・前回の クリーン化について(その154)クリーン化の基礎(その16)の続きです。
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ここのところ半導体製造の分野が盛り上がってきました。しかも、ナノメートルの世界を目指しています。しかしながら、その土台、基盤がしっかりしているのか、クリーン化の基礎をきちんと持ち合わせているかと言うことを心配しています。何事も基本、基礎がしっかりしていて、その上で高いレベルへの挑戦が可能だと考えています。行き詰まった時、基本に帰れと言いますが、その基本はどこなのかと言うことです。
高いレベルを目指すとき、開発、設計、技術がしっかりしていても、それを具現化する現場の力は追いついているでしょうか。良く、理論的には可能だが・・・と言う言葉も聞きます。ものが作れなければ、現場との乖離は大きく、理論、理屈の話で終わってしまいます。いずれの企業の成功をも願いながら、桁違いの投資額ですから、損益分岐点はどの当たりになるのだろうか。企業間の差は顕著に出るのかなど気になります。その危機感を感じているので、クリーン化の基礎の部分に立ち戻り説明していきます。
【防塵衣についての不具合事例】
防塵衣を着用する理由は、これまでも説明してきましたが、その理由を知らず、防塵衣という白い服を着ただけで安心してしまう事例が次のようにたくさんあります。前回、防塵衣の不具合事例 a~c を紹介しました。今回は、その続きです。
【食品関係の防塵衣について】
今まで説明してきた内容は、電気、電子、精密、機械などものづくりを対象にした話題の解説、説明です。医薬、食品は対象外ですが、心配になっていることがあるので取り上げます。
少し古い話ですが、中国で食の問題がありましたね。この時、日本の食品業界は大丈夫かと、取材してTVで放映されたことがありました。TV局のクルーが、ある食品会社を訪問した時のものです。会社の役員の方がTVカメラを引き連れ、クリーンルームへ入って行く風景から始まりました。防塵衣に着替え、手袋をして、靴洗い機で靴を洗い、エアシャワーを浴び、クリーンルームに入って行きました。雑菌なども持ち込まないよう、靴も洗浄していることが良く分かりました。クリーンルーム内での説明のあと「当社の原材料は外の倉庫に保管してあるので、それも見てください」 と言って裏口から出て行ってしまった。エアシャワーもなく、1枚の扉の向こうは外でした。
そして倉庫の中の状態を見せ「うちはこんな風にしっかり管理しています」 と説明し、また先ほどの裏の扉からそのままクリーンルームに入ってしまった。折角洗った靴も洗浄せずに入るのです。これを見て、日常的に経営者、管理職の方もそうされるのだろうと思いました。すると、それを見て作業者も同じことをしているのだろうことは容易...
私はこの時“なぜ防塵衣を着用するのか理解されていない”と思いました。特に食品なので心配になります。着用したまま屋外に出ると、微生物やバクテリア、病原菌などが付着する可能性があります。最近では菓子メーカーでもっと大きな昆虫の混入も報告されています。それら連れて持ち込むことになるのです。それらが消費者から報告される例も時々出てきています。
自宅で洗い、屋外に干した洗濯物を取り込むと、虫がついていることもありますね。このクリーンルーム内はバクテリアや微生物、昆虫などは生存しやすい環境です。エサや水があり、適度な室温なので産卵もするでしょう。会社の経営者や管理監督者がやっているので、恐らく作業者も疑問を持たず、同じことをしているのだろうことが容易に想像できます。その作業者が持ち込むものも多いでしょう。
消費者が購入した製品中にそれらが入っていたら、大きなクレームになるでしょう。もしかすると出荷した全品を回収することになるかも知れません。健康上、衛生上の問題なので、会社の信頼性やイメージも損ねてしまうでしょう。あんなものを食べていたんだねと。
もう一つ、最近、TV番組やCMなどで、防塵衣を着用して屋外で集合写真を撮っている風景を見掛けることがあります。もちろん、食品業界だけでなく、精密製品製造の会社紹介でも見かけます。これも、何のために着用しているのか疑問に思います。白い服を着て安心してしまう例です。
単に画像を見ているだけでなく、おかしいと感じてもらいたいのです。CMなどの写真や動画を撮影する時に、そのような専門家の意見が反映されれば良いのでしょうが、そのようなことはされないのでしょう。また、クリーン化の目でCMを見ている方がいれば、不具合には気づくでしょう。
【用語解説】
管理清浄度:クリールーム空間の清浄度合いを等級分けしたものを「清浄度」といいます。清浄度の等級・クラスは、『アメリカ連邦規格』(Fed.Std.209E)と、『JIS方式』(B9920)、『ISO規格』(14644-1)に大別されます。
【なぜ防塵衣には着用順があるのか】
防塵衣の着用順は防塵衣のタイプや会社の考え方、思想により若干違う場合がりますが、ここでは基本的な着用順序を説明します。
図.防塵衣の着方・脱ぎ方の順序
【防塵衣の着方】
- ①フードを被る。ここでいうフードは単に帽子のようなものではなく裾が長いものです。
- その上から②繋ぎを着る。つまり、フードの裾は繋ぎの中に入ります。
- その繋ぎの裾の上から③ソックスを履き、最後に④防塵靴を履きます。
ソックスと防塵靴は別々なタイプと一体型があります。この理由は後で説明します。この順序はすんなり着用できる順番でもあるからです。
【防塵衣の脱ぎ方】
今度は脱ぐ順番の説明です。クリーンルームから二次更衣室に出てきたら、① 防塵靴 ② ソックス ③ 繋ぎ ④ フードの順番で脱ぎます。上図のように、着用した順番とちょうど逆に脱ぎます。
二次更衣室に出てきた際、真っ先にフードを脱いでしまう場面に遭遇することが多々ありました。注意が必要です。それでは、フードを最初に脱ぐとどうなるのかを考えてみましょう。フードは最初に着用するので、重ねの順番では一番下になりますね。繋ぎはまだ着ているので、その内側からずるずると引き出すことになります。その時、防塵衣の内側や下着(Tシャツや中間着)に付着している髪の毛、皮膚、繊維、化粧品などが一緒に引きずり出され、繋ぎの清浄な部分に落下、付着するものも出てきます。
“またクリーンルームに入る時にエアシャワーを浴びるので良いだろう”とも考えられますが、一度付着したものは取れ難いのです。それがクリーンルーム内での様々な動作や行動で落下や飛散するのです。
『クリーン化4原則』 のうちの、“持ち込まない”、“発生させない”の部分に逆行することになるのです。従って、着用順番の逆に脱ぐというのは、重ねて着用していったものを、外側から順次剥がしていくという考え方です。これは清浄度の高い部分と汚れている部分を接触させないということです。
【ゴミの動き】
この着用順序で、ゴミはどのように動くかを考えましょう。フードの内側にあるゴミ、および発生したゴミ、例えば髪の毛、繊維、皮膚、化粧品などは顔面の開口部から吹き出すものも少しはあるでしょう。でも多くはフードの内側を伝い落下します。それを繋ぎの内側で受け、さらに落下したものはソックス内に回収されます。最後のゴミの処理方法は2つあります。
ソックス、或いはソックスと靴の一体型のものは、その中で回収されます。その後の着脱でソックスから出てきてしまうものは、二次更衣室の清掃で回収します。また中に残ってしまうものはクリーニングで除去すると言う考え方です。乱流方式のクリーンルームで着用しているものの多くはこちらを採用しています。
もう一つは、繋ぎの裾が少し開いているものを採用しているタイプのゴミの処理方法です。この場合靴もショートブーツと呼ばれ丈が短いです。周囲に少し短い生地が付いていますが、繋ぎの裾を覆うような長さではないので、繋ぎと裾の間には隙間が出てしまいます。繋ぎの裾も広がっています。繋ぎの内側を落下したゴミは、靴では回収することができず、クリーンルーム内に漏れ放題です。このタイプを採用しているところは清浄度の高いクリーンルーム(層流方式)です。
清浄度の高いクリーンルームは、床全面が穴開きであり、落ちてきたゴミはそのまま床下まで落とすということです。つまりクリーンルームの構造と防塵衣の仕様をセットにした考え方です。最後のゴミの処理の仕方は分かれますが、どちらも防塵衣の内側で発生したゴミを、下へ落とす考え方は同じです。
次回に続きます。
クリーン化のこと、活動の進め方、事例など個別に対応が必要でしたら、ものづくりドットコムを通じてご連絡ください。可能な限り対応致します。また、セミナー、講演会なども対応致します。
【参考文献】
清水英範 著、 「知っておくべきクリーン化の基礎」諷詠社 2023年
同 電子版 「知っておくべきクリーン化の基礎」、諷詠社 2023年
同 「日本の製造業、厳しい時代をクリーン化で生き残れ!」諷詠社 2012年
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