現在、設備管理と言えば、TPMで、そのTPMが素晴らしいのは、提唱時、設備は故障するもので、故障したら直す、というのが常識の中、故障を未然に防ぐ活動を、作業者も巻き込んだ全社の活動として取り組んだところで、その活動内容が標準化され、諸制度として確立されただけでなく、(その66)「MPM」誕生の背景でご紹介しましたように、経営革新手法として高く評価されるところまで発展している所です。
ただ、標準化、制度化が大企業を対象になされ、大企業への普及で効果が確認されたこともあって、活動に手段の目的化がみられ、中小企業を対象とした際、目的化された手段が、中小企業のマンパワーではやりおおせない事態になっているというのが筆者の諸経験を通じて肌で感じた実感です。
そこで、こういった現状を打開するために、TPMの原点に立ち返り、設備保全、設備管理の的確な遂行を、中小企業のマンパワーでも達成できる“高効率”を念頭に置いて取り組んだ結果行き着いたのがMPMなのです。
MPMとは、Motherly Productive Maintenance の頭文字で、その心は、最初のM(Motherly)が示すように、作業者が、母親が乳幼児をいつくしむ気持ちで担当設備に接して初めて気付く故障の前兆現象を起点にした保全体制で、最終的に「完全自主保全体制」を目指すものです。この思いを、具体的な成果ある活動設計に導くための基本理念は下記の通りです。
【この連載の前回:【快年童子の豆鉄砲】(その66)へのリンク】
◆MPMの基本理念
「設備は生き物であり、その生死のカギを握るのは“オペレーター”である、と言う認識に立ち、目指す設備管理(メンテナンス)を“オペレーターによる完全自主保全”とする」
【解説】
これは、一般的な認識「設備は物、管理は保全」とはかけ離れていますが、現役時代、多種多様な設備と関わり、最終的には、“独自の接着ライン”(作業者の設備・作業環境に対する35の改善要求項目クリア、良品率85%→≒100%、省力23人→8人を実現したもので、46年経った今も稼働中)の開発を手掛けた経験から身をもって感じているものです。
しかも、ここで言う“生き物”と言うのは、備わっている機能は一人前ですが、それを発揮させるために必要な世話の内容から見た存在は“乳幼児”そのもので、四六時中傍にいて、授乳や排泄処理だけでなく、体温や泣き声や動きを観察してその変化を敏感に感じ取り、こと細やかに面倒をみる“母親”の存在が欠かせないと言う感じです。とは言え主治医は必要ですが、遠く離れており、いつでもと言うわけにはいかない“最後の砦”としての存在ですから、そのお世話にならないようにする“日頃の面倒見”こそ、子育ての基本と言うことになります。
これを設備に置き換えてみますと、設備も機能発揮(生きる)のためには“給油・点検・清掃”(授乳・観察・排泄処理)が必須ですし、不調の印として発せられる“発熱”“異音”“動きの変化”といった現象を敏感に感じ取って対処することが求められますが、それに応えることが出来るのは“オペレーター”(乳幼児にとっての母親)以外にはあり得ないという発想から来たものです。
従って、設備管理(育児)の極意は、給油・点検・清掃(授乳・観察・排泄処理)をきちんと行い“最後の砦”(保全や生技、乳幼児に対する病院)のお世話にならないようにすること、即ち“オペレーターによる完全自主保全”が理想と言うことになります。
この基本理念の肝である「設備を生き物としてとらえる」という点に対し、生き物と聞けば“成長”が一番に浮かび、強い違和感を覚えられると思いますが、この基本理念の“生き物”に期待する思いは「人が生き物に接するときの“愛情のこもったケア(世話)”」なのです。
この考えは、ロボットが導入され始めた時、作業者が、自分たちの“敵”として対峙した欧米では受け入れられないと思いますが、職場に設置されたロボットを“百恵ちゃん”(当時のトップアイドル山口百恵の愛称)と呼んで一生懸命世話をした日本人の感性があって...
ただ、“感性と思い”だけでは設備管理は成立しません。どのようにして設備管理に生かすのかを次弾から詳しくご説明したいと思います。
次回に続きます。