イノベーションの活動を行うことを妨げる「失敗のコストのマネジメント」の解説をしていますが、今回もこの解説を続けたいと思います。
具体的には、ここまで考えてきた「踏み出すこと・踏み出そうとすることで発生する直接的コスト」×「心理的コスト」の内、心理的コスト(その2):エネルギーをセーブしたいと思う人間の基本心理が存在にどう対処するのが良いのかを考えていきたいと思います。
【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その142)へのリンク】
1.イノベーションのための最初の一歩を踏み出すことを妨げる「めんどくささ」
人間はめんどくさがりです。人間のこのような特徴を善意に捉えると、そもそも太古から人間は、常に危険な環境に身を置き、危機に直面した時にその状況に即時に対応できるように、常に備えておかなければならない、ということがあるように思えます。そのため、危機のない状況にあるときには、エネルギーを温存し、危機に備えるということがあり、それが「めんどくさがる」ということとも理解できます。
2.「めんどくささ」を払拭する方法
人間が本来持つめんどくささを払拭し、行動を起こすにはどうしたら良いのでしょうか?それには、私は次の5つがあると思います。
- (1)仕事を細かく分割する
- (2)隣接可能性の効果を信じる
- (3)第一歩を踏み出したことを自分自身でほめる
- (4)時間を掛けても良いと考える
- (5)行動を重視する習慣・カルチャーを作る
では、前回、(1)(2)(3)(4)まで解説しましたので、今回は(4)の続きからですが、この時間を掛けても良いと思えるようにするための長期での目標設定について、解説をします。
◆なぜ年初の抱負は実現できないか
年初にはその年の抱負を考える方も少なからずいると思います。しかし、その抱負は残念ながら毎年実現されないということが多いのではないでしょうか?それはなぜか?それは私は一年という時間軸が短すぎるからと考えています。一見、一年は長そうですが、現実にはそれほどは長くはありません。この点は、皆さん実感をされているのではないでしょうか。
前回は、イノベーションを駆り立てる長期の目標の要件を、ワクワク感を生み出すことであると述べました。またワクワク感を生むための3つの要件(〇目標を達成することは、自分、組織そして社会にとって真に大きな価値を生む、〇他人があまり設定しないようなユニークな目標、〇達成できる強い予感がある)に触れました。
逆に言うと、ワクワクするような目標を達成するには、長期の時間軸が必要であるということです。年初の抱負は長くても達成までに1年ですので、なかなかワクワク感を感じるような目標となりません。また、仮に上の3つの要件を満たす目標を「設定」できたとしても、達成は簡単ではありませんので、1年では短すぎます。また、年の半ばで年末までの達成ができないとわかると、急にその目標は色あせ、そこに向かって行動を駆り立てるということをしなくなります。
◆一年の目標ではなく、長期、例えば、5年、10年の目標を設定する
長期の目標では目標が色あせ、そこに向かって行動を駆り立てるということをしなくなることは起きません。ワクワクする目標が実現しやすくなりますし、仮にそれまでの半年後の進捗について振り返って、当初の計画より進んでいなくても、まだ達成までの時間は十分ありますので、むしろもっと頑張ろうという気持ちになるものです。
◆長期の目標を1年ごとにブレークダウンするということはしない
プロジェクトマネジメント的には、その長期目標達成に向けて、短期の目標とそのための計画にブレークダウンするということをする訳ですが、しかしイノベーション創出を目的とした長期の目標は、むしろそのようなブレークダウンはしない方が良いと思います。なぜでしょうか?そこには、2つの理由があります。