国内の半導体事業が盛り返してきそうですが、例えば、熊本ではTSMCの第一工場が建設中です。さらに第二工場の建設が決まり、第三工場、さらにその先も検討もされているとの情報もあります。九州はシリコンアイランドと言われるように国内の大手メーカーが集結しています。これらの大手メーカーも工場の増設などが進められているようです。北海道千歳でも半導体工場の建設が始まりました。さらに広島県、宮城県などにも工場建設の話が出てきました。
活況を呈するというのは良いことかも知れませんが、一方で現在の日本では少子化が進み、また一旦衰退した分野ですから技術者、作業員をはじめとした人財の確保が難しいようです。それ以前に、建設業界、建設資材、各種プラント業界、そして設備メーカーなどを確保できるのかも気になるところです。そして、繋がるサプライチェーンの引き合い、確保も水面下で始まっているのではないでしょうか。
私が特に気にしているのは人財の確保です。
日々の報道を見ていても、様々な分野、業界で人財不足が報じられています。それに対し、人財の確保が急務だとか、政府も予算をつけると言う対応が多いと感じています。お金を掛けるだけでは、人財確保は難しいでしょう。
余談ですが、私たちは介護に対して税金や介護保険等では、多額の出費になっています。でも、お金だけ集めても、少子化が加速しているのですから、国民負担は厳しくなります。これからの人たちが本当に介護して貰えるのでしょうか。
2022年12月に体調を崩し、9日間入院しました。苦しい日々でしたが、医師や看護士の皆さんなど、いろいろな方の昼夜の介護のお陰で、無事退院できました。入院時は気持ちが暗くなったり、不安が増大します。しかしこの時は大勢の皆さんの心を感じる対応で、安心して過ごせました。これがロボットだったら、心の不安を取り除けただろうかと思った時もありました。このように人不足です。人財確保と言っても、その人財は本当にいるのでしょうか。その財源はどこから出てくるのか、誰が出すのかと色々考えてしまいます。
同じようなことが、今回の半導体事業でも起きないでしょうか。
専門性の高い人を募集しても、これまでの長い停滞期間で失ってしまった開発、設計、技術、品質などの人財に集まってもらうのは大変なことだと思います。優秀な人財が海外へ出て行ったと言う時期もあります。本来はそのような人たちが、後継者を育て、繋いで行くべきではなかったかと思います。その環境がなくなってきたのですね。
また設備の保守、管理、オペレータの確保も同様に難しいでしょう。そして、今までよりも桁違いの微細製品の製造に立ち向かう訳ですから、どのようなマスタープランを描いているのか知りたいところです。専門性の高い人は、恐らくその企業の色に染まっているでしょう。そのような人たちが集まった時、ベクトルが合うのでしょうか。そんなことを心配しています。
話は違うのかも知れませんが、これまでの企業の合併を見ても、なかなか上手くいかないですから、進捗に停滞が発生するでしょう。それらに伴って様々なロスも発生すると推測します。そして成果が出せるまでに時間が掛かってしまうでしょう。同じような製品製造に取り組むのにも、スタートから、あるいは途中から差が出てしまうのではないかと思います。
さらにこの本体だけでなく、それを支える枝や根が必要です。つまりサプライチェーンの確保です。ここもしっかりしていないと、根元から枯れたりすることが起きるかも知れません。私がイメージするのは竹箒です。竹箒は竹に枝を巻き付けた物です。この枝が先の方に行くと徐々に細くなり広がっています。これできちんと掃除ができるのです。この細い部分は、毛細血管のようにも見えます。この先端が段々劣化して折れたり抜けたりすると、しなやかさが無くなり、地面には筋が入るがゴミは除去できません。この毛細血管に至るまでが、サプライチェーンだと考えています。毛細血管が機能しないと、徐々に本体に影響が出ます。
話は逸れますが、私は大動脈瘤が偶然発見され、その除去手術の前に、他にも悪いところはないか検査したところ、冠動脈にも異常が見つかりました。血流が途切れるのです。その血流を確保するために、ステントを挿入しました。大動脈瘤除去部分は、人工血管に置き換えましたが、このような部分はまだ幾つかあり、そのせいか体調も優れないのです。それと同じような気がします。体内の物は全てがサプライチェーンと同じで、きちんと機能しなければ、徐々に異常が出てくるのです。
現在では半導体の工場の現場には、私のような部外者が容易に入れるわけはありません。そこで、傍観的な見方ですが、優秀な人財を集めるだけでなく、今抱えている人たちが現場の基盤、強化に貢献できるよう、きちんと教育をしておくことも重要なことではないでしょうか。
【プロ野球に見る人財育成】
人財育成で私が気になっているプロ野球界のことを紹介します。ドラフト会議で名前が挙がり、入団が決まった時は華々しいですね。この選手達は、入団してすぐに成績(結果)が出せる人もいます。でも入団前までは優秀だった選手でも、すぐに成果を出せない人もいます。そのきっかけを見いだせないまま、2~3年もすれば契約されない選手も出てきます。この人たちに対してきちんと育てたのでしょうか。将来のことも考えて。
一方で、大金を用意し、各球団の中軸の選手を引き抜いても、その球団の成績はどうでしょうか。入団選手はその球団が採用したわけですから、コツコツと育成すべきです。すぐに契約解除されても、その人たちの将来はどうなるのでしょうか。大器晩成型という人もいるでしょう。もちろん長くは待てないでしょうが、その人を良く観察し、育てていくことで、芽が出るのではないかと思います。監督でも、怒ってばかりいるような感じの人も見ます。成果を急いでいるのでしょう。でもこうなると監督の顔色ばかり気にしているように見える選手もいます。
逆に、その選手を信頼して、怒らず笑顔で采配している監督もいます。こうなると萎縮せず、伸び伸びと、そして能力を発揮できるでしょう。ここに試合という現場で差が出ると感じます。このような監督もいますね。
このことは、先ほどの企業が採用した時から、どのような教育をしたのだろうかと言うことと同じ気がします。
人財確保が厳しい現在、外部から引っ張ってくるだけでなく、きちんと教育をして、育てていくことも重要です。ものづくりでは、現場の基盤、体質が強いかどうかにより、企業競争力に差が出ます。そのベースになるところは、クリーン化教育だと考えています。経営者、管理職、開発、設計、技術、品質、事務部門等の社員全員に同じ教育をしておくことが必要です。
クリーン化を簡単に捉えている方も多いと思います。上記のような企業の中では、テーマに上がっていないところもあるでし...
私のセミナーでは、現場の方だけでなく、大手企業の技術者が受講されることも多いです。その理由を聞いてみると、現場とは距離があり、現場のことを知らないと言うことです。どんなに優秀な技術者がいても、ものづくりは現場で行います。“現場とは、その場に現れる”と書きます。“品質は現場で作り込む”ので、その現場を知り、連携していくことが重要なことです。ものづくりは個人の力だけではなく、総合力です。ましてや今までやったことのない超微細の製品製造を実現しようとしているのですから。
次回は、私が取り組んできたクリーン化教育、退職後のクリーン化セミナーについてお話します。
【参考文献】
清水英範 著、 「知っておくべきクリーン化の基礎」諷詠社 2023年
同 電子版 「知っておくべきクリーン化の基礎」、諷詠社 2023年
同 「日本の製造業、厳しい時代をクリーン化で生き残れ!」諷詠社 2012年