠陥の移動や転位の消滅や再配列が起きます。その結果残留応力が減少していきます。これを回復と呼びます。しかし、この段階では硬さや伸びには変化は少なく、光学顕微鏡観察でも大きな変化は見られません。

       

      金属の再結晶とは?

       回復からさらに温度を上昇すると、結晶粒界などからひずみのほとんどない新しい結晶粒が生成します。やがてもとのひずみの蓄積した組織から全て新しい結晶粒に置き換わります。これによって硬さは低下し、伸びや靭性が上昇します。これを再結晶と呼びます。再結晶の駆動力は回復の後も残っているひずみエネルギーです。再結晶が完了した後もさらに温度上昇を続けると結晶粒の2次成長(結晶粒粗大化)が起きます。

       再結晶後の結晶粒径については再結晶温度とともにはじめの加工量も影響します。この概念図を図2に示します。加工量が大きければそれだけひずみや転位が多くなり再結晶の核生成サイトが多くなります。その結果、加工量が大きくなるほど結晶粒径が細かくなります。

       同様に加工量が大きくなるほど、再結晶温度に必要なエネルギーが低下するので、再結晶温度は低く、結晶粒径は細かくなります。また同じ加工量であれば、再結晶温度が高い方が結晶粒は大きくなります。再結晶を起こすためには最低限必要な加工量というものがあります。鉄の場合約5%とされています。

       再結晶を起こす温度は金属材料によって変わりますが、一般的には絶対温度表示での融点の約30~50%程度とされています。

       次回は、鋳造の分類について解説します。

      金属材料

      図2. 加工量・再結晶・結晶粒径の概念図

      ◆【関連解説:金属・無機材料技術】

         続きを読むには・・・


      この記事の著者

      福﨑 昌宏

      金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。

      金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。


      「金属・無機材料技術」の他のキーワード解説記事

      もっと見る
      JIS G3141 冷間圧延鋼板及び鋼帯:金属材料基礎講座(その103) 

        冷間圧延鋼板はSPCC(Steel Plate Cold Commercial)と呼びます。   なお、熱間圧延鋼板はS...

        冷間圧延鋼板はSPCC(Steel Plate Cold Commercial)と呼びます。   なお、熱間圧延鋼板はS...


      熱処理とは?【基礎知識】代表的な種類や違いをわかりやすく解説

        1. 熱処理とは? 熱処理とは、金属に熱を加えてその組織を変化させ、機械的性質や耐食性、耐摩耗性などの性能を向上させるための加工技術...

        1. 熱処理とは? 熱処理とは、金属に熱を加えてその組織を変化させ、機械的性質や耐食性、耐摩耗性などの性能を向上させるための加工技術...


      鉄鋼製錬とは:金属材料基礎講座(その87)

        1. 鉄鋼製錬 ~ 転炉・取鍋製錬技術 (1) 転炉  転炉では溶銑予備処理を済ませた鉄以外にもスクラップの鉄も投入されます。 ...

        1. 鉄鋼製錬 ~ 転炉・取鍋製錬技術 (1) 転炉  転炉では溶銑予備処理を済ませた鉄以外にもスクラップの鉄も投入されます。 ...


      「金属・無機材料技術」の活用事例

      もっと見る
      ゾルゲル法による反射防止コートの開発と生産

       15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...

       15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...


      金代替めっき接点の開発事例 (コネクター用貴金属めっき)

       私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...

       私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...