MD解析法による適材適所配属(8) 【快年童子の豆鉄砲】(その100)

 

4.事例2を通して学んだことのまとめ

1)主成分の意味付けについて

当初、第1主成分を「仕事に対する取り組み姿勢」、第2主成分を「仕事に対する基礎的能力」としていたのですが、プロットされた全作業者の位置の意味の検証を続けたところ、このような単純な表現では説明がつかないことが多く感じられましたので、次のような取り組みをして納得のいくものを手に入れることが出来ました。

 

第1主成分、第2主成分に対する16項目の因子負荷量(各項目の第1主成分、第2主成分に対する相関係数)を、正相関、弱相関、負相関に分け、それぞれに分類された項目の意味するところを出来るだけ汲みとった意味付けを行ったところ次のようになり、プロットされた作業者の位置での検証も納得の行くものになりました。

 

表82-1 第1・第2主成分の意味付け

 

主成分に対する意味付けは、簡潔な言葉にすることが多いのですが、この事例のように、解析対象が、感情を持った複雑な“人”の場合は、このような丁寧な意味付けの方が、活用する上で有用でしたので、グラフへの表示など簡潔さが必要な場合は、上表のようなものを準備しておくといいと思いますので参考にして頂ければと思います。

 

「適材適所配属」と言う難しいテーマに、MD解析法の解析結果を活用するという挑戦だけに、諸課題の検討中ではあったのですが、活用の目途が立ったとのことで、社内的に「適材適所配属法」と命名して、下記のような活用中と言うのが筆者の受けた最後の現状報告でした。

 ① 新人の配属、ジョブローテーションなどに活用し、適材適所の配置をする。
 ② 本人の特性を考慮した育成・指導に活用。
 ③指導上司とセットで分析し、相性を含めた適切な指導上司の選出、指導の在り方の指導に活用。

 

①の“新人の配属”については、2012年、2013年の新人について詳細な解析を実施済で、前述の第1・第2主成分の意味付けを肯定する結果を得ると同時に、③ のような上司との相性と言うテーマが浮上しています。

 

“ジョブローテーション”については、数ppmの不良を確実に検出する検査員が必要となり、MD解析結果をベースにした選出・転籍の結果成功しており、この成功を基に、幅広い適用を考えているとのことでした。①と③については、検討中だが、何らかの結論を手にできる感触を得ているとのことでした。

 

2)第3主成分も視野に入れた詳細検証の必要性

MD解析法は“複雑な事象のおおよその見通しと姿の把握を容易にする手法”なのですが、ここで言う“おおよそ”の目途が、寄与率の累積が60~80%となる主成分を採用するのが一般的とされています。ところが、この事例では、累積寄与率が、上記の最低線(60%)に満たない46.9%であるにもかかわらず、第1・第2主成分を採用したのは、先ず、解析のし易い2次元でやってみて、不十分であれば60%になる第3主成分まで採用しようとの方針で臨んだところ、解析目的①を満たす結果を得ることが出来たのです。

 

これは、2次元の散布図上のサンプルの位置が、長年にわたり知り尽くした総合力により意味付けされ、累積寄与率以上の解釈につながったからだと思われます。ただ、解析目的が、②や③になると、累積寄与率が60%になる第3主成分までを視野に入れた詳細な検証をする必要だと思われます。具体的には第1主成分と第3主成分、第2主成分と第3主成分、の散布図の解析をすることにより、現在の解析結果を補填する必要があるのですが、最終報告では、上述の通り、何らかの結論を手にできる感触を得ているとのことでした。

 

3)各職場の人材ニーズ把握の可能性

データ数が多いからできたのですが、職場別に、因子負荷量の散布図を描いてみたところ、第1・第2主成分が職場によるかなり際立った違いを見ることができたのです。このことは、各職場が求めている人材の姿をある程度物語っていることになりますので、適材適所配属の参考に出来るということです。

 

4)高累積寄与率を得た7項目解析の応用

図81-1のPDCA-TCで、「結論・計画・実施」の欄の4番目を見てもらうと分かるのですが、16項目の性格テスト結果の中から、一般的に社員に求められる総合特性に直結する7項目を選んだ場合の第2主成分までの累積寄与率が76.6%と非常に高くなったのです。そこで検証をしたところ、若干の違和感が検出されたので、本格的な採用には至らなかったのですが、具体的な目的に直結する項目を選ぶことにより、高い累積寄与率を得ることができることが分かったのは大きな収穫でした。と言うのは、ある点に的を絞ることにより、他は犠牲にして、その点に関する信頼性の高い評価を手にすることができることを示唆しているからです。

 

図81-1 既存マトリックス・データの検討PDCA-TC (注) %は第一・第二主成分の累積寄与率

(注)上図の「PDCA-TC」は、N7の内、唯一数値データを扱う「MD解析法」の代わりに、筆者オリジナルの「PDCA-TC法」を入れて「言語データ解析七つ道具」としたいわくつきの手法で、PDCA-Tracing Chartの略です。上図を見て頂ければ一目瞭然でご理解願え、色々ご活用願えるのではないかと思います。手法として陽の目を見ることになったのは、N7研究会で、PDPC法で進めた危機管理の結果が、中々うまく説明できないというお話があり、PDPC法のフォロー手法として紹介したところ大変好評で、N7入門セミナーテキストに、N7の周辺手法として紹介されるまでになったというものです。

 

実際のところ、企業にとって、ある点に的を絞った人材が必要な場合があるわけで、そのような時の適材選出手段として、そのニーズに直結する項目に的を絞っての解析結果が有用であることを示唆していますので、活用の価値があると言えます。

 

また、上述の、「上司との相性」と言ったデリケートで難しい問題も、対象とする上司の特徴に関連する項目に特化した解析結果を16項目の性格テスト結果に加味することで、より的確な人選につながることが期待できますので活用の価値があると言えます。

...

 

5.おわりに

多変量解析の主成分分析そのものと言える「MD解析法」は、評価基準が変化し多様化する中で、取り組むべき対象が複雑極まりないため、被説明変数を掴むことが出来ず活動が迷走することが多い現在、最も活用すべき手法と言えます。

 

ところが、現状は、残念なことに活用度が低いのですが、その理由が、どんなテーマにどのように取り組めばいいのかが、中々分からないため敬遠され勝ちなのです。その点、今回の説明は、最も身近で、最も複雑極まりない“人”を対象に「新入社員の適材適所配属」と言うテーマを取り上げ、実例をもとに逐一詳しくご説明しましたので、大抵のテーマはこの要領で活用して頂けると思います。説明に際し、数式を一切使いませんでしたが「MD解析法のねらい」と「複雑な解析対象に対するMD解析法活用のノウハウ」の2点については、ご理解頂けたのではないかと思いますので、数理数式に関しては、パソコンソフトに任せてご活用願い、成果を享受して頂ければと思います。

 

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