思考パターン 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その75)

更新日

投稿日

技術マネジメント

 現在、関係性の種類を解説しています。前回は関係性の種類の一つ「原因と結果」の中の「逆ピラミッド(複数の原因→一つの結果)」が起こる3つの要件の中から「要件1:多様な知識・経験を持つ」と「要件2:『超』俯瞰(ふかん)的視野を持つ」を解説しました。今回は「要件3:多様な思考パターン」をお話しします。

1. 要件3:多様な思考パターン

 「要件2:『超』俯瞰的視野を持つ」で様々な相矛盾するような知識の系を頭に入れるという解説をしましたが現実には、例えば、系が23ある知識とそれと相矛盾するような系が1045もある知識を『新結合』するということは、自分の頭の中であっても簡単ではありません。なぜなら膨大な組み合わせが存在する訳で、人間の脳でそれを全て行う事は不可能です。

 系:系とはイメージ的にいうと、頭の中に脈略を持ってある程度整理された系が複数あり、一方ではその整理された系の間の関係は矛盾や未整理の状態を許容し、それらの系が頭の中に同居するような系の状態

 また、一人ひとりの個人は誰しも、それまでの経験から生み出された固有の、言い換えると偏った思考パターン、思考のクセを持っているもので(それらの思考のクセはポジティブに考えると、上で述べた膨大な組み合わせの数を少なくするためのものとも考えられますが)そのような固定的な思考が更に『新結合』を制約します。

 そのため『新結合』の機会を増やすには、できる限り多様な思考パターンを持つことです。それでは、どうしたら多様な思考パターンを持つことができるのでしょうか?

2. 多様な思考パターンを生み出す3つの方向性

 私は、以下3つの方向性があると思いますので解説します。

  • (1) 思考パターンの固定化という問題を意識し、思考パターンを拡大する強い意志を持つ
  • (2) 個人単位で日頃から数多くの思考パターンを生み出す努力を重ねる
  • (3) 他人の思考パターンを学ぶ

(1) 思考パターンの固定化という問題を意識し、思考パターンを拡大する強い意志を持つ

 人間の思考はパターン化しマイオピア(近視眼)に陥るものです。人間の脳は、思考がパターン化されるようにできているように思えます。人間の学習や経験は、最終的には思考パターンという形で知識化され、頭に定着することで一連のプロセスは完了します。

 そして人間は、その後類似する状況に遭遇した場合には、間の知識化のプロセスをすっと飛ばして、それら既に頭の中に形成された思考パターンに基づき判断を行い対処します。それにより、瞬時にそれら状況に対応することができるという効果があります。これは、太古から厳しい環境を生き抜く人間の特徴でしょう。

 一方で、様々な状況において自身の頭の中で固定化された限定的な思考パターンを当てはめてしまうというマイオピア(近視眼)を生み出します。

 欲求五段階説で有名なマズローの言葉に「金槌しかもっていないと、全ての問題は釘に見える」というものがあります。まさに限定的な...

技術マネジメント

 現在、関係性の種類を解説しています。前回は関係性の種類の一つ「原因と結果」の中の「逆ピラミッド(複数の原因→一つの結果)」が起こる3つの要件の中から「要件1:多様な知識・経験を持つ」と「要件2:『超』俯瞰(ふかん)的視野を持つ」を解説しました。今回は「要件3:多様な思考パターン」をお話しします。

1. 要件3:多様な思考パターン

 「要件2:『超』俯瞰的視野を持つ」で様々な相矛盾するような知識の系を頭に入れるという解説をしましたが現実には、例えば、系が23ある知識とそれと相矛盾するような系が1045もある知識を『新結合』するということは、自分の頭の中であっても簡単ではありません。なぜなら膨大な組み合わせが存在する訳で、人間の脳でそれを全て行う事は不可能です。

 系:系とはイメージ的にいうと、頭の中に脈略を持ってある程度整理された系が複数あり、一方ではその整理された系の間の関係は矛盾や未整理の状態を許容し、それらの系が頭の中に同居するような系の状態

 また、一人ひとりの個人は誰しも、それまでの経験から生み出された固有の、言い換えると偏った思考パターン、思考のクセを持っているもので(それらの思考のクセはポジティブに考えると、上で述べた膨大な組み合わせの数を少なくするためのものとも考えられますが)そのような固定的な思考が更に『新結合』を制約します。

 そのため『新結合』の機会を増やすには、できる限り多様な思考パターンを持つことです。それでは、どうしたら多様な思考パターンを持つことができるのでしょうか?

2. 多様な思考パターンを生み出す3つの方向性

 私は、以下3つの方向性があると思いますので解説します。

  • (1) 思考パターンの固定化という問題を意識し、思考パターンを拡大する強い意志を持つ
  • (2) 個人単位で日頃から数多くの思考パターンを生み出す努力を重ねる
  • (3) 他人の思考パターンを学ぶ

(1) 思考パターンの固定化という問題を意識し、思考パターンを拡大する強い意志を持つ

 人間の思考はパターン化しマイオピア(近視眼)に陥るものです。人間の脳は、思考がパターン化されるようにできているように思えます。人間の学習や経験は、最終的には思考パターンという形で知識化され、頭に定着することで一連のプロセスは完了します。

 そして人間は、その後類似する状況に遭遇した場合には、間の知識化のプロセスをすっと飛ばして、それら既に頭の中に形成された思考パターンに基づき判断を行い対処します。それにより、瞬時にそれら状況に対応することができるという効果があります。これは、太古から厳しい環境を生き抜く人間の特徴でしょう。

 一方で、様々な状況において自身の頭の中で固定化された限定的な思考パターンを当てはめてしまうというマイオピア(近視眼)を生み出します。

 欲求五段階説で有名なマズローの言葉に「金槌しかもっていないと、全ての問題は釘に見える」というものがあります。まさに限定的な思考パターンしか持っていないと、常にその思考パターンに拘泥してしまうということです。

 上でも述べたように、思考のパターン化は決して悪いものではありません。しかし、問題は数少ない思考パターンに無意識の内に拘泥してしまうということです。そのため、日頃からこの人間の本質的な問題(マイオピア)を意識し、思考パターンを拡大しようとする強い意志を持つことです。

 それではそのような意思を持つにはどうしたらよいのでしょうか?

 それは、自分や自組織がいかに固定的な思考パターンに基づき思考してしまっているかを自覚することです。自分や自組織の固定的な思考パターンを認識する活動を「ばかり分析」と呼んでいます。

 次回はその解説をしたいと思います。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その165) 体感での思考とアナロジーとの関係

  これまで五感を一つ一つとりあげ、それぞれの感覚のイノベーション創出における意義と、そこに向けての強化の方法について解説してきましたが、...

  これまで五感を一つ一つとりあげ、それぞれの感覚のイノベーション創出における意義と、そこに向けての強化の方法について解説してきましたが、...


新たな時代の「ものづくり」(後編)商品企画と技術力の活かし方

1.商品企画の要点  前回は、「新たな時代の「ものづくり」(前編) 従来と異なる分野で事業化する」を解説しました。今回は、商品企画と技術力の活かし方です...

1.商品企画の要点  前回は、「新たな時代の「ものづくり」(前編) 従来と異なる分野で事業化する」を解説しました。今回は、商品企画と技術力の活かし方です...


普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その19)

1. 人間は合理性と非合理性を合わせ持つ生き物    人間に他の動物とは異なり、今ある高い文明を実現させたのは、合理的に思考するという人間の...

1. 人間は合理性と非合理性を合わせ持つ生き物    人間に他の動物とは異なり、今ある高い文明を実現させたのは、合理的に思考するという人間の...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
システム設計6 プロジェクト管理の仕組み (その38)

◆システム設計は仮説と検証の繰り返し     前回は、システム(ここでは製品も含めてシステムと呼ぶことにします)に必要とされる要件を漏れなく...

◆システム設計は仮説と検証の繰り返し     前回は、システム(ここでは製品も含めてシステムと呼ぶことにします)に必要とされる要件を漏れなく...


設計部門の課題と原因分析(その1)

【設計部門の課題と原因分析 連載目次】 1. 設計部門の現状を正確に特定する 2. 課題分析と課題の根本原因除去 3. 設計部門用に用意したコン...

【設計部門の課題と原因分析 連載目次】 1. 設計部門の現状を正確に特定する 2. 課題分析と課題の根本原因除去 3. 設計部門用に用意したコン...


CS-T法を起点とした技術開発プロセスとは、乗用車用エンジンの技術開発事例

▼さらに深く学ぶなら!「品質工学」に関するセミナーはこちら! 機能を起点に形を考案するというプロセスの成功例として,品質工学会でも多くの方々に大きな...

▼さらに深く学ぶなら!「品質工学」に関するセミナーはこちら! 機能を起点に形を考案するというプロセスの成功例として,品質工学会でも多くの方々に大きな...