ここのところ半導体製造の分野が盛り上がってきました。しかも、ナノメートルの世界を目指しています。しかしながら、その土台、基盤がしっかりしているのか、クリーン化の基礎をきちんと持ち合わせているかと言うことを心配しています。何事も基本、基礎がしっかりしていて、その上で高いレベルへの挑戦が可能だと考えています。行き詰まった時、基本に帰れと言いますが、その基本はどこなのかと言うことです。
高いレベルを目指すとき、開発、設計、技術がしっかりしていても、それを具現化する現場の力は追いついているでしょうか。良く、理論的には可能だが・・・と言う言葉も聞きます。ものが作れなければ、現場との乖離は大きく、理論、理屈の話で終わってしまいます。いずれの企業の成功をも願いながら、桁違いの投資額ですから、損益分岐点はどの当たりになるのだろうか。企業間の差は顕著に出るのかなど気になります。その危機感を感じているので、クリーン化の基礎の部分に立ち戻り説明していきます。クリーン化について(その142)クリーン化の基礎(その4)の続きです。
◆ クリーン化活動、3つのポイント
ものづくり企業にとって、現場を綺麗にし、それを維持、管理することは最も大切な基本要素です。これは稲作のところで説明した水面下の部分、現場にとってはベースの部分です。私のクリーン化における長年の現場経験から、活動の取り組みは3つに整理できると考えています。前回に続いて、ポイントの3です。
(3)クリーン化はすべてのベースである
以下のまとめたものうち、グラフの部分を解説します。
私はこれまでの経験から、クリーン化をベースに、この4つの項目が強い関係があると考えています。
① 安全確保とクリーン化との関係
ある半導体製造の前工程(原料投入からおよそウエハー状態の完成までを指す)で、作業者がウエハーの入ったカセット(専用容器)を両手で掴み、工場の中央通路を運んでいた。その作業者が途中で方向を変え、設備の間の狭い通路に入って行った。方向を変えた理由は、その奥に顕微鏡があり、外観検査をするため、近道をしたのです。
その時、細い通路両側の設備から出ている電源コード、信号関係の配線、真空、圧空、窒素などの配管、チューブ類に足を引っかけて転んでしまった。カセットだけでも重いのに、そこに大口径のウエハーが25枚入っていたので非常に重くて片手では持てなかった。この作業者は、前工程の最終工程で完成したウエハーの単価は非常に高額だということを知っていたので、放り出すことができず、製品を持ったまま転び、顔を打ち怪我をしてしまった例です。
製品は何とか守り、不良品にはならなかった。ここまでは、“床を這っている配線、配管類につまづいて転倒し、顔を打った”という労働災害です。これをクリーン化側の視点で見ると、配線、配管などが床を這っているため清掃しづらく、ゴミ溜まりになってしまう。そして、段々と清掃しなくなるのです。
それを見た別の作業者が配線、配管類を束ねて持ち上げておけば、コード類の下も清掃しやすくなる。その上で、狭い通路は通行止めにすれば、このような事故も防げると思った。早速、結束バンドで束ねる作業に入ったが、その上にもコード類が走っていて、すでに自分が考えたように結束バンドで束ねてあった。その結束バンドの尻尾が自分の方に向かっていて、点にしか見えない、つまり視角に入らず目を突いたという事故が発生してしまった。これも労働災害です。結束バンドは、一度縛ると解いて再使用することができないタイプが多い。従って、もう尻尾は不要なのでその場で切ってしまうことです。
この事例はセミナーの中でも紹介しています。その休憩時間に、「同様の事故があった」 と言ってくる人がいました。同様の話を数件聞いているので、潜在的には沢山あるでしょう。結束バンドで束ねることが優先され、安全の確保までには至らない。軽く考えてしまうのです。
私がそのことを知っていて、過去いろいろな企業の現場指導で、結束バンドの尻尾が切られてないものを見掛け、指摘すると「あなたはクリーン化の指導に来たのに、どうして安全のことまで言うんですか?」と言われたことが何回かありました。
・安全はすべてに優先
気が付いても指摘せず、目の前で事故が起きたら、どんなに悔やむことでしょう。不安全なことは、気づいた人がその場で指摘し、事故、災害を未然に防いで欲しいのです。
② 利益確保とクリーン化の関係
この項目は、ゴミ、汚れを原因とした不良品を作らないということです。工程中で不良が発生したり、廃棄するものが出ると、その分、利益が減ってしまう。お客様への納期が守れず、納入数も不足すると、追加で補填するでしょう。その分納期遅れが発生し、Q(品質)、C(コスト)、D(納期)いずれにも影響します。これがあまりにも多いと、利益を圧迫したり、あるいは赤字になってしまいます。
不良、廃棄されたものも、その工程までに関わる原材料、電気、ガスをはじめとするエネルギー、検査作業など細かく見みていくと、様々なロスがあるわけです。じわりじわりと侵食するように、利益が削られていくのです。そして納期が守れないと信頼も損ねてしまう。
“クリーン化活動は経営に直結する”と言われる理由の一つです。ゴミ、異物が原因で廃棄されるとしたら、それらを工程中でどのように排除していくかが、クリーン化活動における不可欠な要素です。
③ 安定生産とクリーン化の関係
ある設備で加工したところ、製品にゴミや汚れが付着し、やり直し、手直しが発生していた例があります。それらが発生すると、洗浄や手直しをする、つまりその設備で二度、三度と繰り返し作業をすることになるわけです。前工程から流動されてきた製品は、この工程の手前で溜まってしまい、在庫になります。
この在庫を何とか流動しなければ、客先への納期遅れが発生します。その対応のために、その工程では残業、休日出勤、人員応援などをすることになるでしょう。すると、次の工程では、今まで製品の流れが少なく、手空きが発生していたのに、急に山ほど流動されてきて、迷惑だというぼやきや不満が出てくる。これは、自分の工程の設備が悪く、次の工程に迷惑をかけたということです。
ものづくりでは、“次工程はお客様”という考え方がある。その次の工程も、不満や愚痴を言いながらも、納期を守ろうと、やはり無理をするわけです。設備でゴミ、汚れが付着し、やり直し、手直しが発生、在庫を抱える、それを無理に流動しようとする。その工程で起きたさざ波が徐々に増幅し、やがて次工程だけでなく本当のお客様に対しても納期を守れないかも知れません。
同じ繰り返しをしていると、仕事が途切れてしまうかも知れません。客先との関係が途切れるということです。一方で、生産管理では、この設備はやり直し、手直しが2度発生することを前提にした生産計画はないので、その分、在庫が増加してしまうのです。1回で通過しなければ、やり直し、手直しの時間や工数、電気、薬品、ガスなど原材料...