【 MPM ( Motherly Productive Maintenance ) 】
【この連載の前回:【快年童子の豆鉄砲】(その65)へのリンク】
1.「喫緊の課題」の4番目「設備管理がやりおおせない」
今回から、表2-1 にある「喫緊の課題」の4番目「設備管理がやりおおせない」についての解説に入ります。
表2-1 中小企業が抱える喫緊の課題12と課題発生要因17に対する解決策の概要と記載場所
この「設備管理がやりおおせない」には、表2-1にありますように、2つの要因、即ち「保全体制が実情に合っていない」(⑤)と「生産性向上を狙った新設備の問題が多い」(⑥)が存在しており、課題解決には、それぞれに対する的確な対処がなされなければならないのですが、世の中でオーソライズされている対処方法が、中小企業規模のマンパワーでは、やりおおせないと言うのが経験上の実感です。
そこで、設備管理の原点に立ち返り、2つの要因に対し、中小企業規模のマンパワーで可能な対処方法を追求した結果、手に入れた結論が、⑤ に対しては「MPM」、⑥ に対しては「SQHKライン」でしたので、それぞれを結論に至るプロセスを含めてご説明いたしますので、参考にして頂ければと思います。
先ず、MPMからご説明致します。
2.MPM(Motherly Productive Maintenance)とは?
MPM(Motherly Productive Maintenance)とは、中小企業のマンパワーで遂行可能な「新しい発想による生産保全体制」を示す略語で筆者の造語です。その心は、最初のM(Motherly)が示すように、作業者が、母親が我が幼子をいつくしむ気持ちで担当設備に接して初めて気付く“故障の前兆現象”を起点にした保全体制にすることで、中小企業のマンパワーでも対応が可能で、最終的には「完全自主保全体制」を目指そうというものです。
3.MPM誕生の背景
現在の企業経営の基本は、品質保証体制はTQM、品質を決定する重要要因である設備の保全体制はTPMと言うのが一般的ではないかと思います。ただ、現在のTPMは、パートⅠ(注1)、パートⅡ(注2)を経て、パートⅢ(注3) に達し、経営革新手法として高く評価されており、中小企業の喫緊の課題への対応手段としては手が届かないというのが現状ではないかと思います。
- (注1) 「工場の体質強化」で製造原価低減を目指して「TPM活動の8本柱」を展開する“TPM優秀賞レベル”
- (注2) 「新しい企業競争の場での対応力確立」のため、製品原価の低減を目指し「TPM活動の8本柱」の強化・充実プラス画期的なTPMを展開する“TPM特別賞レベル”
- (注3) 「企業繁栄条件への対応力確立」のため、全社キャッシュフローの工場を目指し「TPM活動の8本柱」の日常化プラス創造的なTPMを展開する“TPMワールドクラスレベル”
こういった現状を受け、喫緊課題への対応手段として、設備保全、設備管理の原点に立ち返り、中小企業のマンパワーでも対応可能な、的確にして高効率な設備保全体制を模索する中で生まれたのがMPMです。
4.TPMの再確認
MPMの本格説明に入る前に、現TPMを“TPMの定義”“TPMの5つの基本理念”“TPM展開の8本柱”の3点について、再確認した結果を、以下にご説明しますので、MPMご理解の一助にして頂ければと思います。
1)TPMの定義
“TPMの定義”は、下表の通り改訂されており、両者は、概念がまったく違いますので、要注意です。
表48-1 TPMの定義
この「新定義」誕生の背景について、著書「経営革新手法TPM(TOTAL PRODUKTIVE MAINTENANCE & MANAGEMENT)」(注4) 中島清一著(日本能率協会マネジメントセンター:2011.7.30)の“まえがき”(P5)に次のような記述があります。
(注4) この本は、TPMの歴史を含めた総括書として秀逸で、ご一読を進めします。
「1970年代からの提唱の初期段階では、TPMとは「全員参加の生産保全」であり、Total Productive Maintenance の略称だとしたが、高度成長の波に乗って、生産性向上のためにTPM導入企業が急増した。1990年頃からバブルがはじけ「作れば売れる時代」から「売れるものを作る時代」へと変化し、TPMもその対象領域を生産部門から研究開発を含む全社全部門を対象とする「全社的TPM」へと進化させ、定義も改定した。そして、TPMをTotal Productive Managementの略称であり「全員参加の経営革新」と称されるようになった。」
これをお読み頂ければ、概念が全く違うと上述した背景をご理解願えると思います。
2)TPM の5つの基本理念
上記定義から、キーワードとしてまとめられたのが下記5つの基本理念です。
- ① 設ける企業体質づくり:災害、不良、故障などあらゆるロスをゼロ
- ② 予防哲学:MP(保全予防)、PM(予防保全)、CM(改良保全)など未然防止
- ③ 全員参加:重複小集団活動、オペレーターの自主保全など参画経営、人間尊重
- ④ 現場・現物主義:設備・仕事をあるべき姿にする。目で見る管理、クリーンな職場
- ⑤ 常識の新陳代謝:モノの見方・考え方の連続性の進化・成長― ...